羽海野チカ「ハチミツとクローバー (5)」

なんだか 時が止まっているような気がした

いなくなっている間
眠っている 間

でも そうじゃなかった
ただ自分だけが 進んでいないだけだった

これからどうしよう
どんな自分になりたいんだろう
どんな未来を選びたいのだろう

我儘みたいに
こうなったら嫌だな
だけはあるのに

それはきっと
目指すものが
どこにもないからだ

何もしてこなかったわけじゃ ないのに
目の前のことを ただ一生懸命してきただけで
何も 選んでこなかったんだって

必死で食らいつくように
選んで 決めて 上手くいかなくて
落ちこんで それでまた一から作り直して

そうやって 手の中に残った手応えしか
未来に持っていけないんだって
もっとはやく 気づいていれば よかったのかな

悔しい
でも嬉しい
温かくて痛くて胸が締め付けられるような
この感情の名前は 分かっているのに
どれにも 当てはまらない 気がして

人に向けた好きを
じゃあ 自分が向けられたら?
なんて 考えたこともなかった

本当はずっと 気づいていたはずなのに
本当は もっと早く 言葉にするべきなのに

どうしよう
大切な人と
好きな人がこんなにも違うなんて
分かっていたのに なのに。

零れ落ちないように
両手で必死に器の形にして
花で溢れるような優しさを
どうかあなたに

あなたがどうか
幸せでありますように

―――――――

ハチミツとクローバー(4)
https://note.mu/poet_ohno/n/n57d8489e43d6


ハチミツとクローバ―(6)
https://note.mu/poet_ohno/n/na887a3678f49?magazine_key=mf112a52f1a27



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