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子供の頃に戻りたい話 (『サラと魔女とハーブの庭』)



由香は大人になりたくなかった。
いつまでも子供のままでいたくて、みんなが大人になっていくことが怖くなって不登校になり、おばあちゃんの家に来た。

私とは全然違うと思った。
私は早く大人になりたかった。
子供のままでいたいなんて思ったことはほとんどなかった。
私より遥かに大人な周りの友達を見ては、どうして私はこんなにも子供なんだろうと悔しかった。
今でも変わらない。早く大人になりたい。


由香はとても素直だった。
素直すぎて、私にはちょっと眩しかった。

私だって、心の中で誰かをたくさん詰ったことがある。
自分が真っ黒になって醜くなっていくのを感じたことがある。
でもいつも私は自分を正当化して、だってあの人が悪い、私は悪くないって思って、そんな姿を恥ずかしいなんて思ったことは無かった。

だから由香が恥ずかしいと泣いた時、私も恥ずかしかった。
恥ずかしいことだったことに気づいていなかった私は多分由香よりもっと恥ずかしかった。

サラと会えないことを寂しいと思い、素敵な男の子を素敵だと思える由香も、やっぱり眩しかった。
変にスカしてない由香は私には眩しすぎた。
キラキラしすぎて本が光源になって、本すら直視できない気がした。


ここからは少し自分語りになってしまうが、私の幼い頃は自分の思い出をものに残すことに必死だった。
行先行先できっと一生行くことのないだろうお店のパンフレットやチラシを集めてファイリングしていた。
別に行きたい訳じゃない。
私がその場所に行ったんだよっていう記録を残したかった。
お土産コーナーでは必ずお土産を買ったし、友達から貰ったお土産や手紙は絶対に捨てられなかった。
取れたボタンとか、グランドで探したキラキラした石とか、全部とってある。


由香のおばあちゃんは、大人なら1年があっというまに過ぎるようになることを経験すると言っていた。

それならば、私はもうとっくに大人だ。
1年どころか高校の3年間すらもあっという間だった。
私はいつから大人になってしまったのだろう。
私が旅先でパンフレットを貰わなくなり、お土産も遠出をした時しか買わなくなってからだろうか。


もっと子供時代を大事にしたかったなと、この本を読みながら思った。
子供の頃はネバーランドには行ってみたいけどピーターパンの考えは理解できなかった私だが、今のもう大人になってしまった私は子供のままでいたい由香にすごく憧れを感じる。

でもきっと誰だってそうだ。
大抵の子供は早く大人になりたいと思う。
大人になって、ないものねだりをするように子供に戻りたいと思う。
そういえば、子供の頃よく母に早く大人になりたいとごね、母から私は子供の頃に戻りたいと言われたことがあったのを思い出した。
きっとそうなのだ。
大切なものは失って気づく、在り来りな恋愛映画のように、大人になってからやっと子供時代の素晴らしさに気が付くことができる。



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