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「暗さ」の魔力に魅了されてしまった息子、救えるの?

薬物依存になった息子と父の愛の物語。

映画「ビューティフルボーイ」のキャッチコピーです。こう聞いて想像したのは、仕事にかまけて愛を注がなかった息子が薬物依存になって、その反省を持って父親が息子に向き合い、更生を通じて二人の絆が深まる、みたいな。

実際この父親は息子が小さい頃に離婚して、再婚して腹違いの子供を2人もうけて、売れっ子の脚本家として多忙な日々を送っていた。あながち私の想像は間違えではなかったのかもしれないけど、「愛を注がなかった」というわけでは決してなかった。

これは作者の自伝的作品ということなので、息子がどう思っていたかはわからないけど、少なくとも父親自身はものすごく息子を愛してきたし、誇りに思ってきたし、できる限りのことをしていたように見えた。

でもどうして、息子は薬物にハマった?

それは息子がドラッグにどうしようもなく魅力を感じていたから。彼が描く絵は意味不明なグロテスクで暗い、暗い絵。思い起こせば思春期にグロいものに惹かれる時期はあったし、世間を騒がす狂気殺人にも「まあ、わからくんもない」なんて思ったこともあった。そういう暗いものの魅力ってやっぱりあって、それがただ単純に好きだった息子。

もちろんそれを好きになるには、親が離婚して寂しかったことや、何か友達とうまくいかない理由だとかあったのかもしれないけれど、でもそんな人ごまんといる。なぜ彼がドラッグに魅了され、ずぶずぶとハマっていったのかどうしてもわからない。ただその暗さが彼にとって素敵なものだっただけじゃないか、そう思えてならない。

薬物依存の彼を父親も新しい家族も愛で包もうとする。義母は誰よりも冷静に彼を見ているし、弟や妹は天使そのものでお兄ちゃんが大好きだ。そんな家族との時間、とても嬉しそうな息子。でも明るい愛を注げば注ぐほど、彼はバランスを取るように暗い方暗い方へ惹きつけられまた薬物に手を出す。

父親同様、正直私もお手上げだった。

まるでヘビメタを聴くように、ゴスロリファッションを身に纏うように、ドラッグによって暗さで喜びを得たり心のバランスをとる。やっぱりそんなことが簡単にできてしまうのは困ったものだ。だめだ。ドラッグ、許しちゃ絶対だめだ。

結局無力な標語のようなことしか言えないけれど、今も戦い続けているというこのモデルの親子の幸せを祈らずにはいられないのでした。

監督: フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
原作: ビューティフル・ボーイ
原作者: ニコラス・シェフ、 シェフ,D.
「フォックスキャッチャー」のスティーブ・カレルと「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメが父子を演じ、父デビッドとドラッグ依存症だった息子ニックがそれぞれの視点から描いた2冊のノンフィクションを原作に、家族の愛と再生を描いたドラマ。監督は「オーバー・ザ・ブルースカイ」を手がけたベルギー出身のフェリックス・バン・ヒュルーニンゲン。「ムーンライト」「それでも夜は明ける」を手がけたブラッド・ピット率いるプロダクションのプランBエンターテインメントが製作。脚本に「LION ライオン 25年目のただいま」のルーク・デイビス。


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