「就活後ろ倒し」に大学淘汰の意図なんかないだろ

 就活評論家の常見陽平センセイが、日経ビジネスオンラインで「就活後ろ倒しの真の意図、それは大学の淘汰だ——元リクルートの常見陽平氏に聞いた、最新の採用事情」というインタビュー記事を掲載した。

 私が、出入りしていた大学研究室の学生から頼まれたことがきっかけで、学生への就活のアドバイスをするようになってから6年以上の歳月が流れている。昨日も、本業であるインタビュー仕事の合間に、就活生をひとり仕上げた。(学生からは経費含め、金は一切取っていない。これは私の趣味兼マーケティング兼インタビューのトレーニングである。ただ、持ち出しをまかなうために、人事部経験の長い友人と地味な本を書いたので、よかったら読んでね。)

 だから、ここ6年ほどの就活事情に関してはずっとウォッチしてきた。

 常見センセイも、話すことがなくなってついに陰謀論者になったか……という感想である。

 こういう論のたちの悪さは、事実をちりばめながら全体としてはウソを言っている(あるいは間違えている)ところにある。

「学歴差別なしのオープンエントリーの実現が、大手・有名企業の競争激化を招いた」「有力企業は、有力校出身者の社員のリクルーターを活用している」というのは事実だ。だが、前者は「有名企業のみが志望企業」という歪んだ学生の認識を変えられないキャリア教育の問題、後者はバブル期などの過去のリクルーターシステムとは変質しており、厳しい選考への導線になっているに過ぎない。

 常見センセイの思考から抜けている(あるいは意図的に落としている)のは、「企業の求める人材の即戦力志向」と、それにともなう「採用基準の明確化」という変化である。それを掴んでいない学生(私の印象だと、就活開始時のほぼ全員)が落ちているだけである。つまり、産業界の人事構造の変質に、学生や大学が対応できず、就活産業はわざと目をつぶっているという構造があるのだ。

 大学の淘汰が「就活後ろ倒し」で行われるというのだが、それは結果としてそうなりうるだけの話であり、別に「これでクソ大学を潰してやれ」とか、「G型L型大学に選別してやれ」というビッグブラザーはいない。むしろ、最近の傾向としては、かつては採用されなかったであろう偏差値下位に位置する大学の学生が有名企業に入社し、活躍している例が目につくようになっている。たしかに少数ではあるが、オープンエントリーのいい面であると言える。

 法科大学院など職業大学院では事後評価で退出を迫られる規制緩和型が取り入れられているが、普通の大学はそうじゃないだろう?

 悪質な言論である、とはっきり言いたい。学生は堂々と進め。

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