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映画音楽/打ち込みと生録音の間で

音担当茂野雅道です。
音楽作りについて少し書いてみます。

私が映画音楽を作るときよく直面する課題に、音楽を打ち込みで作るか、生演奏を生録音するか、ということがあります。
打ち込みとはパソコンを使って音楽を作ること。通常音楽家自身が所有する機材で全てを作るので、予算が少ないときはこのやり方になります。
生録音とは、レコーディングスタジオに歌手や演奏家を呼んで、歌や生演奏を録音すること。当然かなり費用がかかるので、ある程度予算のある作品でなければできません。
その中間くらいの予算のときは、打ち込みと生録音の融合もあります。

私は、打ち込みで生っぽい音楽を作ることを長い間続けてきましたが、それでも歌や楽器の生録音が欲しくなることは今でもよくあります。
今回は特別に今年公開の3作品を取り上げ、デモ段階の打ち込みバージョンと本番生録音後のバージョンを両方お聴かせします。
なぜ費用をかけてでも生録音をするのかを分かっていただけると思います。


「遠いところ」

今年7月7日から全国公開された工藤将亮監督「遠いところ」(沖縄は6月9日から)
この作品では、劇中の挿入歌を、歌手の平川めぐみ氏に依頼しました。

歌は、打ち込みで作ることの難しさが他の楽器に比べても高く、たとえ歌詞がない曲でも、打ち込みでは満足なクオリティーをなかなか出せません。
「遠いところ」でも、歌は生での録音が必要という判断になりました。
全て打ち込みで作ったデモバージョンと、歌を生録音したバージョンを比較してみてください。

[歌:打ち込み]  (18秒から歌)

そこそこいい声の音源を使っているので、声の切り方など、もう少し丁寧に打ち込めば、それなりに聴こえるかもしれません。
ですが、、、

[歌:生録音]

やはり歌は生録音でないとだめですね!
打ち込みでは、歌い方に変化や抑揚を作りにくく、どうやっても生の歌にはかないません。そうあらためて思ったレコーディングでした。

この曲「遠い海の子守唄」を含む全14曲が収録されているサントラアルバム「遠いところ Original Soundtrack」が主要配信サイトからリリース中です。検索して見つけてください。

遠いところ Original Soundtrack



「オジさん、劇団始めました。」

8月18日より全国公開された山本浩貴監督「オジさん、劇団始めました。」

この作品では、ハーモニカ、ブルースハープを生録音しました。
演奏は小倉綾乃氏。まだ若い彼女ですが、高校時代に大人に混ざってハーモニカ全国コンテスト・ブルースハープ部門で優勝したことがある強者なのです。実は俳優でもあり、工藤監督「遠いところ」に出演していたことで知り合いました。

本作品は、元々全て打ち込みで音楽を作る予定で進めていました。
そんなとき、小倉綾乃氏が出演した映画「のさりの島」の劇中、街角でブルースハープを吹いている姿を見て考えをあらため、急遽演奏を依頼しました。

打ち込みバージョンと生演奏バージョン、比較して聴いてみてください。

[ハーモニカ:打ち込み]  (19秒からハーモニカ)

全て打ち込みで作るつもりでいたので、このときはけっこう頑張って生っぽく打ち込みをしていました。
ですが、、、

[ハーモニカ:生演奏、生録音]

生演奏のほうがいいですね!
一つひとつの音、音と音とのつながりを聴くと、ハーモニカが生きている、呼吸している感じがします。

こちらもサントラアルバム、リリース中です!

「オジさん、劇団始めました。」サウンドトラック



「市子」

3つ目に取り上げるのは、戸田彬弘監督「市子」。
いよいよ来週12月8日より劇場公開が全国で始まります。

この作品ではチェロを生録音しました。
演奏は、蜷川幸雄監督「蛇にピアス」など私の作品でこれまで何度も演奏していただいている岩永知樹氏。

レコーディングには戸田監督も立ち会い、この映画で描きたいものは何か、その音楽がどういう意味を持つのか、なぜそこにチェロが必要なのかを岩永氏に丁寧に伝え、コミュニケーションをとりながら進めていきました。そこから引き出された感性が演奏に反映されています。

先ずは、打ち込みデモバージョンです。
この後に生演奏生録音をすることが決まっていたので、この打ち込みバージョンがそのまま世に出ることはないという前提のデモでした。

[チェロ:打ち込み]  (33秒からチェロ)


次に、岩永氏の生演奏バージョン。

[チェロ:生演奏、生録音]

この音楽が入るシーンでは、主人公市子(杉咲花)の回想に市子自身のモノローグが重なります。そのアフレコに私も立ち会っていました。どういう感情でモノローグを読むかを、監督、杉咲氏、私とで確認し、同時に音楽の方向性を話し合って決めた重要なシーンでもあります。
チェロの生演奏により、そこにもう一つの色彩が重ねられ、映画「市子」は完成しました。
12月8日から公開です。ぜひ劇場でご覧ください!

「市子 Original Soundtrack」が映画公開に合わせてリリースされます!
検索して見つけてください! せひ聴いてください!


打ち込みと生録音の間で

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