見出し画像

空腹の桃太郎 * ショートショート

豚、牛、ニワトリを仲間にした桃太郎は、
鬼ヶ島を目指し旅をしていた。


鬼ヶ島への道のりは困難を極めた。


まず、正確な場所がわからなかった。


豚も牛もニワトリも探索能力は低かった。


ニワトリに関しては「空を飛べない鳥」という事実に
憤りを覚えた。

そして遅い。

すぐに寄り道をするニワトリ、
一瞬のダッシュ力はあるがすぐに疲れる豚、
基本的に全てが遅い牛。

予定していた日程はどんどんずれ込んだ。


そして、1番の問題は食料であった。


唯一持っていたのはお婆さんが作ってくれたきびだんごと水。


きびだんごは、口の水分を奪った。


きびだんごを食べると水も欲しくなる悪循環。


きびだんごも水もあっという間に底をつきた。


極度の空腹と渇きで桃太郎はげっそりと痩せ細り、精神的にも限界であった。


豚は、枯れ草をたべていた。


牛は、草を食べていた。


ニワトリは、ミミズを食べていた。


桃太郎だけが空腹であった。


ついに桃太郎は力尽き倒れ込んでしまった。


「せめて水があれば」
豚が言った。


そのとき、牛は閃いた。


「桃太郎さん、桃太郎さん私の乳を飲んでください」


そう言うと、桃太郎の口の前に自分の乳房を差し出した。


「自分の子供にしか飲ませない乳ですが、きびだんごのお礼だと思って遠慮なく飲んでください」


桃太郎は、遠慮なく乳房に吸い付いた。


喉の渇きは潤った。


しかし、空腹から力が出ない桃太郎は立ち上がることすらできなかった。


するとニワトリは、苦渋の決断をした。


「桃太郎さん、桃太郎さん、私の卵を食べてください」


ニワトリはそう言うと、1個の卵差し出した。


「私の大事な子供ですが、きびだんごのお礼と思って食べてください」


桃太郎は遠慮なくその卵を口の中に放り込んだ。


桃太郎は、なんとか元気を取り戻した。


「みんな、大事なものをありがとう」


桃太郎が、そう言うと豚が申し訳なさそうに見ていた。


「豚さん、そんな顔をしないでくれ。君だっていつか役に立つ時が必ずくるよ、必ずね」


桃太郎はそう言うと、豚の肩からお腹にかけてゆっくりとさすった。


「はい、その時は私の全てを捧げます」


豚は能天気な返事をした。

ニワトリと牛はなんだかそれがとても恐ろしい前兆のように思えた。

いただいたサポートは大切に活動費として使わせていただきます。 よろしければ、どちらの作品よりサポートしていただいたかメッセージを添えて頂けますと、その作品に携わった人間で分配いたします。 よろしくお願いいたします👧👦