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詩は世界をつなぐ ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~ 第1回

こんにちは。ポエトリースラムジャパン代表、村田活彦です。
私がポエトリースラムジャパンを始めたきっかけは、2014年のパリでポエトリースラムW杯に出会ったことでした。そのときのことは、駿河台出版社さんのサイトにエッセイとして連載しました。今回、あらためてこのnoteに転載していきたいと思います。


フランスでSLAM(スラム)といえば、詩の朗読の競技会はもちろん、ポエトリーリーディング自体のことを指します。そしてフランスは、アメリカやほかの他のヨーロッパ各国と比べても、スラム(ポエトリーリーディング)が盛んな国です。コンサートホールを満員にするスラム・アーティストもいるくらい。
このエッセイで書いたのは、2014年5月〜8月のこと。パリはもちろん、フランス各地でポエトリーリーディングを体験した記録です。初出から加筆、修正、割愛する部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。
ポエトリーリーディング やポエトリースラムについて、さらに興味を持っていただくきっかけになれば幸いです。


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5月26日、パリ11区。時計は夜8時だけど、こちらではまだまだ明るい時刻。
地下鉄3号線Parmentier(パルマンティエ)駅で降りてAvenue Parmentier(パルマンティエ大通り)を北に向かい、最初の交差点で左折するとそれがRue Jean-Pierre Timbaud(ジャン=ピエール・タンボー通り)。そのまままっすぐに歩いていくと左手に黒い壁のカフェが見えてきます。ドアのガラスに描かれたロゴはDOWN TOWN CAFÉ(ダウンタウン・カフェ)。そして入口の脇にある黒板にはチョークでSLAM(スラム)と書かれてあります。店のなかはすでにひとでいっぱい。カウンターもテーブル席も、ひとつだけ置いてあるソファも満員、立ち見のお客さんもいて通路もないくらいです。70〜80人もいるでしょうか。それも黒人白人アジア系、若者からご年配まで様々です。そんな熱気の中にいて、私は緊張のあまり心臓がどんどん早くなっていくのを感じていました。間もなくここで、詩の朗読会がはじまるのです…。

このポエトリーリーディング、フランスでは日本よりずっと盛んだとかねてから聞いていたので、一度は実際に見聞きしてみたいと思っていました。一念発起してフランス語教室に通ったりしたのですが遅々として上達せず、ええいままよ、とにかく行ってしまえ!ということでパリの語学学校に留学を決め、シャルル・ド・ゴール空港行きの飛行機に乗ったのが2014年5月のこと。空港からRER(パリ高速鉄道)のB線で市内に入ると、スーツケースをひきずったままパリ在住の知人のアパルトマンに直行しました。さっそく「実はポエトリーリーディングのイベントを探していて…」と、今思えば自分でもどうかと思うほど前のめりに相談したのですが、その場でネット検索していただき、いくつかカフェやイベントの目星をつけることができたのでした。ただただ感謝。

そのとき検索のいちばん最初に出てきたのがDOWN TOWN CAFÉ(ダウンタウン・カフェ)でした。この店で毎週月曜日夜8時からポエトリーリーディングのオープンマイクが行われているとのこと。いざ初陣!というわけで5月26日、出かけました。パリ11区のParmentier駅から徒歩5分。黒い壁のオシャレっぽいカフェです。ドアの脇の小さな黒板にはSLAM, scène ouverte の文字が。ポエトリーリーディングのことをフランスではSLAM(スラム)というんですね。

時刻は夜の7時半。とはいえ、いわゆる夏時間のため外はまだ昼間のような明るさ。ドアを入るとすでに結構な人数が集まっています。60人くらいでしょうか。バーカウンターとテーブルが7〜8つ、ソファがふたつぐらいなのでそれだけで満員です。集まっているのは小学生からおじいさんまで、黒人白人アジア系いろいろ。天井はカラフルなグラフィティで彩られ、万国旗が揺れています。あ、カウンターで手を振っているのは、待ち合わせをしていたパリで暮らす別の友人Mさん。ああ、よかった。かなりアットホームな雰囲気みたい。お店のサイトがヒップホップ調だったので、強面なヘッズが集まる場所だったらどうしようと多少身構えていたのですが、いたって健全そう。壁ぎわの丸テーブルに司会者らしき兄ちゃんがいて、詩の朗読をするには彼に名前を伝えます。参加は無料。

やがて8時を過ぎ、お客さんがさらに増えて後ろの方は立ち見になったころ、本日のスラム開幕です。先ほどの司会兄ちゃんに紹介されてまず登場したのは、モヒカン頭のウッドベーシスト! いきなりアップテンポで弦を弾き始めたかと思うと「Slam au DOWN TOWN!  Slam au DOWN TOWN!」とシャウトして一気にオーディエンスを沸かせます。な、なんかすごいぞ。それを受けて司会者が最初の朗読詩人を呼び込みます。「ほにゃらららららしるぶぷれ!」としか聞き取れませんが「今日のトップバッターはお馴染みのこの人だ、みんな拍手で迎えてくれ!」というようなことを言っているのでしょう、たぶん。

司会者に名前を呼ばれたら前に出て自作の詩を読む、というルール。もちろん私もMさんもエントリーしたのだけど、エントリー順に呼ばれるわけではないらしく、いつ順番が来るのかわかりません。朗読のスタイルも様々。紙に書いたテキストを読みあげる文学青年っぽい若者もいれば、朗々と吟じるおじさんもいます。車椅子の女性は常連らしくお客さんから盛んに声援が飛びます。ラッパーのように韻を踏んでリズミカルに朗読する常連詩人はやはり人気みたい。パフォーマンスが終わるたびに、いや朗読の合間でも拍手や歓声があがります。お客さんもただ聴くだけじゃなくて音楽ライブのように盛り上がっていて、いわゆる「詩の朗読会」のイメージとはかけ離れた賑やかさ。これがフランスのスラムか!

そして、最初に登場したウッドベースのモヒカン男。Dgiz(ジーズ)という名の彼が実はこの日のスペシャルゲストで、朗読に合わせてウッドベースを弾いてくれます。それも詩や朗読の雰囲気にあわせてメロウにしたり激しくしたり自由自在。スキャットを入れたりボディパーカッションでリズムをとったり、さらには読んでいるひとに茶々を入れる感じで絡んで笑いをとったりもする。イベントの途中で彼のソロコーナーもあったんですが、ベース弾きながらマシンガンラップを披露していました。なんという芸達者。

そうこうしているうちに、Mさんが名前を呼ばれ、英語で詩を披露。ゆっくり丁寧に発音しているのでちゃんと意味も伝わっているみたい。すごい。私の出番はまだか…と緊張でいいかげんくらくらしてきたころ、司会の兄ちゃんの声が。

「KATSU!」
さあ、呼ばれてしまった。

次回に続きます!


(村田活彦/駿河台出版社 web surugadai selection より転載)


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