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マスクコウモリ

 新型コロナウイルス感染症の位置付けが「2類相当」から「5類」に移行して、はや10ヶ月も経ったが、筆者は未だ「マスクコウモリ」である。日常は「あごマスク」として棲息する「マスクコウモリ」は、周囲を見て瞬時につけ外しをしてしまう哀しい習性の持ち主だが、決して少なくはない種族だ。ちなみに「マスクコウモリ」とは筆者の造語だ。
「マスクコウモリ」は、交通機関や商業施設では外すことは滅多にない。町中では外しているが、自分の前を通る人が継続派なら着用する。外していても咳やくしゃみが出そうなときには即着用だ。特にトイレのような閉鎖的な場所は要注意だ。ワクチン摂取も有料にならない限り続けている。要はコロナ禍とほとんど変わりなく、表面上では抵抗力の弱い人や接する人々への配慮だが、全て保身のため、我が身の可愛さのため、マスク警察や自粛警察から回避するためである。

 保身のためなので言える立場ではないが、「配慮」は実は公平ではない。上記のような人には表面上は配慮することは出来るが、健康面で着用が難しい人を配慮するすべがないのだ。コロナ禍でマスク着用者が責められることはないが、未着用者はどうしても責められることになってしまうからである。
 『マスク狂想曲』(奥野淳也 徳間書店)など最たるもので、着用者に合わせて着用すれば、着用したい人に取って大変有効だが、未着用者に合わせたところで本人にとっては、何のメリットもないのである。それに着用が多数になれば、未着用者は着用を要求されることが多いが、未着用者が多数になっても着用者が外すことを要求されることは滅多にない(皆無というわけではなく逆マスク警察も棲息しているからだ)。

 『マスク狂想曲』は強制退去させられたピーチ機密緊急着陸事件の当事者である「マスク拒否おじさん」が事件の衝撃の真相を記し、さらに自由とはモラルとは何かを求めていく内容だが、本書も5類になったからこそ出版可になったのだろう。

 「コロナ禍の最大の脅威はウイルスではない。自由を謳歌したいはずの市民が一斉に行使した不自由(同調圧力)である。」という著者の主張はよく分かる。もうコロナ禍ではないが、日本では今でも他人に着用を要する着用者が少なくなく、健康上着用がつらい者が未着用者でいることが難しいのだ。

 マスク着用義務がなくなったこともあって5類移行となると当然のことながら昔馴染み同士で久々の会食の話が持ち上がってくるのだが、リモートのときはなかった問題が発生してくる。

 以下が筆者個人の余談だが、ある会食の予定で、エッセンシャルワーカーである参加者Aが全員にマスクの着用と黙食を要求している。Aの状況からすれば無理もないことだが、筆者は、健康上着用がつらい参加者Bにそのことを告げずにいる。そしてAにもBの状況を告げずにいる。普段でもAに意見する者はいないので、他参加者に相談することも難しい。正直言えば、Aに未着用を許してもらいたいのが本音だ。
 そうかと言えばリモートのみで存在している別のグループでは基礎疾患があることでワクチン接種を避けている友人Dの前では、友人Eと筆者が接種していることは言えないという逆転現象もある。

 また、会食の再開を望んでいる別のグループでは、友人Fがコロナ禍の時からLINEする毎に接種の報告をしてくる。今は7回目だ。つまり久々の対面の条件が7回目の接種という意味なのである。一瞬だが、むしろ有料になってくれとすら思った。筆者の接種は5回目で留まっているが、5類に移行したことで、供給は少なくなり希望していた接種を受けることは難しくなり、だったらあまり望んでない接種を受けなくていいやと思っている。
実は接種は4月から有料になると聞いたときは正直ホッとした。有料になれば接種を続けなくても周りから責められることもなくなり、大いに助かると思ってしまったのだ。今でも感染して苦しんでいる知人がいるというのに。

 比較的身軽な立場になっているから、本書の著者に肩入れ出来るのであって、もし他界した父と同居していたときにコロナ禍であったら全く立ち位置が変わり、Aの立場になっていたのかもしれないのである。

 やりたい人だけがやればいい、一見簡単に思えるこの命題がいかに理想論だったということが、コロナ禍でつくづく思い知らされた。この命題をある意味豪語していた筆者が、接種が「有料になってくれ」と密かに望んでいるのである。有料になってくれというのは接種が本当に必要な人を自分の都合で排除するという意味である。
 この命題はやはり難しいということなのだ。家族内ですらマスク着用に意見が異なるのは当たり前なので、自分が家族を説得するより国が強制してくれる方がラクなのである。
ただやはりこの命題は重要なのだ。

多機能トイレも男女共有トイレも男女別トイレも全て必要なのである。



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