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ポエトリースラムジャパン 2017秋大会 日本代表・三木悠莉 インタビュー


2017年秋大会で、ポエトリースラムジャパン(PSJ)初の女性チャンプとなった、三木悠莉さん。

2017年は、PSJ優勝以外にも、ウエノ・ポエトリカン・ジャムという大きな詩のイベントの主催を引き継いだり、声優でアメリカの自主制作映画に参加したり、さらにプライベートでは第二子が誕生したり、うれしく忙しい年になりました。

「愛は産むという暴力」とは彼女の詩の一片。

小さな体にバイタリティー満ちあふれる、愛の詩人に、優勝までの道のり、パリW杯で感じたこと、これからのポエトリーシーンについてもお聞きしました!

言いたいことがあったら詩にしちゃえば? やりたいことがあったらやっちゃえば?


●詩はダサい? ~ポエトリースラムジャパン以前

初めて詩の朗読をしたのは、2012年の1月。10代からの友人で詩人の広瀬犬山猫が、当時池袋で開催されていた詩のオープンマイク(誰でも飛び入り参加できるステージ開放イベント)に誘ってくれたんです。私、当時はアパレルの会社で働いていて、すでに子どもがいて、最初の結婚の離婚調停中でした(笑)

誘ってくれた犬山猫とは、もともと私が中学生の頃、地元の新聞の俳句の賞の授賞式で知り合ったんです。当時、誰に見せるわけでもなく詩のようなものを書いていました。犬山猫も詩を書いていて、彼を通じて詩の知り合いが増えていって、TOKYOポエケット(ヤリタミサコさん、川江一二三さんが主宰する詩の即売会。2018年7月15日に第22回を開催予定)にも誘われて一度遊びに行ったりしたのですが、その後、だんだん高校生くらいから、詩に対する恥ずかしさみたいなものが自分の中に生まれてきたんですよね。
私、音楽が好きでライブによく行っていたんですが、その頃って、音楽をやっている人たちと、詩とか俳句とかいわゆる文学的なことをやっている人たちとの隔たりがすごくあったので、友達に自分が詩を書いていることを知られたくなかったんです。ダサい、暗い、と思われるんじゃないかと思って(笑)。

広瀬犬山猫はその後、詩のボクシング(1997年に楠かつのり氏が設立した日本朗読ボクシング協会主催の朗読競技会。ボクシングのリングに見立てた舞台で対戦する)にも出場していました。私も誘われたんですが、当時、どうしても行きたい音楽のライブがあったので、断ったんです。思えば、あの時、詩のボクシングに出なかったことが運命の分かれ道で、私の朗読デビューは10年遅れました(笑)。興味がなかったわけではありませんでしたが、当時は欲がなかったんですよね、詩の朗読でどうこうしたいっていう。

で、初めに戻って、2012年から詩のオープンマイクのイベントに行くようになって、夏ごろからゲストに呼ばれるようになったりして、その年の終わりには自分でイベントを主催するようになっていました。

●初年度からの皆勤賞出場者が優勝するまで

ポエトリースラムジャパンには初年度から毎回出場しています。
2015年にPSJの開催を知ったのですが、それまで大規模なポエトリースラムの大会って経験していなかったんですよね。SSWS(シンジュク・スポークン・ワーズ・スラム。2003年から新宿のライブハウスMARZを中心に開催。ポエトリーリーディングやラップなど多ジャンルから参加者が集まり、タカツキ、小林大吾など多くのアーティストを輩出)も経験していないし。それで、これは!と思って出ました。勝つ気満々で(笑)

最初の年はまだ予選とかなくて、一日で大会が終わる感じだったんですけど。その時は、準決勝まで行けたのかな。負けて悔しいっていうのもあったんですけど、普段の詩のイベントでは会わないような、まったく初対面の人たちも出ていて、そういう出会いがあったのは楽しかったですね。

で、二回目は……これは個人的なことなんですが、今の旦那さんと付き合い始めた頃で、初めてパフォーマンスを見てもらったのが確かその時だったんですよ。かっこよかったよ~ステキだったよ~って言ってくれました(笑)

あとは、初めて会った女性の出場者から、お子さんを持つってどんな感じですか、とか聞かれて、どらごんまうす名義で出場していたさいとういんこさん(詩人、作詞家。SSWSやUPJを始めるなど、日本のポエトリーリーディング・シーンの先駆的存在)と三人で話した記憶があります。勝負の場とはいえ、なかなかそういう大きなイベントじゃないと顔を合わせない人もいるので、次にいつ会えるかわからないからもったいないと思って、けっこう人とは話していましたね。

3回目は、結果的にいちばん成績が悪くて、1回戦で負けちゃったんですよ、しかもグループの中で最低の点数だったんです。ほんとに箸にも棒にもかからないって感じでした。おかげでいちばん、他の人のパフォーマンスをじっくり見られました。

4回目の予選の時は、下の子が生まれて2か月、全国大会の時点でもまだ産後4か月でした。いちばん勝ちたいと思った時にチャンスをつかめたのかな、と思っています。

昨年は本当にいろいろあって、子どもが生まれたり、詩というものを私に初めて教えてくれた祖父が亡くなったり、PSJで優勝できたり、それから昨年は、ウエノ・ポエトリカン・ジャム(上野恩賜公園水上音楽堂を会場に、2000年から不定期開催されているポエトリーリーディング・イベント。後述)という大きなイベントを8年ぶりに復活させて主催をやった年でもあり、今までの回と比べて、気合いも全然違っていましたね。

(ポエトリースラムジャパン2017秋・東京大会Cにて)


●産後でも、小さい子どもがいても、女でも

女性初の優勝者ということで、「ママさんが大会に出たり、結果を残したりするのはいいよね。そういうのを見て、自分もがんばれるって思う人がいるかもしれないね」と言ってくれた人がいて、ああ、よかったんだなって思えました。言ってくれたのは3人のお子さんがいる男性で、よくライブでお世話になっているお店の方なので、感慨深かった。

女性からも、「産後でも子どもがいても、女性でもできるんだって思えた」と何人かの方に言ってもらえて、うれしかったです。あと、冗談半分かもしれませんが、子どもを産んだ女は強いねとも言われたかな(笑)

その反面、どう思われているのかな、と気になる時も正直少しありました。女性が外に出て活躍することはいいことだって社会通念上わかっていても、反面、母親なんだからもっと家にいろよって内心思っている人もいるんじゃないかって。ただ、うちの家族は、ありがたいことに子供や旦那さん、両親も含め、すごく応援してくれるんで、助かっているし、深刻には悩まなかったです。

前回のPSJ2017年秋の全国大会では、出場者の半数以上が女性でしたし、決勝戦に残った男性陣は前回と前々回優勝者の中内こもるさんと大島健夫さんだったので、どう転んでも初めて女性がパリに行くことは確定していたんですよね(ポエトリースラムW杯主催の意向で、すでに出場経験のある人は招聘されない)。そういえば、パリW杯でも、出場者の半数以上は女性でした。今年は特に女性が活躍した回だったのかもしれませんが、大会の最中はあまり意識はしていませんでした。

(ポエトリースラムジャパン全国大会のステージ)


●詩への熱量がすごかったパリの世界大会

パリは最高でした!私、海外に行ったのが今回で2回目だったんですが、スリにも怖い目にも合わず、観光も空き時間にバッチリできて。ほんとになにもかもが楽しくて、大会ももちろん素晴らしかったし、いろんな人と友達になれたし、濃密な10日間を過ごせたと思います。

パリのスラムと日本のスラムの違いですか?やっぱり詩への熱量の違いですね。会場は満員で、純粋な観客の人がたくさんいました。お客さんが自由に声を出してました。フーフー!って。司会の人はそれをさらに盛り上げる(笑) 時々、点数に対して軽くブーイングも出たりして。なんでも思ったことを口に出す感じ。

文化の根付き方が全然違うんだな、と思いましたね。スラムを見て楽しむのが、すごく珍しいことでもなく、ニッチな趣味でもなく、ただそういうことが好きな人が一定数いるんだなという印象を受けました。会場のお客さんの聴き方がアクティブリスニングなんですよね、ひとことももらさず聴いてやるぞーみたいな圧が伝わってきました。

お客さんからも直接、話しかけられましたよ。「審査員だったけど、あんまりいい点つけられなくてごめんね。でも君はステキだったよ」とわざわざ言いに来てくれた人とか(笑)。あと着物を着ていたせいか、小学生の女の子たちにすごく囲まれて、写真撮られたり。着物を持っていった甲斐がありました。朗読については、日本では言われないような感想をもらったりしましたね、「あなたの静かな落ち着いた朗読がよかった」と言われた時は、びっくりしました。

全体の雰囲気が日本と違ってゆるくてよかったです。日本のいいところは、時間のアナウンスが行き届いていたり、出場者の負担が少ないところだと思うんですが、あちらはけっこう適当なところもあったりして。1回戦で読む詩の数が、大会の始まる数日前に変更になったり、まあ、用意した6本の詩の中から読むことには変わりないんですが。日本だったら、怒る人がいるかもしれませんよね(笑)。

大会のスタッフとも、毎日顔を合わせているうちに仲良くなりましたね。そんなに人数がいるわけではないんですが、使命感を持って大会を支えてくれる方ばかりでした。

(W杯のステージには着物で登場!)

(W杯会場・ESPACE BELLEVILLEにて)


●印象に残った世界のスラマーたち

パリの世界大会で一番印象に残った人は、ブラジルのベル(Bell Puã)。1回戦で一緒のグループでした。彼女はまだ20代で、お母さんと来ていたんですが、彼女のパフォーマンスは音楽的にもすごいなって思いました。魅せる力、聴かせる力がずば抜けていましたね。民族性についての詩を読んでいたと思います。ステージを降りた後のギャップがすごくて、「みんな勝って来いっていうけど、私はそんなつもりはないの」なんてナイーブな一面も見せてくれました。

それから、カナダのイフラ(Ifrah Hussein)。スーパーモデルみたいな長身の彼女は、アフリカにルーツを持っていて、自分のルーツに関する詩を読んでいたのかな。また、トランプ批判をまじえた社会的なリーディングをしていましたね。強い女というか、思ったことをはっきり言うカッコいい女性でした。

男性でいうと、優勝したスコットランドのサム・スモール(Sam Small)。早口言葉かというくらいの早口で、それがスコットランド・スタイルなんだそうです。日常のことを題材にした言葉遊び的な感じで読んでいました。軽妙な感じ。ご本人も気さくな男の子でした。

全体的な年齢層は20代がメインで、最年少はおそらくイングランド代表の18歳の女性、最年長はロシアの50代の男性。アジアからは日本の他に、出場2回目のベトナムから女性が参加していて、民族音楽的な節回しのような朗読が素敵でした。

本当に才能豊かな個性のぶつかりあいでした。

(ブラジル代表・ベルやその家族らと)

(W杯と同時開催のHaiku Slam<俳句スラム>ではなんと優勝!)


●ポエトリースラムは経験してみないとわからない!

ポエトリースラムを見たことのない人にスラムの魅力を語るとしたら、そうですね。たぶん、いわゆる詩っていう固定概念を持って観に来たら、なんじゃこらって度肝を抜かれると思います。すごくびっくりするかもしれないからおいでよって言いたいです。詩ってひとことで言っても、やっていることはみんな違うし、普段詩以外の活動をされている人もたくさん出場しますからね、役者さんとか、ラッパーとか、ミュージシャンとか。

PSJはポエトリーの大会ということになっていますが、あらゆる言葉の表現の大会なのかもしれないな、と私は思っています。出場者全員に3分っていう時間の制約がある中で、自分の思っていることを声と言葉を使って表現することの自由さを体感してほしいですね。あと審査員になるという経験も、他のイベントではなかなかできないと思うので、面白そうだと思えたら、ぜひやってみてください。

それから、スラムに興味はあるけど、まだ出たことのないっていう人もいると思います。中には、詩でたたかうってことに対して、なんとなく抵抗がある人やマイナスイメージを持っている人も、たぶんいると思うんですよ。でもたたかうっていっても、すごくピースフルなたたかいなんですよ。一回経験してみるのも意外と悪くないかもよっていうことは言いたいかも(笑)。点数をつけるのはあくまでもお客さんが楽しむための手段なんですよね。

反面、点数がつくからには、表現者としては成長ができるんじゃないかな。その場の空気を感じて、臨機応変に読むことがすごく必要になるし、舞台上での勘みたいなものが磨かれるんじゃないかと、私は勝手に思っています(笑)。出るからには誰でも、多少は勝ちたいと思うと思うんですよ。そこでどういうアプローチをしたら勝てるのか、次につながっていくのかを考える機会って、普段はあまりないと思うんですよね。そういう視点で自分の表現を一回見つめる、いいきっかけになると思います。

私の場合、パリに行って、さらにそれを強く感じました。たとえば、パリでは自然と大きい身振り手振りを交えてのパフォーマンスになりましたが、あれはその場で何が求められているかを考えての変化だと思います。日本にいたら絶対、違ったものになっていたと思いますね。

(W杯一回戦を競い合った各国スラマーたち)


●これからのこと

2018年のポエトリーシーンですか?うーん、シーンとひと言でいうと、広くなりすぎてしまうので、私の知る限りの範囲ですが、みんなそれぞれがそれぞれのやり方で、それぞれの目標を持って活動ができるようになってきたのかなって思います。やり方ってひとつじゃないと思うんです。こうじゃなくちゃいけないっていうのがあるわけではなくて、ある人はCDを作ったり、ある人はネット配信をしたり、ある人はイベントを打ったり、選択肢が増えてきていますよね。

私でいうと、昨年は、PSJ出場と並行して、ウエノ・ポエトリカン・ジャム5(UPJ5)という大きな詩の野外イベントを主催しました。これはもともと、詩人のさいとういんこさんが始めたイベントで、私と胎動LABEL(「あらゆるジャンルやカテゴライズの壁を超える」を掲げる音楽レーベル)のikomaが昨年から引き継いで、2000年から数えて5回目となる回を昨年の10月に開催しました。

昨年のUPJは約900人のお客さんに楽しんでもらいました。UPJがきっかけでポエトリーを始めた人もいて、その人たちの成長も楽しみですし、さらなるどんな出会いがあるのか、すごく楽しみです。自分たちも含めて、この一年間、イベントがどう発展してきたかを確認する場でもあると思うし。それと、今年は開催が2日あるので、オープンマイクの枠もさらに広げられて、より多くの人に参加してもらえると思っています。

オープンマイクに参加していただけだった頃から、自分でイベントを主催し、さらにはUPJのような大きなイベントを主催するようになって、責任ということを感じないわけではないですが、自分たちのやっていることがポエトリーシーンをリードしている、というつもりはまったくないです。むしろ、ポエトリーシーンはこうあるべきって言うことほど不健全なことはないと思っているので、それぞれがやりたいことを、やりたいようにやればいいと思います。その中で、志が重なる人がいれば、この指とまれで合流しやすくはなっていますよね。

規模が大きいだけに大変なこともありますが、自分の幸せと、みんな、というのもおこがましいけど目の届く範囲の出来るだけ多くの人の幸せとを、リンクさせながらやっていってるつもりなので、楽しいです。それと、UPJは先輩方から引き継いできたイベントなので、いつか自分たちの手を離れて、次の代がやる時になったら、よりよい形でバトンを渡していきたいという気持ちはありますね。そのためにも今、まずは自分たちがよい形で続けていきたいということは、いつも考えています。

●社会における詩の力

詩には社会を変える力があると、私は感じています。

世の中において、「これってどうなの?」って思うようなことが起きた時に、言いたいことがあるけれど直接は言いにくかったら、詩を使ったらいいと思うんですよ。「私はこう思う!」って言うより、作品にした方が言いやすい時ってあるじゃない?聞く方も、受け止めやすいと思うんですよね、必要以上に重苦しくならないというか。

それと社会との関連でいうと、思っていることがあって、私はオープンマイクっていうスタイルがとても多様性に富んだものだと思っているんです。いろんなものがあってもいいし、違いを認め合うというか、違いを面白がれる懐の深さがある場なんですよね。社会がそうなればいいのにって思います。

ポエトリースラムジャパンに関してもそれは感じます。全国大会が終わった後、毎回起こる「あんなのは詩じゃない」論争がありますよね。でも、論争が起こること自体、盛り上がっているということだと思うし、全体的には、「そんなこと言うなよ」、「もっと心を広く持とうぜ」っていう雰囲気になってきているのかな、と私は思ってます。「これは詩だ、あれは詩じゃない」って人も、「全部詩だよ」って人も、お互い対立するんじゃなくて、それぞれ楽しめればいい。詩人にかぎらないですが、日本人は自分と合わない意見に対して過敏過ぎる傾向がありますよね。違う意見に対して攻撃的になるのではなく、違いを楽しめるようになればいいなって。

ポエトリースラムジャパンはまだ始まったばかりのイベントだし、みんなで育てていくイベントなんだと思っています。

【プロフィール】三木悠莉(みきゆうり)
2012年よりポエトリーリーディングを始める。ウエノ・ポエトリカン・ジャム5、6 代表。ポエトリー・スラム・ジャパン2017秋 全国優勝。パリで開催されたポエトリースラムW杯に日本代表として出場。同会期中開催の俳句スラム 優勝。ウエノ・ポエトリカン・ジャム6を2018年9月15日〜16日に開催予定。逆境に強すぎたポエトリーバカ。働く2児の母で3人目の夫と恋愛(婚姻)中。ステージの上で、あなたの目を見てしっかりとまんこと言える自分が好きです。

                    (取材・原稿・撮影/冬木丹花)


(ポエトリースラムジャパン 公式サイトより転載)

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