個別株投資が運ゲーである理由

新NISAがスタートしたことで今年から資産運用や株式投資の勉強を本格的に始めたという方も多いのではないでしょうか。

老後資産の形成のために資産運用について勉強するのはとても大切なことだと思いますが、少なくとも「個別株への投資はただの運ゲーである」ということはあらかじめ知っておいた方がよいと思います。そうでないと貴重な時間とお金を無駄にする可能性が非常に高くなってしまいます。

私は資産運用のプロでも株式投資のプロでもないですが、個別株への投資が運ゲーである理由はたった2つの事実を知っていれば誰でも簡単に理解できます。以下それについて説明します。

事実1:アクティブファンドの大半がインデックスファンドに負けている

株式投資には、個人から集めたお金を専門的な機関が運用する「投資信託」というものがあります。そして株式の投資信託には「アクティブファンド」と「インデックスファンド」の2種類があります。

アクティブファンドはプロのファンドマネージャーが独自に投資判断をして個別株に投資しています。これに対してインデックスファンドはS&P500やTOPIX等の株式指標に連動するように機械的に組入銘柄が決まるという違いがあります。

細かい説明は省略しますが、株式のインデックスファンドに投資するとその指標が対象にしている株式市場全体のミニチュア版を保持することになります。つまり「市場参加者全体の平均のポートフォリオを持つ」ということになるわけです。

市場参加者には、機関投資家のようなプロだけでなく世界中の素人レベルの個人投資家も含まれますので、直感的にはその道のプロが運用しているアクティブファンドの運用成績は市場平均を上回ることができそうです。

しかし現実はその逆で、長期で見ると大半のアクティブファンドがインデックスファンドに負けてしまっているのです。

参考:SPIVAスコアカードhttps://www.spglobal.com/spdji/jp/research-insights/spiva/

これはおかしなことです。数百億円や数千億円といった大金を預かるアクティブファンドのファンドマネージャーになれるような人は、学力も知力も分析力も気力も胆力も経験もほぼ全ての面において我々一般人を遥かに凌ぐスーパーエリートなはずです。

野球に例えれば彼らはメジャーリーガーであり、大谷翔平選手やマイク・トラウト選手のような雲の上の存在です。

しかもそういった超優秀な人たちがチームを組んで膨大な情報を分析して血眼になって知恵を絞って個別株を厳選して投資の意思決定をしているわけです。常識的に考えれば素人が勝てるわけがありません。

ところが実際にはこのメジャーリーガー達の大半が、私のような素人参加者を含む株式市場の平均に長期的に見ると負けてしまっているのです。

例えてみると草野球チームを大量に含む総当りのリーグ戦においてメジャーリーグのチームの勝率が平均を下回っているということになります。

スポーツに限らず、ポーカーや麻雀などのように運が大きく結果に影響するゲームにおいても「プロがただの素人に勝率で長期的に負ける」ということはあり得ません。数回程度なら素人が大勝ちすることはありますが、長期で見れば実力が必ず結果に反映されていきます。

例えばプロと素人が混在した総当り戦で、ポーカーなら10000ゲーム、麻雀なら1000半荘くらいやってみれば、ほぼ確実に全てのプロの勝率は平均もしくは素人の最高勝率を上回るでしょう

ところが株式市場においては、スーパーエリートのプロフェッショナルの大半が長期で見たときに平均的な結果を上回れていません。

つまり「実力」であるはずの知力や分析力や経験が結果に全く影響していないわけですから「個別株投資において実力と思われているものが実際にはただのフェイクであり何の役にも立っていない」という結論になります。

このことから「個別株投資には"実力"というものが存在しない」要するに「ただの運ゲーである」と判断できるわけです。

これは、大谷翔平選手のように容姿端麗で筋骨隆々でスポーツ万能な人であっても、藤井聡太さんのように突出した知力と研究力と洞察力の持ち主であっても、宝くじ売り場で宝くじを買う際には結果に何の影響も与えることができないのと同じことです。

どの宝くじが当たるかを予測できる「実力」が存在しないのと同様、どの個別株が値上がりするのかを予測できる「実力」も存在しない、そこに存在するのはただの「運」であるということになるわけです。

事実2:ウォーレン・バフェット氏もS&P500に負けている

「個別株投資は運ではない。市場平均を大きく上回る成果を出し続けているウォーレン・バフェット氏のような投資家もいるではないか」というご反論もあると思います。

確かにバフェットさんは株式投資による生涯利回りが20%前後という突出した結果を残していますが、実はバフェットさんの運用成績が圧倒的だった時代はかなり前に終了しています。

これが2つめの事実ですが、バフェットさんの直近20年間の運用成績はS&P500を指標とするインデックスファンドを下回っているのです。

参考:Warren Buffett Has Underperformed the Stock Market for the Last 20 Years
https://www.linkedin.com/pulse/warren-buffett-has-underperformed-sp-500-last-20-years-jain-cfa/

これは個別株投資やアクティブ投資を推奨したい(手数料を稼ぎたい)金融機関にとっては非常に都合の悪い事実なので、日本語メディアではこの話題はあまり取り上げられないようです。今まで知らなかったという方も多いのではないでしょうか。

バフェットさんは誰もが認める世界最高峰の投資家です。あらゆる個人投資家やファンドマネージャーの頂点に君臨しています。

その最強の投資家がもはやS&P500という指標に勝てなくなっているという事実と「アクティブファンドの大半が長期的にはインデックスファンドに負けていく」という事実を併せて考えれば「超長期で見たときには誰も市場平均には勝てない可能性が極めて高い」という結論に必然的に到達するわけです。

先ほど提示したSPIVAの調査期間は15年でしたが、これが30年、50年と経過していくと、市場平均をアウトパフォームできる人は限りなく0に近づいていくというのは誰でも予想できるでしょう。

要するに市場平均というのは「大自然」のようなものです。人間が自然の摂理に逆らっても勝ち目がないのと同様に、株式投資において長期的に市場平均に勝ち続けることは誰にもできないと考えた方がよいでしょう。

まとめ

株式投資に限らず、今から自分が取り組もうとしていることが「運ゲー」であるかそうでないかを見極めることはとても重要です。

お金にも時間にも十分に余裕がある人は運ゲーを思い切りエンジョイすればよいと思いますし、個別株投資も「エンターテイメント」や「予測ゲーム」と割り切って娯楽資金でやるのであれば全く問題はないと思います。

(そもそも個別株に投資してくれる人がいなくなると株式市場自体が成立しなくなってしまうので、お金と時間に余裕がある人はどんどん個別株投資をやってくれた方が世の中のためになります)

しかし、お金にも時間にも余裕の無い方は運ゲーにはできる限り手を出さない方が賢明です。

老後の資産を着実に形成したい人は個別株投資には手を出さず、先述したインデックスファンド、その中でも特に分散効果の高い「全世界株式のインデックスファンド」に、新NISAやiDeCo等を通じて無理のない範囲で粛々と積み立てていくのが無難だと思います。



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