くつした

「一回脱いだ靴下をもう一回履ける?」
「状況によるだろ」
「へえ」
「例えば、風呂上がりに靴下を履いて、爪を切るために一度脱いだ後なら履けるだろ」
「まあ履けるね。じゃあさ、5時間外を歩いてきて靴下を脱いだあと、少し寒くなったなと思ったらその脱いだ靴下を履ける?」
「いや~、履けないかな。風呂に入りたいね。風呂に入って新しいのを履く」
「なあ、君ん家の風呂は沸くのに30分はかかるぞ。寒いじゃないか。その間はどうするんだ?」
「エアコンをつければいいんじゃないか」
「は?君の家にエアコンなんてないだろ?君の話をしているんだぞ?」
「じゃあ、家に帰ってきた時に風呂を沸かし始めれば、寒いと感じた時に入れるだろ」
「おいおいおい、風呂を掃除する時点で少し寒くなるだろ。すぐには入れないんだぞ」
「じゃあ、昨日の風呂が終わった時点で掃除しとけば、さっと流すだけでお湯ため始められるからいいんじゃないか」
「は?君は昨日の時点で、明日は5時間歩いた末に帰ってきて靴下脱いだら少し寒くなるだろうから今日のうちに風呂を掃除しておこう、なんて考えないだろ」
「じゃあもうちょっとヌメヌメでもいいから風呂を洗わずに入る」
「一度脱いだ靴下はヌメヌメ以下ってことか」
「1日くらいならそんなヌメヌメにならないだろ」
「君が入った風呂だぞ。ヌメヌメに決まってる」
「それなら風呂入らずに温かいシャワーで足だけ洗って新しい靴下を履く」
「どんな時も温かいシャワーがあると思うなよ」
「何言ってんだよ。うちにも温かいシャワーは出るぞ」
「山小屋の場合はどうだってことだ」
「山小屋?」
「山を登っていて山小屋に着きました。そこで靴下を脱いだら、その靴下をまた履けるかってこと」
「山小屋を経由するような標高の高い山に登るなら、新しい靴下を持ってくだろ」
「君はリュックの気持ちをまったく分かっていない。靴下一個増えるだけでどれだけ苦しいことか」
「荷物が増えて苦しいのはこっちだろ」
「どういう教育を受けたらそんな風にリュックファーストの心を失えるんだ?」
「ああ、もういい。脱がない。その状況なら靴下は脱がない」
「そんな汚い靴下を履いたまま布団で仮眠をとるというのか?」
「仮眠をとることが分かってたらなおさら呼びの靴下を持ってけと思うけど、まあ、靴下を履いたまま寝る」
「よし、勝った」
「何がだ?勝負をしていたか?」
「つまり君の心理を紐解くと、一度脱いだ靴下をもう一度履くのは嫌だということだろ?だから脱がずに寝るんだ」
「ああ、確かにそうかもしれないが、それで何に勝ってるんだ?」
「ははは、そうだろうとも」
「だからなんで勝ちなんだって」
「はははは、勝った勝った」

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