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ここがふるさと

今日は家族で近所のレストラン的なところに行ってきた。
マスターは、外国で修行を積まれたあと、さながら陸の孤島なこの町に帰ってきて店を開かれた方だ。マスターのご尽力のおかげで、レストランは今やここへ旅行に来た人に自信を持って紹介できるような、小洒落た観光スポットとなっている。

私は、このどうしようもない田舎町を飛び出して都会へ出るのが夢だ。周りの大人は口を揃えて、都会へ行ってもきっとここが恋しくなって戻ってきたいと思うようになる、と言うけれど、そんなの信じられなかった。地域活性化なんか私の知ったことではない、と捻くれて考えたりもした。
でも同時に、この町が魅力的なのも事実だ。畑をしている人が多いから、新鮮な旬の野菜や果物をたくさんお裾分けしてくれる。いつもすれ違うおばあちゃんおじいちゃんの顔も、よく連れられている犬の名前も、全部知っている。
それは周囲の人も同じである。私が赤ちゃんの頃から私のことを知ってくれていて、成長を家族のことのように喜んでくれる人がいる。朝、行ってらっしゃいと言ってくれる人がいる。夕方、お帰りと言ってくれる人がいる。

町がまるで一つの家族のような安心感。それはときに窮屈で、不自由にも思われるけれども、私はそれがどれほど幸せで有難いことかを、忘れてはいけないと思う。

マスターは言っていた。このレストランをいずれは夜にもふらっと立ち寄れるような場所にして、子どもから大人まで楽しめる料理を提供したいと。私は、少しずつ寂れてゆくこの町にあかりが灯っている様子を想像してみる。町を出て都会へ流れてしまった人々が帰ってくる。かつては栄えていたこの町に、活気が戻っていく光景を。

しかし、私は都会へ行く。
ここでは学びたいことを学べないし、もっと色々な世界をこの目で見たいからだ。
けれどいつか、この町に持ち帰れるような何かを得られたならばそのときは、ここに戻ってきたいと思う。

何もなくても 地味でも田舎でも ここは私のふるさとなのだから。


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