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【音楽・カバー聴き比べ】「愛は勝つ」の聴き比べ

(本記事の字数 計5,573字)

※長文ですので、お急ぎの方、結論だけ知りたい方はお手数ですが以下の目次から「まとめ」を参照してください。

■「愛は勝つ」との出会い

その曲に初めて出会ったのは中学1年生の頃だった。実に14年もその曲を聴いてきた訳だが、未だに聴き飽きたと感じたことはない。もっと言うと、ヘビロテして聴くことができるくらい、気に入ったのである。きっとこれからも、何度も何度もヘビロテするんだろう。一体生涯でこの曲を何回聴くことになるのだろうか。
1990年にリリースされ、翌年のレコード大賞では、見事、大賞を受賞した名曲「愛は勝つ」(作詞・作曲:KAN 編曲:小林信吾)。当時、CDは200万枚以上の売れ行きだったと言われ、空前絶後と言っても良いほどの大ヒットダブルミリオンセラーである。そんな名曲だからこそ、今なお、カバーをするアーティストの方も多い。また、コロナ禍というこの時局の中で、「自粛、自粛、また自粛」という塞がった世の中の空気を晴らすかのように、人々の気持ちを鼓舞するべく様々なアーティストがこの曲を歌っているのを耳にする。「愛は勝つオタク」の私から言わせると、最近のYouTubeへの「愛は勝つ」関連の動画の投稿が、明らかにコロナ禍以前のそのペースよりも格段に増しているのである。(YouTube内で「愛は勝つ」で検索し、投稿日順に並び替えると何となく見えてくる)
今回は、そんな名曲「愛は勝つ」の様々なカバーを聴き比べてみて、個人的に特に良いと感じたものについて、いくつかこの場で紹介してみたいと思う。それなりに記事が長くなると思うが、どうか最後までこの「愛は勝つオタク」の御託に付き合ってもらえると幸いである。

■ 言わずもがな、だが

まず最初に紹介させていただきたいのは、やはり張本人であるKANさんの原曲「愛は勝つ」である。「様々なカバーを紹介する」とついさっき言ったばかりなのに、原曲を紹介するなんてこの嘘つきめ!と思う人もいるだろう。でも、その気持ちを差し置いても、原曲を紹介せずにはいられない。ただ、公式のチャンネル等による音源がないため、もし原曲を知らないという方がいれば、YouTubeで適当に検索して聴いてみてほしい。
そもそも私がこの曲を気に入ったのは、少しの揺らぎもなく流れ行くような単調なリズムパターンに、これほどにまでストレートに突きつけるかと思わせる歌詞である。一説によると、この「愛は勝つ」は、ビリー・ジョエルの「アップタウンガール」を模倣して作曲されたものだと言われているが、どちらにしても、あの単調さが私にはたまらない。そこに余計な飾り付けはもはや不要だと思うのである。とりわけ、間奏に入った際に感じる、極めて規則的に配置されたベースラインに乗せられているかの如く流れるピアノのメロディ・・・。そこに得も言われぬ良さを感じるのは私だけだろうか。
また、歌詞も歌詞である。この曲の歌詞のどの部分を取って見ても、まどろっこしい部分が見当たらないのである。こんなにストレートに「心配ないからね」「信じることを決してやめないで」「最後に愛は勝つ」なんて、面と向かって言える大人はそうそういないのではないか。この曲だからこそ許されるストレートな歌詞も、魅力の一つと言って良いと思う。
もちろん、歌っているのがKANさんだからこそ良いと感じることができる部分もあるのだろう。失礼を承知の上で言わせてもらうが、KANさんはきっと歌い方が器用な方ではないのだと思う。(全国のKANさんファンの皆様、貶めるために言いたいわけではないのでどうかお許しを・・・。)でも、その不器用さがこの曲にとって実に大事な要素で、仮に、熟れた様子で器用に歌われると、少し興ざめてしまう。「不器用なんだけど、僕(私)はこんなにも熱く唱っているんだ」ということをこの曲を通して感じてもらえれば、歌い方として正しいのではないかと、あくまで私は考えている。
まだまだ語りたい「愛は勝つ」の原曲の良さはたくさんあるが、そろそろ本題を見失いそうである。道草を食うのはやめて、私が個人的に良いと感じたカバーについて紹介することにしよう。

■「Oh...」ではなく「ラララララ」!?

目次を見て、もしあなたが真に「愛は勝つオタク」ならば、分かる人ももしかしたらいるのかもしれない。
「愛は勝つ」の歌詞の途中には、「Oh...」と言いながらメロディーを紡ぐ部分が2小節ほど、曲全体で計2回ある。その人のカバーでは、何と「Oh...」の部分が「ラララララ」と、謂わば音を伸ばしているのではなく、音を刻んでしまっているのである。原曲を知っている人間からすれば、とんでもないカルチャーショックであるに違いない。
このカバーを提供しているのは、女優・グラビアアイドルの市川由衣さんである。これまた、記事に掲載できる正式な音源がないため、申し訳ないがYouTubeか何かで検索してみてほしい。まず、カバーにありがちだが、キーが原曲と異なりヘ長調である。そして、タイトルの通り、歌詞が異なる。また、原曲ならば最後に転調があるのだが、このカバーにはそれがない。原曲と比べてすぐに分かる違いと言えばこれくらいだろうか。
YouTube等のMVを見てみると分かるのだが、市川さんのカバーでは、彼女が幼稚園児と思しき子どもたちと戯れている様子が表現されている。察するに、名曲「愛は勝つ」は原曲でもかなり平易な造りとなってはいるが、子どもたちにより親しみを持ってもらう意図の下で編曲されたのではないかと感じた。バカみたいな説明だが、「Oh...」は平易であるが一応英語である。一方、「ラララララ」は日本語だし、全然難解ではない。「ラララララ」とハミングっぽく歌う方が、何となく音楽を心から楽しんでいる雰囲気すらある。
また、最初に述べたようにこのカバーではヘ長調となっているが、案外、違和感なく聴けると感じるのは私だけだろうか。カバー曲にありがちなのが、カバーするアーティストの声域に合わせてキーを変えてしまうということだが、それが故に原曲のキーによって成り立っていた曲の背景が崩れてしまうということも少なくない。ヘ長調の「愛は勝つ」には、それがないように私は思う。というか、後々述べるが「愛は勝つ」はどんなキーでも、比較的、違和感が出にくい曲なのではないかと思う。
さらに、「子どもっぽい」この編曲に対して市川さんの歌声がかなり合っていると私は感じる。まるで親が子どもに物語を言い聞かせるような、そんな雰囲気を醸し出しながら歌っているのがよく分かる。初回の「心配ないからね」のインパクトは想像を超えるものがある。
「愛は勝つ」の良さをたくさんの人に知ってもらいたい私としては、市川さんのカバーのように子どもたちに向けた編曲は実にありがたいものである。童心に返って、市川さんの「愛は勝つ」を純粋に楽しむのも私のおすすめの一つだ。

■ 男性シンガーには演出できない声色?

差別をするつもりは毛頭ないが、やはり男性シンガー、女性シンガーそれぞれの歌声の特徴、とりわけその良さがあると思う。一方で、男性もしくは女性のどちらかにしか出せない歌声の特徴も(残念ながら)あるように思う。でも、それは決して短所などではなく、むしろこの場合は、それぞれの長所を生かす工夫をする余地があるのだと考えるべきだというのが私の持論である。
次に紹介するのはWatanabe Rinoさんのカバーだ。非常に申し訳ないのだが確たる情報がなく、著作権の都合上、載せられない情報もあるので、読者の皆様が「これだ」と認識できるようにジャケット画の特徴だけ言葉で述べておくと、元々、森永製菓が販売していた「不二家ネクター(NECTAR)」という缶ジュースのラベルを模倣した画となっている。ちなみにそのジャケットに書かれているのは当然「ネクター」ではなく、「J-POP ALL STARS -90's HITS- 溢れる懐かしさ」である。
正直に申し上げると、彼女のカバーを聴くまでは、Watanabeさんの歌声がどんなものなのかを存じ上げていなかった。ただ、色々な「愛は勝つ」を聴いてみたいと思っていた私が、ある日何とはなしに調べていたら見つけたのが彼女のカバーバージョンである。結論から言うと、このカバーへの感想は、「ただただ良かった。熱が込められていた。」という所である。
原曲の説明の部分でも申し上げたが、この曲は器用に(語弊があるかもしれないが、冷めた感じで)歌うのではなく、不器用でも良いから、気持ちをこめて熱く唱うのが本来のあり方だと私は考えている。彼女のカバーを聴いてみて、Watanabeさんの歌い方が不器用だとは全く思わなかったが、その歌声に熱が込められているのを私は感じ取った。その一方で、転調した後の「最後に愛は勝つ」の部分では、若干、彼女の歌声が裏声っぽく、少し抜けたような雰囲気になっている。この部分が、私が一番興味深いと思った部分だ。要は、転調後の「最後に愛は勝つ」なんて、まさにサビ中のサビの部分で、誰が歌っても基本的には盛り上がってしまう部分なのである。その部分を、声域の関係もあるのかもしれないが、少し力を抜いたような歌い方をする。しかし、それでいて熱が込められていない雰囲気は微塵も感じない。そんな彼女の歌い方に、私は一票を投じた。
ちなみに、このカバーではイ長調が採用されているが、私の一意見として、イ長調の「愛は勝つ」は、どんなキーでも違和感を与えにくいオールマイティな「愛は勝つ」の中で、どちらかと言うと少し違和感を与えるキーなのでないかと思っていた。しかし、その違和感を感じさせないアツい歌い方に私は魅せられた。最近のヘビロテの筆頭候補である。

■「愛は勝つ」はダンス・ミュージックではない

「愛は勝つ」の作詞・作曲およびシンガーであるKANさんは、別に「愛は勝つ」をダンスのための音楽だと思って作曲したわけではないだろう。ただ、不思議なもので編曲によってその曲の持っていた雰囲気が変わるのは言うまでもないが、それが許容されるコミュニティが現れることさえある。
最後に紹介するのは、遠山修平さんのカバーで、曲のタイトルに「ダンスバージョン」と表記されているものである。その名の通り、ダンス・ミュージック調にアレンジされたもので、原曲の雰囲気とは随分とかけ離れていることが分かる。これはあくまで私の主義でしかないが、カバー曲が原曲から離れていようが、その曲の持つ長所・良さが伝わればどんな形も拒むつもりはない。彼のカバーは、そんな私の(自分勝手な)主義にそぐうアレンジである。なお、キーは変ニ長調である。
このアレンジのどこが良いのかとズバリ述べるなら「4つ打ち」だろう。これまで挙げてきたカバーやその他のカバーにおいては、キーは違えどドラムのパターンは原曲と大きくは変わらないものが多い。ところが、彼のダンスバージョンは、ダンスバージョンであるが故にバスドラムが正確に4分音符で刻まれているのである。昔、NHKの「亀田音楽専門学校」という番組で得た情報だが、このようなバスドラム等によって4分音符を刻むこと(以降、「4つ打ち」と呼ばせてもらう。・・・もう既に1回使っているが。)によって、聴く人の気持ちが鼓舞されるような効果があるという。この説明が理論的と言って良いのかどうかは私には判断が付かないのでこれ以上は言及しないが、以下の曲も「4つ打ち」が使われている曲の一例であり、体感的には十分理解できるかもしれない。

⚫︎ miwa「ヒカリへ」
⚫︎ AKB48「恋するフォーチュンクッキー」
⚫︎ きゃりーぱみゅぱみゅ「にんじゃりばんばん」
      (やっと公式の参考URLが貼れた・・・。)

【参考】亀田音楽専門学校 第3回「元気が出るリズム学」

余談だが、一例として挙げたこれらの曲はいずれも、2010年代前半のヒット曲であり、この「4つ打ち」が一時代の流行になっていたことも窺える。
「4つ打ち」による鼓舞は、まさに「愛は勝つ」のコンセプトには確りと当てはまるのである。(今にも踊りたくなるかどうかは別だが・・・。)人の気持ちを鼓舞して、元気を奮い起こさせるという意味で、一見、奇妙に見えるかもしれないダンスバージョンの編曲も、私としては受け入れやすいものであると思っている。

■ 終わりに

さて、気が付いたらもうすぐ、本記事の文字数が5,000字を超えそうである。(この文を書いている間に超えた。)皆様の記事の文字数について、その相場を私は知らないが、今回の記事はここまでにしようと思う。もちろん、この記事に挙げていないからといって、私が他のカバーを気に入っていないというわけではない。(もっとも、私が気に入らないと言った所で、私に気に入らないと言われたカバー曲の社会的評価が著しく下がるとは思えないが・・・。)ただ、私が「このカバーもいいな!」ということを共有したかったまでに過ぎない。とにかく、読者の皆様が「愛は勝つ」のことをもっと好きになることを願ってやまない。

■ まとめ(結論のみ知りたい方向け)

筆者・ぽんいけがオススメする「愛は勝つ」のカバーは次の通り!
● 市川由衣「愛は勝つ」
● watanabe rino「愛は勝つ」
● 遠山修平「愛は勝つ(ダンスバージョン)」

■ 編集後記

自分の勉強も兼ねて、本記事のように「カバー聴き比べ」シリーズの記事を、原曲との比較も含めて適宜更新していこうと考えている。問題は、カバー曲を含めて様々な曲を聴く時間と、記事の執筆時間をどう確保するかということだろうか・・・。



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