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【小林製薬・紅麹事件】機能性表示食品、健康食品をここぞとばかりにたたく人へ

小林製薬の紅麹事件については、わざわざ説明する必要もないほどに毎日のように騒がれていますね。こんな状況ですから、世間から叩かれまくっていてもしょうがないと思いますし、機能性表示食品の仕組みに問題があったんだと批判する方が一定数出てくるのもしょうがないと思います。

でも、食品メーカーに勤めていると、この問題がそんなに簡単に批判したり、メーカーを叩けるような問題ではないと感じます。そこで、この記事では、自分が思っていることを3つのポイントに沿って説明したいと思います。小林製薬の紅麹を摂取して体調を崩された方にとっては不快に感じる記事かもしれませんが、お赦しください。

3つのポイントは以下の通りです

⚫︎ 対応が遅かったは、結果論
同じ立場で回収を判断することは極めて難しいし、後から色々言うのはずるいかな。

⚫︎ 制度の不備で起きた事故とは言えない
叩くなら、小林製薬でも、機能性表示食品の制度でもなく、国内で販売を許可していることでは?

⚫︎ 100%安全な食品はない

対応が遅かったは結果論

まずよく見かける指摘で対応が遅かったという話です。これは、正直言ってその通りだと思います。僕も情報を公開するまでに1ヶ月かかったと言うのは遅すぎると思うし、当の小林製薬でも同じように思っていると思います。

でも、すぐに回収という判断ができるか?
回収しなかったとしても、厚生労働省や消費者庁へ報告をできるか?
という質問に対して私なら迷わずに回収をする!と断言できる人は極めて少ないのではないかと思います。

もしも隠ぺい体質があって遅れたのなら、正直、半年とか1年とかかかってもおかしく無い話なので、1ヶ月で回収判断をしたのも死ぬほど急いだ結果の可能性が大いにあります。

そもそも、これだけ大きな問題になっていますが、今でさえも、紅麹と腎疾患の因果関係を明確に示せているかというとそうではありません。あくまでも可能性に留まっています。それでも全ロット回収の判断をしたことには一定の誠意は感じていいのかなと思います。

最初に小林製薬に紅麹と腎疾患との関連が疑われると報告した医師の目には、腎疾患で入院してきた患者3人が紅麹サプリメントを飲用していたと聞いて、極めて強い因果関係を感じたと思います。

そして、この日大板橋病院の情報提供が今回の回収のきっかけになったのですから、ファインプレーだったと思います。

でも、小林製薬側の立場からすると、これまでに聞いたことが無いような腎疾患の有害事象がたった1つの病院で、いきなり3例出たと聞いたら、そんなに簡単に信じて良いものか不安なはずです。

同じ現象でも、臨床現場と小林製薬で見え方が違うということはあって当然で、お客様も含め、様々な視点から冷静な判断が求められます。

メーカー側の視点で言えば、

  • 我々はこれまでに一体いくつ販売してきたと思っているんだ?

  • なんで他の病院では同様の情報がないのに、この病院で腎疾患が集中するんだ?

  • そもそも、紅麹サプリメントを飲んで腎疾患で入院する人と飲んでいなくて入院する人のリスク比を計算しなければ、リスクが上がっていることすら分からないのでは?

みたいなことを思ったのでは無いでしょうか。こんなことを考え出すと、即回収とか、即厚生労働省に報告するなどと言った考えには普通はならないと思います。また、そんなことを報告して、自社のネガティブプロモーションをかけてしまうと、その対応に追われて関係部署もパンクさせて・・・と負の連鎖になってしまい、肝心の調査も遅れてしまいます。

今回の場合には最終的に回収という結論になったので、すぐに報告しなかったのはよくなかったとなりますが、現場は限られた情報の中で、原因究明、正しい情報発信、健康被害の拡大を最小限に抑えるといった様々な課題に直面するわけで、回収になった後でその時の判断が間違っていたなどと批判するのはフェアじゃないよね、というのが僕の考えです。

制度の問題とは言えない

今回の一連のニュースの中で、EUでは紅麹サプリメントはシトリニン含量の基準値を設けていること、スイスではそもそも売買が違法となっていることも紹介されました。そして、紅麹のような危険な食品を販売している小林製薬や機能性表示食品の安全性を確認しているはずの消費者庁をここぞとばかりに批判しているような論調が散見されました。

でも、なぜか海外で販売が禁止になった時に日本で販売を禁止にしなかった事に対する批判は少ないんですよね。僕としては、これはちょっと腑に落ちません。だって、EUでは規制しているとか、スイスでは販売禁止だといった話を引き合いに出すなら、日本で紅麹の販売を禁止にしなかったことを批判するのが自然じゃないですか?

若干、論理がズレていますよね?僕は、これは初めから小林製薬を叩きたい、機能性表示食品を叩きたいっていう意識があるからじゃないかと思うんです。特に、機能性表示食品の制度に批判的な意見は目立ちました。

確かに、一般の食品に比べて”攻めた表現”が可能となるにも関わらず、内容のチェックは甘く、安全性の課題を露呈してしまった機能性表示食品の制度に対して批判が出ること自体はしょうがないかなとも思います。でも、正直なところ、そこのチェックが機能していたとしても、僕は今回の紅麹事件は回避できなかったと思っています。

例えば、紅麹の届出資料では、細かい内容までは確認していませんが、RCTできっちり安全性試験を行っています。しかも、2ヶ月の連続摂取と過剰投与の試験をしているので、不十分だったと指摘するのは酷だと思います。そもそも、今回の患者は1年半くらい摂取を続けていて、腎障害を起こしているので、一般的な1〜3ヶ月の安全性試験では腎障害の有害事象は発見できない可能性が高いと思うのです。さらに、今回の被害が特定ロットに限定的だったとしたら、それは品質管理などの問題になってくるので、販売前の届出は基本的に関係がない話になります。

だから、気持ちは分かるし、一見すると納得しそうだけど、今回の紅麹事件で機能性表示食品の制度を叩くのはちょっとズレているんじゃないかな〜。トクホだったら回避できたかもしれないとは、多少思います。でも、この事件が機能性表示食品制度の欠陥によるもの、小林製薬が制度を悪用して引き起こしたものと言う論調は話をすり替えていないかな〜。

100%安全な食品はない

最後は100%安全な食品はないということです。

今回の事件で食品開発を担当していた身として一番思うのはこれです。これにつきます。安心安全は食品メーカーがもっとも気にしていることであり、日本のプライドです。でも、どんな食品でも100%安全とは絶対に言えません。

農産物だって、発酵食品だって、未知の成分まで含めればそれはブラックボックスのかたまりです。砂糖や塩だって摂取量が変われば毒にでも薬にでもなります。そして、メーカー側が完全に安全なものとして提供できるとしても、お客様の方で腐敗させてしまうことだってあります。

だから、100%安心安全なんて誰も言えないんです。あくまでも自分たちで把握できる範囲で安全でしたということなんです。最善の努力はしていますが、100%安全なものを提供しろと言われたら、我々はお手上げです。

本当に大丈夫なのかな?安心安全と言い切れるのかな?という心配のレベルで言えば、多分、事件前の僕なら、紅麹よりもよっぽど生牡蠣によるノロウィルスやユッケによるO-157の方が怖いと思いますし、管理の不十分さで言ったらうなぎ屋さんの秘伝のタレが優勝です。

今回の紅麹事件から連想する食の安心安全は、サプリメントに限定した話ではないと思うし、ましてや紅麹に限ったことではありません。だから、全ての食品に共通して起こりうる問題なんだということを僕たちはちゃんと自覚して、襟を正す必要があると思うし、どんなに規制を厳しくしたとしても、ゼロリスクにはできないんだという限界を認めた上で、どうしたら良いのかを考えなければいけないと思いました。

また、これは、どこまで食文化を守り、どこまでリスクを許容するのかというバランスの話でもあると思っています。サプリメントは食経験が短いので、リスクに対する許容範囲が狭く、余計に厳しい目で見られてしまったのかな〜とも感じました。まあ、食というのは情緒的なものなので、これはしょうがないんでしょうね。




以上、感じていることをとりあえず3つほどまとめてみました。僕は食品メーカー勤務の立場なので自分で今回の事件を俯瞰して見ているとは思っていません。ただ、ニュース記事に出てくる専門家はアカデミアが多く、現場目線の話が少なかったのは、それはそれで偏っているとも感じました。ですので、あくまで1つの意見として記事にさせていただきました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。



【追記】
そうは言っても小林製薬を擁護できないよね〜という記事も書きました。宜しければ読んでください。


                      

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