見出し画像

【聖夜に起こる不思議な話in Advent Calendar 2023】皆の祈りが届きますように

久賀池知明さんのアドベントカレンダー企画に参加している作品です
・本文は7000字強💦あります
・虎徹書林ぷれぜんつ【チョイ怖シリーズ】の出張版て感じの、チョイと怖くて不思議なテイストで『クリスマスにみんなの願いが届くべきところに届くとイイネ』をテーマに書いてみました。


1.彼女の祈り


 彼女がラジオのスイッチをオンにすると、スピーカーから「夜半から雪が降り始めるでしょう」とさも嬉しそうなアナウンサーの声が転び出た。その声の消え際、滑らかに流れ出したのは、かの大御所歌手が歌う『ホワイトクリスマス』。
 キッチンの壁に掛けられたカレンダーはもう最後のページを残すのみ、日付の半分以上が赤いバツ印で消されている。
 彼女はうっとりと赤いペンを取り、新たなバツ印を書き加えた。キュ、キュ、と。音を立てるフェルトのペン先がコート紙を赤く染める。そのインクよりも深みのある赤で塗られた爪がえぐれたように欠けていたり、ささくれに血が滲んでいても、彼女はお構いなし、というかむしろそれすらも大満足しているようだった。
 そう……彼女は全てに満足していた。彼女の人生は彼女が思い描いた通りの、完璧な幸せで満たされているべきであり、実際それは彼女の努力によって今までもこれからもこの素敵な家の中で叶い続けている。
 ラジオからは次のクリスマスソングが流れ出した。弾むようなリズムに合わせて、彼女は鼻歌を歌い、窓の外に広がる鉛色の雲に微笑み、踊るような足取りで居間へ向かった。
 居間の暖炉は赤々と燃え、そのそばにはほとんど飾り付けが終わったクリスマスツリーがあった。
「お鼻の赤い、にゅRy#;っぷ~」
 途中からどの言語体系にあるのかわからない歌詞を口ずさみながら、彼女はサイドテーブルから黄金のモールを手に取り、クリスマスツリーに巻きつけていった。一歩下がってバランスを見て、気に入らないところを少し直して、遂に大きな星をツリーのてっぺんに据える。
 一点の曇りもない天頂の星に映る暖炉の炎は、ヌラヌラと、どこか生き物じみて見えた。
 地獄の業火の舌は聖なる星に届かぬのが道理であるように、作り物とはいえ、ツリーの上で煌めく星もまた、幸せな一家が永遠に幸せである象徴であらねばならない。
 だから――彼女はその鏡面に、幸せな自身が映るように微笑み、足元をもぞもぞと横切る『それ』に気付くことをしない。
「私たちの大事な『あなた』の、クリスマス」
 年に一度のクリスマス!と彼女ははしゃぐと、暖炉の上に飾られたいくつもの写真立ての中から一つを取り、胸に押し抱いた。薄っすらと涙を浮かべるその瞳は、再び写真の中の家族の肖像を見つめつつも、ギラリとした望みを宿す。
 欠けた爪がなぞる先には、夫と、彼女の母と、腕の中におくるみに巻かれた赤ん坊を抱く彼女が、一列に横並びしている。
 母として、妻として、人生で最も輝かしい瞬間は、この写真の中に閉じ込められてはいない。その『瞬間』は七年前のクリスマスの日から、ずっと、ずっと、今この時も続き、明日も明後日も、来年のクリスマスにも再来年のクリスマスにも……未来永劫、続くことが約束されている。全てが彼女が望んだとおりに完璧であり、不手際など許すはずが無く、ゆえに母が嘆くような『失敗』はどこにもありはしない。
 彼女の微笑みは揺るがない。それほどまでに、彼女は彼女の敷いた人生設計図の美しさを信じていた。

 暖炉で薪が爆ぜる音に、遠くの夜鳥の声が重なった。それは、列車が分岐点の上を通過する時の車輪とレールがたてる、軽やかなメロディーにも似ていた。
 だからといって。魔法の時間が始まった、というわけでもあるまいに。
 ツリーの鉢の傍で、コト、と――水玉柄の包み紙にぴっちり包まれた小箱が鳴った。
 コ、コト、コトコトコトコトコトコトコトコトコトコト……箱の中で何かが徐々に回転数を上げているような。箱から出たいのではなく、むしろ小さな箱の中の、無限に広がっているかもしれない闇を探し求めているような。不思議と耳を傾けてしまう音。
 そして、箱の横に静かに佇んでいたガラス瓶の中で、ぐるん!とでんぐり返しをしたのは大きな目玉だ。まばたきができない目玉は終始びっくりしたように、右や左や斜め上を見て、でんぐり返しを繰り返す。
 無造作に置かれたドライフラワーの花束に見えたのは、何羽分束ねたのか見当もつかない鳥の足で、一本一本が一斉に宙を蹴る様はゼンマイ仕掛けの玩具みたいに滑稽!
 他にも蝶ネクタイみたいなリボンを掛けられた袋状のラッピングの中で何かが蠢いたり、木箱にみっちり詰められた毛玉がぷるぷると震えていたり。どの品もまるで意思と命があって、プレゼントとして贈られ喜ばれることは勿論、包みを開けるであろう『小さな御主人』の生涯にわたる無二の親友に為れるという希望に満ちているみたいだった。
「ほら、あなたのバースデープレゼントがお祝いをしたくて待ちきれないんですって!」
 あなたの好きなものは、ママ全部わかっちゃうんだから!と彼女は写真立てにツリー全体を見せようとばかり、眼前に掲げた。

 あと数回寝たらやってくる輝かしい夜。
 聖夜への期待に胸弾む彼女の祈りの熱気は、触れるものを甘くねっとりと包み込み、そこに在るものを在るがままに見せようとはしない。彼女が見たくないものは塗りこめられ、見たいと望むものへと描き変える。
 冷たい闇が凝る廊下の影でジッと佇む『それ』は、だから、彼女に干渉しない。
 やむを得ず彼女の幸せに踏み込んだとしても、彼女は決して『それ』を認めない。
 なんとなれば。
 家の目の前に黒い車が止まったことも。
 降り立った二つの人影の、一方は息を呑み、もう一方は嘆きと諦めの混じったため息をついたことも。
 玄関ドアの鍵穴に、古びた鍵が静かに差し込まれる音さえも。
 彼女の、幸せに曇った五感は何一つ捉えようとはしないのだから。

2.彼の祈り


 車を降りた彼が真っ先に感じたのは、数年ぶりに我が家に帰ったという喜びが微塵も湧いてこないことに対する絶望だった。
 彼と妻と、慎ましくも幸せに暮らしていると思いこまされていた『我が家』は、窓から漏れ出る灯りの揺らめきを見る限り、通りに面した全ての家と何ら変わらないように見える。
「ただいま」
 子供を望む妻に、運命は残酷だった。しかし、彼はそれでも良いと受け入れた。美しく愛しい妻がそばに居るならば、彼はそれ以上の幸せは無いと思っていたし、彼女の心の空虚を埋める幸せをいくらでも創り与えられると信じていた。
 実際、二人の暮らしは小さな幸せで満ちたりていた……はずだった。
 庭は彼女の大好きな花々でいっぱいにし、週末は彼女のピアノに合わせて歌い笑いあって、彼女の母が遊びにくるたび彼は大きな肉の塊を甘く柔らかく焼いて振る舞った。
――この幸せが、二人を死が分かつまで、続きますように。
 毎朝の祈りは、それほど大それたものだっただろうか?
 彼はあの頃の日課の祈りを未だ諳んじることができる自分に、思わず深いため息をついた。家を飛び出したあの日と同じく、彼の吐息は白い。
 願わくばあの日に戻り、全てを否定し逃げ出すという選択をした自分を殴りたい。現実と、妻と、きちんと向き合って、あの瞬間に決着をつけるべきだった。
 彼の目の前を段ボール箱を山と抱えた配達人が急ぎ足で通り過ぎ、イルミネーションで賑々しく飾られた隣家のベルを鳴らそうとしていた。
 そう……あと数日でクリスマスがやってくる。
 彼が思い描いていた明るく楽しい未来に辿り着くための家族という箱舟は、あの子――いや、あの生き物と呼んで良いものかもわからないアレが産み出され崩壊したクリスマスに、妻の頭の中で座礁したままになっている。

 おくるみの中で静かな寝息を立てるアレをはじめて見た時、彼は声にならない悲鳴を上げた。あの、何をどう処理してよいのかわからないという純粋な混乱は、誰に打ち明けても共感は得られないだろうと彼は大いに悩んだ。
 だが、アレを愛おしそうに抱き見つめる妻を見ているうち、妻が望んだ家族という形に寄り添う努力をしないという選択は間違っているような気がした。
 彼はアレを息子と呼び、可能な限りの愛をもって接した。本能のブレーキを振り切り、アレと遊び、風呂に入れ、フードプロセッサーで細かく砕いた食事を小さな銀のスプーンで食べさせた。
 アレはスクスクと育っているように見えた。体重が増え、獣臭とも腐臭とも違う曰く言い難い体臭が濃くなって、身の回りを黄色い体液で汚しながら歩くようになった頃、彼はアレと余所の子供を較べて、己を憐れむ自分に愕然とした。
 はじめての誕生日を指折り数えながらクリスマスツリーのそばにプレゼントを並べる妻と、それを虚ろな目で見守るアレを、廊下から眺めた時の言いようのない嫌悪感は最早看過し難くなっていた。
 そして迎えたクリスマスの朝、アレは小さなベッドの中でぐずぐずに崩れた肉塊になっていた。
 ホリデーを我が家で過ごしていた妻の母は、孫の突然の死を悲しむどころか、彼をキッチンに追いやり妻と大喧嘩を始めた。
――ママが送った材料を使わなかったわね!
――当たり前でしょ!あんな鮮度の悪い〇▲※
――何もわかってない!嗚呼、この失敗作
――私は悪くない!失敗したのはママよ!
 その後は口にするのも憚られる罵声の応酬になったので、彼はキッチンの隅でスコッチを呷って、視覚と聴覚の感覚を遮断するよう努めた。
 もう、何もかもが嫌になっていたのだ。
 彼は頭の中に靄のかかった気分で勝手口から外に出て、気付けば空港に居た。
 サンタの格好でやけに浮かれた男にぶつかり、なにやら罵声を浴びせられて我に返った。途端に涙がとめどなく溢れて、大声で泣き叫び、立ち方を忘れたようにその場で頽れた。狼狽えたサンタ野郎がまだ何か喚いていたが、彼の耳には何も入って来なかった。吐き気をこらえ、自力で立ち上がろうとしては転び、終いには胎児のように横になってうずくまり、夢で出来た殻の中に閉じこもった。

 彼の背中に、神父の温かい掌が触れた。
「さ、行きましょう」
 あの時、空港のロビーで、頭蓋骨の奥底に全ての記憶を仕舞い込んで世界から逃げだそうとした彼を、現実に引き戻したのもこの掌だった。柔らかな声で彼を奮い立たせ、長く続いた悪夢に一緒に向き合おうと支えてくれた。
 彼は振り向き、戦友と呼ぶにふさわしい神父に、力強い頷きをひとつ返した。

 家を出た時、彼の持ち物は家の鍵だけだった。
 古びた真鍮製の鍵は、鍵穴の奥まで滑らかに差し込まれ、カチリと、小さく発条が弾むような音を立てて回った。
 なるべく音を立てないように息を潜めて入った玄関ホールには、暖炉の炎の揺らめきが漏れ出ていて、階段の手すりの影を小花舞い散る壁紙の上に怪しく踊らせていた。
 耳を澄ますと、ラジオから流れるクリスマスソング、それに合わせて歌う妻の小さな声、そしてパチパチと薪が爆ぜる音の合間に、カサ、ペタ……と複数の妙な物音が混じっている。
 そっと居間に踏み入れた彼と神父の影が、煌びやかなデコレーションが反射する暖炉の炎の明るさで、赤に金にと浮かび上がった。
 それなのに。
「まるで時の墓場の姫君だ」
 神父がそう漏らしたのも無理はない。手入れの行き届いてない髪を結い上げて垢じみたドレスで着飾った妻は、家族写真を胸に抱えながら、ささやかな幸せを彼と二人で育んでいた頃そのままに、覚束ないステップを踏み歌っていた。
 やつれ果てた妻は彼らに気付く様子も無い。彼女を取り囲むように並べられた異様なオブジェは、或るものは新雪にも似た埃を被り、或るものは色褪せ干からびて、もはや呪物かどうかも疑わしいがらくたに成り果てている。
 あわよくば、留守の間に妻の時間が巻き戻ってくれていたら……という彼の秘めた祈りは虚しく散った。
 彼の妻は、あの日で時の流れを止め、彼の帰宅を待っていた。彼女の幸せを追い求めてただひとり、彼と可愛い我が子に囲まれた温かいクリスマスの夜を願い続けていたのだ。
 彼の横に並び立った神父がゆっくりと胸の前で十字を切った。
「喜ばしきは、私の出番はないということでしょう。人間、誰しもが思い込みで間違った判断をするものだ……大丈夫、然るべきお医者様に診ていただければ、まだ可能性は」
 そこまで言った神父の瞳が俄かに光を失い、彼に抱きついて助けを求める間もなく倒れた。その様子はまさに、糸が切れた操り人形といった風で、彼はただ呆然と、抉れた脇腹から大量に出血している神父を見下ろす他に為すべきを見つけられなかった。

3.祈り続けた子の独白


 ぼくは花壇の真ん中に立った『きねんひ』の上に座って、居間でママが歌ったり踊ったりするのをずっと見てきた。それがぼくの『やくめ』だから。
 さっき、パパが知らないおじさんの運転する黒いくるまに乗って、おうちに帰ってきた!
 くるまの屋根とボンネットには、あっという間に雪が積もって、お向かいに住んでるトミーがやるみたいに雪を指でなぞって犬の絵を描きたいけど、ぼくは『きねんひ』から動けない。いいんだ、退屈は慣れてる。
 ぼくにまだ『からだ』があった頃、ママはぼくを毎日ほめてくれた。世界一のおりこうさん。宇宙で一番のいとしい子。たくさん、たくさん、ぼくを好きだって言ってくれた。
 だから、右腕が肩ごと逃げた時はびっくりした。ママがあんなに大きな声で叫ぶと思わなかった。
「これじゃまるで、デキソコナイじゃないの!」
 右腕は床に落ちた途端にぴょんぴょん跳ねて、そのままどこかにいった。
 誕生日の朝に、ぼくの『からだ』は完全に『ぶんかい』した。
 ぼくはその時、本当の自由を知った。うまく動かない手足、重たい頭や不愉快なおむつが、まったく必要のない完璧なぼくになった。うれしくて、パパとママの寝室を覗いたり、森に住んでる黒い犬の鼻を触りに行ったり、地下室に右腕が隠れてるのを見つけたりした。
 ママとおばあちゃんはケンカをしていて、パパはどこかに出掛けて行った。完璧なぼくを、誰もほめてくれなかった。
 ぼくが『きねんひ』の上に座ってるのは、おばあちゃんがぼくの『からだ』を花壇に埋めてその上に『きねんひ』を立てたからだ。おばあちゃんは毎日朝と夕方、花壇に水やりをするたびにママを守ってねと言った。
 そういえば、おばあちゃんはいつ居なくなったんだろう?

 おばあちゃんが居なくても、ぼくはママを見守っている。花壇に花が咲かなくなっても、雑草だらけになっても、ママが大好きです。
 今年もぼくと『からだ』がママに拵えられたクリスマスがやってくる。ママがツリーを飾り付けて、ぼくの大好きな歌を歌ってくれる。
 しかも今年はパパが帰ってきたんだ!
 おうちの中がパッと明るく輝いて、ママとパパの顔が少しだけ見やすくなった。

 なんで?
 アイツ、ママのそばで何をしてるんだ?

 ぼくから逃げた、あの腕が。
 知らないおじさんのお腹を掴んだ。
 パパはおじさんが倒れるのを、バカみたいに見ていた。
 ママはパパのこともおじさんのことも、居るのに気付いてないみたいにフラフラ踊ってる。
 右腕が跳ねて、ママの横っ面を叩いた。
 ぼくはママと目が合った気がした。

 右腕が窓に近づいて、ぼくに向けて手のひらを揺らした。そして振り返ると、腕全体をぎゅーっと押し縮め、ぴょーん!と、ツリーのてっぺんの大きな金色の星を掠めて、はじめから狙いを定めていたみたいに真っ直ぐに……暖炉の中に飛び込んだ。
 ぼくは何がなんだか、わけがわからなかった。
 暖炉の中が真っ白に光って、音が全部消えたと思ったら物凄く大きな、聞いたことの無い音がして、木くずやガラスの破片やママが集めたプレゼントの欠片や……ぼくのおうちにあったいろんなものが砕け散って、大きなうねりになって『きねんひ』を吹き飛ばした。
 ぼくは『きねんひ』といっしょにふっ飛ばされたけど、パパのくるまの屋根にしがみついて無事だった。『きねんひ』はお向かいの家の消火栓にぶつかって粉々になった。
 くるまの屋根の上で二回、軽くジャンプしてみた。宙返りも試してみたけど、今までで一番上手にできた気がする。
 重たい『からだ』も『きねんひ』もママも、もう何もなくなった。

 ぼくは自分の手のひらを顔の前にかざしてみた。
 左右にひとつずつの手のひらに指が五本ずつ生えていた。水かきも緑色の鱗もない。それどころか、冬の夜空みたいに透明で、ぼくはぼくの手のひらを透かして、ごうごうと音を立てて燃えるおうちを見ることができた。
 とても不思議なのだけど、ゆらゆら揺れる火の粉に乗ってたくさんのぼくのなかまが空に還っていくのと、ぼくもそう遠くない未来に同じように還るんだなってことがすぐにわかった。
 ああ、それまでにいっぱいおそとで遊べますように!

4.クリスマスの怪事件


 十二月某日。デイリーマーズリ紙に掲載された特集記事(一部抜粋)

 原因不明の火事で全焼した家の周囲は、未だ焼け焦げた臭いが立ち込めていた。
 その場に五分も居れば気分が悪くなるほどの強い悪臭のおかげか、規制線を越えようとする度し難い目立ちたがりも現れず、警備の緊張感も薄れてきたクリスマスの朝、その痩せこけた黒犬はどこからともなくやってきた。
 犬は特別な招待客であるかのように、悠然と敷地に入り、或る一か所を熱心に掘り起こしてなにやら板状のものを咥えて嬉しそうに走り去ったという。黒犬の目撃者は何人もいて、訊かれてもいないのにその怪しさについて身振り手振り交えて語ったものだから、町は『クリスマスの怪』と題したオカルティックな噂が絶えなくなってしまった。曰く、黒犬はどこぞの魔術師の使い魔で、持ち帰ったのは全焼した家に伝わる某カルトの儀礼書であり、火事の原因も儀式の失敗にある、とかナントカカントカ。
 中には焼け跡に佇む少年の幽霊を見た、彼は儀式の犠牲者だ、などと主張する者もいて、噂は収束するどころかますます加熱、今日に至るまで語り継がれた次第である。
 火事から数十年経った現在、現場にはクリスマス関連のグッズを専門に扱うショップが建ち、毎年多くの人々が一年を通して、家族の無病息災を願いながらグッズを買い求めるそうだ。まったくもって商魂たくましい街と、火事の犠牲になった一家の魂、そして世界中のオカルトマニアたちが永遠に安らかでありますよう、主の御心が為されますように。


<おわり……最後まで読んでくださってありがとうございます。どうぞ素敵なクリスマスを🎄>

よろしければサポートをお願いいたします!サポートして頂きましたらば、原稿制作の備品や資料、取材費、作品印刷代、販路拡大、広報活動……等々各種活動費に還元、更なるヘンテコリンで怖かったり楽しかったりする作品へと生まれ変わって、アナタの目の前にドドーンと循環しちゃいます♪