鎌倉に行った。話

ほろびてをソロカンパニーに戻し、今日から本格的に動き出した案件があり、気合が入る。それはともかく……。

先日、電車に乗っていて無計画なまま鎌倉へ行った。まず言いたいのだけど、電車はどうしてあんなに眠れるんだろう。きっと揺れているからだね、という答えに行き着いた。家が揺れるのはいやだけど、電車は揺れるに決まっていると知っている。移動する箱が揺れているのは安心するようで、眠れてしまう。よって鎌倉までの移動中に睡眠を確保。

鶴岡八幡宮に行こうと思ったけど人出が多すぎてやめた。江ノ電に乗る。まもなく日没という時刻。人はそこそこいるけど鶴岡八幡宮ほどではなく、湘南新宿ラインよりもずっと神経質な揺れに触れながらしばらく車窓を眺める。ある駅をすぎるとそれまで線路沿いの民家の生け垣や植木ばかりだった車窓の視界がひらけ、見はるかす水平線。海面に浮かぶ無数の波に目を奪われる。僕はこれが見たかったんだなと、この時に気づく。圧倒的を見たかった。こまごましたものじゃなくて。

江ノ電の窓や天井がなければもっと気持ちが良かっただろう。しかし江ノ電の窓や天井は僕らの安全を守ってくれている。ありがとう、窓や天井。江ノ島駅で降りる。迷わず、行き慣れた道を進む。こんなんだったらスニーカーにすればよかったけど、履いているのは完全に革靴だ。いいじゃないか、いい具合になめされてくれたまえ、と足に念を送る。応答はない。

長い弁天橋を歩く。カモメみたいな、とんびみたいなのが飛んでいる。心のなかで「わたしはカモメ!」と叫んでみる。そう、あのセリフですよ。と、この一瞬だけは自分が演劇人であることを思い出した。いかんいかんと、何がいかんいかんなのかわからないが、気を取り直して前進だ。江ノ島は、相変わらずの傾斜だった。お店もほとんどが開いていて、だけど前に来たときよりも若返っている気もする。売っているアイテムがチャラい気がする。気のせいかな。タコせんべいは相変わらず売っていて、相変わらず行列があって、相変わらずそこそこでかいタコせんべいを立ち食いしてる人々がいて、彼らを横目にしながら相変わらずじゃ~ん、とニヤついた。マスクがあるからよもやわかるまい、しれっと通り過ぎるメガネの男がニヤついていることなど。

カップルが多くて憤慨する。

こちとらディスタンスを大胆に守っているというのに、くっつきやがって。

サミュエルエルジャクソン園みたいな名前、ど忘れしたけど、江ノ島の高い場所にあるそこを通り過ぎるといよいよ大詰めという気持ちになる。僕は江ノ島に来るたびに、必ず岩屋まで行くのだ。のだ、と言われても困るだろうが、そうして来ているのだ、仕方がない。

手前の看板に「岩屋」「9:00〜17:00」と書いてある。時計を見ると16:59だ。急げば間に合うな。1分を1時間と考えればまだ1時間はある計算だ。じゃなければ、僕が通常の3倍の速さで生きれば少なくとも3分はある。うーん、3倍でも3分か……。到底回れないじゃないか。などとぐずぐず考えているうちに17:05になっていた。入り口を恨めしそうに見ていくか。

森(と表現させてもらうが、神社のこと)を抜け、下りの階段。江ノ島の反対側に来た。視界がひらける。わお〜〜、と声が出た。水平線。僕は水平線が大好きだ。そして日没前の太陽が雲に引き伸ばされて不思議な形で光っていた。雲がいい仕事をしていた。しかも、あっと気づく。少し右に、薄っすらと見える山がある。えっ?えっ?と心のなかで騒いで、スマホのグーグルマップを見る。よくよく確認する。やっぱそうだ。富士山だ。

何度も来ているのに、富士山が見えることに気づいたのは初めてだった。このあとめちゃくちゃ富士山撮った。太陽も撮った。岩礁を歩けるようになっていて、稚児ヶ淵というのかな、そこに降りてみる。カップルがくっつきまくっている。クビの長い鳥が偶然近くに降り立ったので写真を撮る。後ろにカップルが写り込んでしまうが、どうにかアングルを工夫して鳥のソロショットをゲット。満足して岩礁を歩いていると、上からパラパラと何かが降ってきた。え、雨?と思って見上げると、キッズが2人、上から砂をまいていた。ちょっと観察していると、どうやら下に人が来るタイミングで砂をまいているらしい。めちゃくちゃやな奴やんけ。カップルにもまいていた。カップルならしょうがないか。いや、しょうがなくないな。

日没を見届けようと思ったけど、そこまでの景色も堪能したし気分はすっきりしたので引き返すことにした。帰り道、上り階段を登り始める時に、前を進んでいたカップルの真後ろになった。彼氏が先に登っていて、後ろから追いかけるように彼女が登っていた。女の子のミニスカートが、僕の目線にある。わわ、このポジショニング、めちゃくちゃ覗きの人みたいじゃん、と思っていたら、案の定、女の子はスカートを押さえるようになり、彼氏がチラチラ僕を見、彼女の腰に手を回す。

そんなつもりはないんだ!と言いたいんだけど、そんなつもりがありそうな立ち位置。仕方ない。一旦引き返す。距離をとって誤解が解ければいいなと願う。いや、こんなことに願いを使いたくないんだ僕は……。しばらくして、だいぶ距離も開いただろうしということで、あらためて帰路。すこし先に進んだところの神社にさっきのカップルがいた。僕は足早に通り過ぎる。最初から追い抜かしてさっさと先に行けばよかったのだ。次にそういうことがあればそうしよう。

江ノ島駅。湘南モノレールに乗って大船まで。大好きだよ、湘南モノレール。窓際に座り、下をずーっと眺める。飛んでるみたい。かっこいい。すっかり暗くなっていたけど、夢中になって外を見る。

大船のルミネで甘いものを食べたいと思って、たい焼き屋さんで安納芋あんのたい焼きを購入。そういえば江ノ島では一銭も落とさなかった。1000円くらい使えばよかった。みんな大変なんだよ。互助しよ互助。自分はできてないくせにそんなことを考える。安納芋あんはさいっこうに美味しかった。シメにスタバでドリップコーヒーを飲む。たとえ地の果てであっても、スタバのドリップコーヒーは変わらぬ味だ。あ、いえ、地の果てというのは大船のことではなく、「たとえ」の話なので、ええ。

そして、電車にのる。帰り、ドストエフスキーを読みながら帰ろうと思ったけど、地元の駅までガッツリ1時間、寝る。やっぱり揺れる電車は眠れるから。

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