47)1日10分の小さな実験~行き詰まったからパンを焼いてみた~

パンを焼き始めて2週間。いい具合に焼けるようになって、けっこううれしい。

品薄になった小麦粉の棚を見て、皆さんどうしてそんなにパンを焼きたがるのかと不審に思ったが、考えているうちに自分も焼きたくなってしまった。ホームベーカリーを入手し、届いたその日に説明書通りに焼いてみた。悪くはないがたいしたことはない。どうすればおいしく焼けるのか、追求したい気持ちがじんわりわいてくる。

毎日1回、少しずつレシピを調整しながら焼いてみる。記録を取る、焼いてみる、調べる、焼いてみる、仮説を立てる、焼いてみる、を繰り返す。朝食で食べると少し余るので、ときどきラスクになったりフレンチトーストになったり、とにかく1日1回、なにかに背中を押されるように焼き続けた。

実際の作業は材料を量って入れ、ホームベーカリーのコースを選びスイッチを入れるだけ。ご飯を仕掛けるよりちょっと手間がかかる程度である。パンを焼く、などと呼ぶのはおこがましいくらいのちょっとした実験の日々、とにかく必ず記録を取ることにした。

10日目くらいでなかなかいい感じになり、2週間目、ひとまず満足した。ここまで来て、なぜ自分はこの作業を続けているのかと改めて考えてみた。

自分の力ではどうにもならないことに振り回されていると、どんどん自信がなくなり自分の無力さに打ちのめされてくる。どんどん疲れがたまり、何もできない自分がつらくなる。小さな未知の経験に手を出したのは、自分が制御できる領域があると思い出したかったからかもしれない。毎日毎日、ささやかな成功や小さな失敗の立て直しを味わい、自分は無力ではない、と確認しているのだ。

待つ時間があるのも良い。朝、仕込んで出かけると、夜にできあがっている。今日はどんな焼け具合だろうかと家に帰る楽しみが増える。出来栄えを見て、明日の作戦を考える。翌日の朝食で食べてみて、また仕込む。配合以外は機械がぶれなくやってくれるので技術は関係ない。作業は10分なのに、24時間楽しんでいる。時間コスパ、最高である。

難しい問題に取り組んでいるときは、それだけに集中しすぎるとおぼれてしまう。どこか頭の片隅に、解決すべき別のささいな課題がある方が気持ちが安定していい結果になる気がしている。ルーティンワークになる寸前のちょっとしたパン焼き実験は私にとってちょうどいいらしい。

2020/05/24

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