まゆたま

小説家になりたいって思ってないとなれないって思ってる。

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  • 副志間高校3年A組【小説】

    別れると2度と交わることはない。それでも私たちはいつもどこかに点在している。ほぼ毎日更新。

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シンデレラの伝言

風の強い、果ての街。子どもの頃から何度も何度も行った街。そこまでの道中、海に面した大きな岩がある。草の生えた小高い山の上にちょこんと乗せられたような、おかしな形の岩。「むかしむかし、アイヌの人々がまだたくさん住んでいた頃、戦争があって男の人は海の向こうに行ってしまった。それを悲しんだ女の人が、山に登って泣きながら、男の人の帰りをずっと待ち続けた。何年も何年も待ち続けて、とうとう女の人は岩になってしまった。だからあの岩は海の方を向いて、地面に顔を伏せて泣いている人の形をしている

    • つめたい風と謝辞

      今日の夕方は風が冷たかった。 つい最近まで嘘みたいに暑かったのに。 風の奥のそのまた奥、ずっと先にある冬を微かに感じた。 帰宅したら、パンフレットが届いていた。 ツボ押しやリンパケアの資格の通信講座。担当者の名刺まで入って。 勉強して意味あるだろうか。 パラパラとめくりながら、今日できた人差し指のささくれがじりじり痛む。 私が求める意味。 「それを学ぶことで、将来起業できるだろうか」 「その知識が、収入アップにつながるだろうか」 現実を見つめれば、すかさず迷いが出る。 無

      • 無理しないで無理する

        冗談じゃねぇ、やってられっか。 19時近い薄闇の中で、私はそれをくしゃくしゃに丸めた。 勤務時間外の小さな頼まれごと。実行してもしなくても、誰にもバレない。 わかりましたと快く引き受けた。 引き受けておいて、放棄した。 放棄するのは私の自由。だって、勤務時間外なんだから。 今の職場になってから、「持ち帰り仕事はしない」と決めている。 どんな小さな雑務でもだ。 必要に迫られた買い出しと勉強はするけれど、ただの残務は絶対にしない。 持ち帰り仕事をしても良いと割り切れるほどの給

        • 誘惑に負けないための気づき

          腐れ縁から久しぶりにLINEが来た。 こっちは忙しい時期だっていうのに、要件のわからないダルがらみ。 あと15分したらラッコさんと電話するから、返信する暇なんてない。 学生時代までは楽しく付き合えたけど、社会人になってから、特にここ2年くらいは彼女が疎ましい。 口を開けば「仕事やめたい」「彼氏にイラっとくる」なんて愚痴ばかり。 真剣に話を聞いてアドバイスしたのに、鮮やかに裏切られたことは今まで何度あったことだろう。 だから会えば一巻の終わり(=私の大事な時間とパワーが削

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        • 副志間高校3年A組【小説】
          5本

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          見えないものを見ようとして

          突然天井から何か白いものが落ちてきた。それは小さな羽虫だった。 すると3秒後ぐらいに、空きペットボトルが大量に詰まった袋が落ちた。ぶら下げられていたドアノブはもう我慢の限界だったのか。 目に見えない粒子が伝わって、全く別の物に影響を及ぼすみたいな、量子力学みたいな話(間違ってたらごめんなさい)。 あるいは偶然とか引き寄せとか、そんな言葉ですませたくないことは時々ある。 非冒険的な生活をする私のことだから、それはもっぱら読書の中でだけど。 スマホで調べ物をしていてたまたま出

          見えないものを見ようとして

          感動するにはどうしたらいい

          オタクを辞めて1年以上経った今、見事なまでの鬱々とした日曜日。 私にはやっぱりアイドルのときめきが必要なんじゃないかと思って、とあるグループの動画を何本か観る。 ははぁ、これは売れるわけだ。 芸能界一大勢力、権力の象徴、死んでなお世界中をざわつかせるサングラス……今彼らに触れるには、色々なことが頭をよぎるけれども、そんなこと関係なしに彼らには実力と運があるんだろうなと思う。 いちいち素晴らしくて才能に溢れて外見にも恵まれて、ファンからすると推さない理由がないのも頷ける。と

          感動するにはどうしたらいい

          はなしちゃいけない

          渋滞でハンドルを離していい車。 たまたま流れた広告。そうか、車のハンドルって離しちゃいけなかったか。 私がひたすら話しまくる横で、ラッコさんはずっと、ただただじーっとハンドルを握ってくれていた。 ラッコさんに守られた2人の命と仕事の愚痴が並行して、そのまま目的地に進んでいく。 肌に染みる冷房の微風に満足して、目を閉じて、開けたら着いた本屋。 この生活を手放したら。今に辿り着く前の、例えば去年の自分があのまま続いていたら。考えればぞっとする「もしも」が、腫れた虫刺されを掻き毟

          はなしちゃいけない

          しんどいって手のひらに書いてみる

          泣きすぎた頭に、泣き止まない虫の音が響いてじんじんする。 お腹が空いてるのに、甘さと油っぽさしか身体は受け付けない。 文章を書くのがあんなに楽しかった日々があったのに、もう小説なんか二度と書けない気がしてくる。 安心しろ、もう酷暑は終わった。 重たい神輿を担がされ、誰よりも残業する季節だって、もうじき終わる。 気づいた時すでに遅し、コロコロと38.8の高熱を叩き出したラッコさんにだってもうじき会える。たった3頭しかいないラッコが数年後、日本の水族館からが消えてしまっても、ラ

          しんどいって手のひらに書いてみる

          副志間高校3年A組【4.佐藤順子】

          日当たりの良い吹き抜けのホールを、私は毎週土曜の13時に必ず訪れる。しぼんだ皮膚の奥にまだ光の残る沢山の目が、一斉にこちらを向く。車椅子の一団の中に、母がいる。周りよりも明らかに30歳は若い。 老人ホームというところは、なかなかそう簡単には入れないらしい。母の担当のケアマネから聞いた。母は特例だった。40代で最初の脳梗塞になり、小さな梗塞が出来るたびに救急搬送と入退院を繰り返し、もう自宅で暮らせない体になった。 「順ちゃんよく来たねぇ。学校はもう終わったの?」「いや、これ

          副志間高校3年A組【4.佐藤順子】

          ソファのあそこは生活のへそ

          久しぶりにきちんと掃除をした。といっても、風呂場と台所を軽くと部屋の床のみだったが。急によそのお家に行って「え…意外だ……」っていう体験をして以来、掃除は生きていく上で避けて通れないものだと思うようになった。極論、独り身ならゴミの中から「ちわっす!」でも良い。自分さえ恥をかけば良くて、せいぜい「親の顔が見てみたい」とか言われるくらいだから。 でも、結婚して子供がいるのなら、「〇〇先輩んちあんまり綺麗じゃないんですね…意外でした」とか「●●ちゃんのお家、髪の毛いっぱいだったよ

          ソファのあそこは生活のへそ

          副志間高校3年A組【3.茂野健】

          「おめでとうございます。今回応募された作品が入賞しました」居間の電話が鳴った。刈り込む直前の牧草が生い茂る野原と、遠くに見える穏やかな海の絵。自分が描いたその絵に『潮騒』と名付け、県のコンクールに送った。「ありがとうございます」入賞の知らせに、健は淡々と返す。 雇われの身なら週に1回ある休みも、家の者たちならほとんどない。乳製工場が休みでも、牛に休みはないのだ。健も365日ほとんど毎日、父と牛の世話や搾乳や牧草の刈り取りなんかをしている。 この絵は貴重な休日に、副志間の海

          副志間高校3年A組【3.茂野健】

          副志間高校3年A組【2.有村冴英】

          ベランダの窓にかかるレース地のカーテンから、日の光が溢れる。ピピピピッと無機質な目覚まし時計の音。鳥がバサバサと飛び立つ音。いつもと変わらない朝、有村冴英は体を起こした。 寝癖のひどい髪をそのままに、バスルームに向かう。銀色の大きなシャワーヘッドから流れるやや熱めの湯が、まだ眠気の残る冴英をしっかりと目覚めさせる。 朝は元々あまり得意じゃない。頭の使う作業を深夜まで出来るタイプだったし、寝つきも良かった。ただ、就職してからはそうもいかなくなった。私の仕事は、早朝で寝起きだ

          副志間高校3年A組【2.有村冴英】

          副志間高校3年A組 【1.常田由彦】

          スマホを置いて旅に出る。行き先はまだわからない。 雪解けの進む3月。鈍行の車窓に「卒業証書授与式」の立て看板がついた校舎が映る。車内にはちらほらと、制服に桃色の花飾り。 新幹線の通る駅は、最寄りから2駅先にある。そこがようやく旅の始まり。俺の運命が決まる場所だ。 電車を降りると、沢山の人が改札口に吸い込まれていく。地方とはいえ、この辺では一番の大都市の駅だ。職場、デパート、ホテル、繁華街…改札を出た人々は、各々の行き先へ散っていく。西改札を出た由彦はすぐに、カラフルな紙

          副志間高校3年A組 【1.常田由彦】

          ぐでだまになった翌朝、歯磨きしながら聴くウルフルズ

          note創作大賞に、応募した。昨日。ギリギリセーフ。 不思議なもので、書いてる時は「こんな表現が自分の中に眠っていたとは…」とか「ここで伏線回収になってて我ながら良い発想!」とか自信たっぷりなのに、いざ応募してみるとそれがガラリと変わる。 話の辻褄が合っていないんじゃないか。よくよく考えたら設定が不自然じゃないか。そもそも全く面白くないんじゃないか。ダサいんじゃないか。 自分の渾身の一作への疑念なんて、いくらでも湧いて出てくるのだ。 完成してからも作品への不安は常につ

          ぐでだまになった翌朝、歯磨きしながら聴くウルフルズ

          ミサトさんを助けたかった

          エヴァが好きです。恥ずかしながら、序破Qを急いで観てからシン・エヴァを観に行った新参者です。でも、エヴァが好きです。 何度観ても何度考えてもわからないストーリーも好きですが、それ以上に、どうしようもないほど愚かなキャラクター達に惹かれます。 アイドルは男性、アニメは女性キャラ、と好みがはっきりしている私が最初に引き込まれたのは、綾波でした。林原めぐみさんの、あの空気に溶けそうな世捨て人みたいな声。知識ゼロで初めて観た時「灰原さんやん…」と感動したことは忘れられません。登場

          ミサトさんを助けたかった

          仏教的「愛の技術」

          ここ2、3ヶ月動いていた新プロジェクトが、もうすぐ終わる。 他の誰かにとっては簡単かもしれないが、私にとってそれは少し手間のかかる仕事だった。 基本は無料配布、残りは職員が買うこと。全員とは言わなくても結構協力してくれるだろう…そうして蓋を開けてみるとあまり売れなかった。 「他に買う人がいるかもしれないので、私は余ったらでいいです」そんな考えの人がたくさんいたらもちろん売れるはずがない。一見協力的だが実はそうじゃない、はっきり言わせてもらうと少し冷たい考え方だと思う。

          仏教的「愛の技術」