荒木田慧01

怒られるかもしれないけれど、読んでみよう。むき出しの勝負こそ美しいから。<PSJ2018ファイナリスト・荒木田慧>

彗星のごとくポエトリースラムジャパン (以下PSJ)2018前橋大会に現れ、優勝を果たした荒木田さん。全国大会でも引き込まれるパフォーマンスで、私たちに深い印象を残しました。彼女の詩はどこからやってくるのでしょうか。その震源地を探ります。

心と言葉がつながる瞬間、詩作から朗読への道

-荒木田さんが詩を書き始めたきっかけを教えてください。

荒木田:もともと、なにか書きたいとか作りたいという衝動はありました。小学校のときとか、小さい頃は作文が結構好きで、自分で作った物語を母にワープロで打ってもらって本の形にしてみたこともあります。

-それは今でも残っていたりするんですか?

荒木田:探せばあるけど、今すぐには見つからないと思う。二つくらい作ったかな。…でも小学校6年生のときに、また書いてみようって思ったんだけど、昔みたいに書けないっていうのを実感しました。毎日何でもいいから自習して先生に見せる宿題で、私は毎日1ページ物語を書いて見せていたんですよ。その物語が、わざとらしいというか、とってつけたようなものしか書けなくなっちゃって…

-先生にほめられるように書こうとしてしまった、ということですか?

荒木田:それもあったと思うんですけど、脳みそが大人になっていくと、イマジネーションが限定されていくというか、子供っぽい発想じゃなくなって…そういう瞬間って、ありません? 多分子供らしさっていうのが自分のなかでわかっちゃった。

ーその次のきっかけというのは何ですか。

荒木田:純粋に詩を書いたのは去年です。そのときは…ずっと落ちている時期が続いていて。自分にとって感じるもののある人がいるんですけど、4月13日にその人と遅くまでラインしていたんですよ。その時に勧められた音楽を聴いたら、すごい広がりがわーっとあって、「あ、なんかつくろう」って思ったんですよね。外にだしてみよう、って思いました。

-そこから書いた詩を、朗読という表現にしようと思ったきっかけを教えてください。

荒木田:5月の終わりに群馬にきて、詩集を作ろうと思っていたから、詩の情報を得ようと前橋文学館に行きました。そしたらちょうどポエトリーフェスティバルをやっていて飛び込みのオープンマイクがあったから、それで朗読をやってみようって思いましたね。

-前橋文学館といえば、萩原朔太郎ですよね。

荒木田:そこで初めて詩人に会ったんですけど、その人に「詩を書いてるんです」って言ったら、文学館の中で朔太郎の話をいろいろ教えてくれました。「詩は何よりも音楽でなければならない」って書いてあって、そこに共感じゃないけれど、詩と音楽は全然別のことじゃないんだって思えました。音楽も途中でやめちゃったし、何やってるんだろうって思っていたけれど、詩を始めたきっかけは音楽だったし、そうか全然別のことじゃないんだ。間違ってないよ、って感じがした。

-そのときちょうどポエトリーフェスをやっていたのはすごいことですね。

荒木田:すごい偶然でしたね。それまでは芽部(PSJ前橋大会主催団体)の人のことも知らなかったし、そういうことがあるのも知らなかったし、偶然です。

-PSJもその時のチラシで知ったんですよね。見た瞬間「出るぞ」って思いましたか?

荒木田:そのとき、前橋大会出場者の飯塚さんと出会ったんです。彼がPSJにでるよ、って話をしていて、じゃあ私も出てみようかなって思って。今まで自分は自分の部屋の中だけで詩を書いていたので、これがどういう風に人に受け入れられるのかな、とかこれはなんなの?っていうのをそういう場所に行けばなんとなくわかるかなって思って。

ごまかしのないまっすぐな心で

-PSJにエントリーされたときはどんな準備をしましたか?

荒木田:優勝したかったので、よし、がんばろ~って思いました。書いた作品から3分以内になりそうなものをリストにして、そこから友人や姉に読んで聞いてもらったりして、録音して練習しました。

-それで当日の印象はどうでしたか。

荒木田:高校、大学で音楽をやってて、そういうところのコンクールって必ずプロの先生が判定するものだし、明確に点数を開示するものでないからすごく新鮮だなって思った。オーディエンスの無作為に選ばれた人がジャッジするっていうのが、面白いなって思いました。

-優勝した時はどんな気持ちでしたか?

荒木田:うれしかったです。応援してくれる人がいたから、インスタで見守ってくれる人がいたので。私ひとりじゃないっていうか。それがすごく面白かったですね。

-それから全国大会までの間に、路上での朗読に挑戦していましたよね?

荒木田:そのときは、とにかく度胸をつけて、読むときにいかにまっさらな気持ちで読めるかだと思ったんですね。だから誤魔化しのなさだけを追求しようと思ったんですよ。駅前で読んでいた時、誰も聞いてなくても泣きながら読んでいたこともあった。逆に言ったら、路上っていう基本的に来てくれないところで自分の詩を読めたら、みんなが聞こうとしてくれている場で読むのはきっと楽だろうと思ったんですよ。集中して、嘘がないようにできるだけやりたいって練習しました。あと友達に聞いてもらったりとか。

-きっかけは、高円寺での毒林檎くん(PSJ 2018ファイナリスト)主催のスラムですか?

荒木田:そうですね。そう。たぶんあれに出てなかったら路上でやってみようって思わなかったと思う。だからすごくいい経験させてもらったな…おもしろかった。

-ほかの場所と路上の違いは何か感じましたか。

荒木田:自分が受け入れてもらえないかもしれないところで自分をだすっていうのって、ひとつ違うなって思いました。まず詩の朗読があるって知って、自分がなにか出したときに受け入れてくれる人たちがいることを知って、じゃあ受け入れてくれないかもしれない人たちの前で自分を出してみようって思ったんです。それで受け入れられなくてもいいんだって、それでやってみたのはチャレンジでした。

-PSJと路上でどっちが緊張しますか?

荒木田:どっちも同じですね。緊張の質が違うっていうのもあると思うけれど。私は後ろ盾のない状況でなにかをするってことにスリルを感じるんですよ。それって、すごく誤魔化しがないじゃないですか。自分が安全圏にいながら否定されようのないことを言うのってすごくずるいなって思うんですよ。なんか美しくないなって、すごく漠然とした言い方だけど。むき出しの状態で勝負しているものがすごく美しいと感じるから、怒られるかもしれないけれど、読んでみよう。そういうことに…スリルを感じる。

-全国大会のパフォーマンスもすごく良かったです。『煙草』や『希望の塔』…。

荒木田:でも私、全国大会の時『煙草』読み間違えちゃったんですよ。順番逆に読んじゃった。「あ、間違っちゃった」って思って。しかも『煙草』読んでるときに救急車が通ったんだよね。それがすごい(作中に描かれている)ベランダにいる感覚と近いなって。それで通り過ぎるのを待っていたらタイムオーバーになっちゃったんだけど、ああいうのが面白かった。リアルがあったなあ。

-『煙草』の作中に、徘徊老人の捜索アナウンスのシーンがありますね。リーディングになると、あれがものすごくフックになっていて、ググっと持っていかれます。

荒木田:アナウンスのエコーする読み方ってあるじゃないですか。あれ、前橋大会の電車のなかで思いついたの。「あ、これエコーで読んだら効果的かもしれない」って思って、でももう声に出して練習することはできないから、口の中でやってみて「あ、大丈夫かもしれない」って思ったから本番でやった。

-全国大会という大舞台の後で、自分自身に変化とかはありましたか?

荒木田:全国大会までは、とにかく頑張って勝ちたい!っていうそれだけだったから、逆になんか毒気が抜けたじゃないですけど(笑)、気負いがなくなったというか。

-ぱっと思い立ってからの瞬間の行動力が速いですよね。自分のなかではそんな感覚っていうのがあるんですか。

荒木田:必要に迫られてやってるなって思ってます。私はすごく必然性のある作品が好きです。余裕のあるところで遊んでいるものじゃなくて、やむにやまれずでてきた、みたいな。だから行動が早いとか、そういう風に言ってもらうことがあるんだけど、そうせざるを得ない。おなかがすいたから食べるとか、眠くて仕方ないから寝ちゃう、とか。やりたくてやってるものじゃないってことですね。

-書かざるを得ない状況だったんですね。荒木田さんは、本当にいろんな詩を持っていて、恋愛も、社会的なことも含まれているけれど、トータルで荒木田慧の世界だと感じられます。その奥深さがどこから来るか、どういうときに詩を書くのか、聞きたいです。

荒木田:なんだろう。違和感がピークに達すると地震があって、揺れてバランスを取り戻すっていうところがあります。まわりとずれてる部分があって、そこをうまく消化したりしてみんな生きているんだけど、そこを消化できなかった部分がこう、なんか森のようにもやもやしてたものを、一個一個ちゃんと見ていったら詩になった。という感じですね。

今は衝動を待つ。朗読の、その先へ

-今後の予定や、やってみたいことはありますか?

荒木田:そうですね。ちょっと長いものを書いてみたいなって思ったりもするんですけど、なかなか難しい。自分の中でそういうメソッドというか何かにのっとろうとすると、途端に苦しくなって行き詰まりを感じちゃうんですよ。だからそういうものとは違う風にしないと、自分は作れないと思うので。

-これからも衝動が沸き上がってきたら、詩も書いていきたい、という感じですか?

荒木田:そうですね

-朗読は…?

荒木田:朗読はねー、朗読は、なんだろな、ステージにあんまり立ちたくないんですよ。音声ならいいんですけど、音声は時々インスタに…

-レコーディングしましょう!(笑)

荒木田:あ、それなら全然やろうかなって。ライブだとパワーが奪われすぎて…。反省会が始まっちゃうんです、脳内反省会。長いんですよ、これが。二週間ぐらいダメージを負う。負荷が強すぎちゃうので…。

-ぜひ声の活動も続けてください。別に朗読に限らずでもいいんですけど。

荒木田:そう、ユーチューブやろうと思って。

-ユーチューバー!? 人前に出るじゃないですか(笑)。それ、絶対原稿に書きますね。

荒木田:あ、いま言っとけば、やらざるを得ない状況になる…(笑)。面白そうなことはとにかくやってみたいんですよ。失うものはない。ということで。


【プロフィール】
荒木田慧 <あらきだ けい>

1983年、群馬県伊勢崎市生まれ。2018年4月から詩を書き始め、以降ほぼ全ての詩をインスタグラム @keiarakida に投稿し続けている。

                        【取材・原稿/木村沙弥香】


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