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ヒーローになった僕②

あなたは特別な人


僕とその人は、ずっと真っ直ぐ続く道を歩いて、雲の王国の真ん中に当たる場所まで辿り着いた。
そこは大きな広場でもあり、教会のような建物でもあり、コンサートホールのようでもあり、とにかく今まで見たことのない形状をしていたので僕には説明できないが、きっとこの国の特別な場所であることは確かだった。
雲のようなその建物の前に立つと勝手に入り口ができ、通り抜けるようにして僕たちは建物の中に入っていった。

入ってみると、外から見たよりも広く感じた。
中に人はいなかったが、中心に鏡のようなものがある。
その人が鏡に手をかざすと、中からたくさんの人たちの声が重なって聞こえてくる。

「助けて」

それはたくさんの人たちの心の声のようだった。
念仏のように唱えている人もいれば、大声で叫んでいる人、泣いている人、声だけでもその人たちの感情が一つ一つあることが伝わってくる。
その人は鏡に手をかざしながら悲しそうな顔をすると、僕の方に振り返りこう言った。

「あなたは、この人たちを助けることができる。だってあなたは特別だから。」



「僕が特別?」

そんなこと今まで思ったこともなかった。
特別って言うのは、みんなよりも運動神経が良かったり、勉強ができたり、容姿が飛び抜けてよかったりする人のことを言うんだよ。
僕が特別なわけないじゃないか。
何を言っているんだろう、この人は。そんなことを思っていると、また、

「いいえ、あなたは特別よ。私が言っているんだもの、そうに決まってるでしょ」

その人は少し怒ったように言った。
仕方なく僕は、その話を無視して

「でも、助けるったって、何をすればいいのさ」

と不貞腐れたように聞いてみた。

「簡単よ、その人に会いに行けば良いの。あなたは特別なんだから、それだけで皆を助けることができるわ。あなたに話を聞いてもらった人は、みんな幸せな気持ちになるわよ、きっと。」

その人はとても嬉しそうに、ワクワクした様子で話していたが、僕にはさっぱり言っている意味がわからない。
まず、会いに行くと言ってもどこにいるのかもわからない人たちに会いに行くことは不可能だ。
そして、会いに行けたとしても、僕が話を聞いただけでそれらの問題が解決するはずがない。
話を聞いてもらえればみんな幸せになるって?そんなわけないじゃないか。
僕なんかに話を聞いてもらいたいと思う人はいないよ。
聞いたところでなんのアドバイスもできやしない。

僕はまだ子どもなんだから。

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