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【設定資料】古い資料:アンヒューム狩り

(五年ほど前のテロス新報の記事だ)

 アンヒューム狩りの魔術師死亡

 昨日未明、商業都市アルシュの地区で、魔術師の○○さん(42)が胸を撃ち抜かれて死亡しているのが見つかった。
 傍には巨大な麻袋が置いてあり、中からは地区の住人が三人救出された。三人にケガはなく、全員が「アンヒューム狩りの被害に遭った」「もしも(○○さんが)殺されていなければ、我々が死体になっていたことだろう」と語っている。
 アルシュ治安部隊の調べによると、○○さんは王都で発行されている週刊誌の取材協力のため、取材班と共にアルシュの地区を訪れていたという。治安部隊は○○さんを殺害した犯人を捜すと同時に、他にアンヒューム狩りを目的として訪れた魔術師がいないかどうかを調べている。
 近隣住民は「夜中に銃声が聞こえたが、地区ではよくある話なので気にも留めなかった」と話している。

キーワード:アンヒューム狩り
魔力を持たないアンヒュームの人々を捕まえるために地区へと赴くこと。もともとはアンヒューム迫害の一環として積極的に行われていたが、今は人道に反するとして禁止されている。我が国においては基本的に全面禁止とする都市が多い一方で、唯一地区を持たない王都ルフレードは判断を明確にしていない。×年×月にもアンヒューム狩りの被害者が内臓を抜き取られた状態で地区に棄てられていた事件があった。



(ノアの文字で「週刊ルフレード 第623号」と書かれているが、筆跡が怒りで震えているように見える)

アンヒュームを狩る魔術師を狩る!?
アルシュ地区で神聖視される人殺し「蒼鷹」の正体とは?

(証拠写真はすべてブレている)

 魔力を持たない出来損ない「アンヒューム」の人々が群れて暮らす小汚い地域が「地区」だ。王都の魔術師たちは時々ここでアンヒューム狩りを楽しむことがあり、捉えたアンヒュームは新術の開発に有効活用されている。生きているうちは扱えない魔術に携わることができて、死んだアンヒュームも我々に感謝していることだろう。
 しかし、最近はこのアンヒューム狩りが存続の危機を迎えている。なんでも、蒼鷹と呼ばれる暗殺者が出てきて、アンヒューム狩りに訪れた魔術師を片っ端から殺しているのだという。我々ルフレード編集部もその噂を確かめるため、商業都市アルシュの地区に潜入した。
「ウッ……」
 地区に足を踏み入れた途端、取材班は猛烈な異臭に襲われた。カメラ担当のO氏は早速吐きそうになっていたがなんとかこらえていた。路上に散らばるゴミからすさまじい腐敗臭が立ち込める。さっさと帰りたかったがなんとかこらえて取材を続行した。通りがかったアンヒュームの女に声をかけたが、すぐに走り去ってしまった。アンヒュームの分際で随分と偉そうなヤツである。
 そのあとも、身の程知らずの地区住人は取材班のことをことごとく無視していった。
「こりゃもう無理ですよ」
 過酷な張り込みでも決して弱音を吐かないD氏が早々にギブアップ宣言。この時点で地区の異常さがお分かりいただけるかと思う。しかし、取材班は気を強く持って地区の奥へと歩を進めた。しかし、アンヒュームどもは我々の取材を受けてはくれず、蒼鷹の情報もなし。
 我々は途方に暮れた。そこで、急遽助っ人を呼ぶことになったのである。
(男の顔写真だ。目元に黒い塗りつぶしがある)
 我々はアンヒューム狩りのプロ、N氏に協力を要請した。N氏は腹のぜい肉を揺らしながら、我々取材班に朗らかな笑顔を見せてくれた。アンヒュームの動きは夕方ごろ活発化するらしい。N氏はみすぼらしい服装をして、まるで自分がアンヒュームであるかのようにふるまった。
「ここで作業をするんだ」
 そう言ってN氏は地区の外れもどっぱずれ、もっと狭い路地の方へと向かった。どうやらここは地区の住宅街らしい。人通りは少なく、随分と薄暗い。夕暮れであるのを差し引いても暗い。
 ちょうど通りかかった子供を、N氏は手馴れた様子で捕まえてしまった。簡単な拘束魔術ではあるが、アンヒュームどもに魔術の対策など不可能だ。子供はぐったりとしたまま動かない。
「これで今日の収穫は四人目だ」N氏は笑った。
「これをこのまま出荷してもいいんですが、年頃の女なら少しくらい味見することもありますね」
 おもわずN氏の特殊性癖を知ってしまった我々がカメラを構えた瞬間――。N氏の頬をナイフがかすめた。
「やばい、襲撃だ!」
 N氏はさっと近くの家に入り込んだ。折角の獲物を捨てるN氏に我々が唖然としていると、先ほどいた場所に青いナイフが刺さっている。珍しい鉱石でできているナイフだ。
「蒼鷹だ、クソッ! 嗅ぎつけてきたか!」
 焦るN氏に対し、我々は障壁魔術を展開しようとした。だが、
「バカ野郎! 魔力で居場所がバレる!」
 N氏の焦りは相当なものだった。蒼鷹は小賢しく、魔力を探知する道具を用いて魔術師の居場所を探るそうだ。
「死にたくなかったら動くな」
 そう言ってN氏は部屋の奥へと向かってしまった。我々取材班は、震える小鳥のようにしてそこにたたずむしかなかった。
 一晩、そのようにして過ごした。我々はN氏に呼ばれるのを待っていた。しかし、N氏はいつまでたっても戻ってこない。D氏がしびれを切らして、N氏が向かっていった部屋の扉を開けた。
「うわぁあああっ!」
 我々は、D氏のしりもちに驚き、次に部屋の惨状に驚いた。N氏は喉と心臓を刃物で突かれて、安らかな顔で横たわっていたのだ。カメラ担当のO氏が慌ててシャッターを切ろうとするが……。
(カメラの写真がある。レンズが見事に破壊されている)
 ここからは証拠の写真も何もない。我々のカメラはあの蒼鷹に破壊されてしまったのだから!
 つまり、ここからの内容が真実である根拠がないのだ。しかし言わせてほしい。我々は嘘を綴らない。我々が公明正大なメディアであることを読者の皆様に信じていただく他ない。
 さて、そこに我々の求めた「蒼鷹」がいた。しかし、どうやら彼は我々と話をするつもりはないらしい。光を背にした場所を陣取った彼は、逆光を味方にして我々に顔を隠している。O氏は予備のカメラを出そうとしたが、そこにヤツはナイフを投げてきた。なんと暴力的なやつなんだ。
「人殺しなのに神聖化される気持ちはどうですか!?」
 私はなんとか、インタビューに持ち越そうとした。だが、ヤツは何も言わずに姿を消した。
 そこからどうやって帰ったのか覚えていない。治安部隊に地区で人が死んだことを通報したのは確かだ。その際に「あまり地区の人たちを刺激しないでください」と見当違いのことを言われたが、通報しただけ誠意があると思ってほしい。ともかく、O氏が隠し持っていた小型カメラにもヤツの姿は写っていなかったので、我々は文字通り「手ぶら」で帰還したことになる。
 次はもっと、「蒼鷹」対策をしたうえで取材に臨まねばならない。


(ノアのメモ)

狩場→地区の居住区 境目
外見 判断不可
5/28 許諾なし


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)