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息子が初めて彼女を家に連れてきた日、私はもっと働こうと思った。

「ママ、僕はあの子が好きで、あの子も僕が好きらしいんだ」

息子が7歳にして「両思い宣言」をしたのは数ヶ月前。

その後日、買ったばかりの「練り消し」を再び買って欲しいとせがまれ、私の滅多に発動しない女の勘がピンと来ました。「前買ったやつ、あの子にあげたでしょ」そう言うと、案の定、頬を赤らめる息子。

物を勝手に友達にあげないで。っていうか、向こうが欲しいって言ってきたわけ?どういうプロセスであげることになったの!と詰め寄る私に息子は一言。

「ママ、落ち着いて?」

キー!

でも、うん、そうね、ママが興奮してたわ。と、まんまと50円の練り消しをまた買わされたりしたのですが。

その息子と両思いらしい女子がついに先週我が家にやってきたのでした。

といっても、他の女の子2人と一緒に、放課後に少し寄るよというもの。

実はその女の子は、保育園からの同級生なので、お母さんとは顔見知り。こういう案件の前には、子供たちが約束をしてきたあとに、どちらともなく親同士も連携をとることが多いのです。案の定、今回もショートメールが届きました。

「うちの子、明日お邪魔しても大丈夫ですか?」と。さらに続いて「彼氏のうちに遊びに行くって張り切っています。」

は?彼氏???

思わず息子を呼び、「あなた彼氏なの!?」と問い詰めると、ニヤッとわらって「らしいね」とだけ言って去って行くのでした。

というわけで、『彼女』がやってきました。可愛い女の子の友達を二人連れて。

狭い我が家では、子供部屋は日中は私の仕事部屋となっていて、その部屋で遊ぶことに。それ以外の部屋には絶対入れないよ、と子供達に伝えると

「えー!他の部屋も見たい!見せて!」

と詰め寄る息子の彼女の友達女子。

そう、いつでもうるさいのは友達女子なんだ。友達女子ってのはなんだかすごく強いんだ。しかも、クラスで一番背の低い息子に対して、彼女たちはものすごく背が高い。5、6年生といっても信じてしまいそうなくらい、背か高く、かつ、今時の子は本当にスタイルが抜群だ。

あー、女子怖い…と圧倒されながらも、母がいたら遊びにくかろうと私は別の部屋に移動。仕事をしているふりをして、でも実際は、聞き耳立てまくりなので、全く集中できません。女子、すげえしゃべるよ。女子、こええよ。

しばらくすると「お母さん来てくださいー!!!!」という女子たちの叫び声が。なになになになに、女子、なにをした??と飛んでいくと、なぜか頭がベトベトになっている息子。どうやら、息子が調子に乗って駄菓子屋で買ったスライムを投げたらしい。最悪だ。床の絨毯にもべったり。ああ、やっぱり最悪なのはうちの男子だ。

しかもあろうことか、興奮しきった息子が私に向かって「なに?おばさん!」なんて言いやがる。

ついこの間まで、ママが一番可愛い、ママが一番大好き、ママはおばさんじゃない!と世界で一番私の味方でいてくれた息子。

その息子が、頭にスライムを被って、私のお気に入りの絨毯をベトベトにして、私をおばさんと呼んでいる。

さらに…息子とはしゃぐ友達女子をよそに、息子の彼女は絨毯にこびりついたスライムをせっせと剥がしてくれてる……ああ、ああ、ああ、もう!!

ふうっと息をつき、「あとで掃除するから、いいよ。」という言葉だけを絞り出し、あとは渾身の睨みを息子にお見舞いして、帰りの時間を待ちました。

そして5時のチャイムが鳴った瞬間、お迎えのママからのインターホンが鳴り、嵐のごとく彼女たちは去って行きました。

ああ、もう、ぐったりだよ、と思いながらも、スライムを剥がすべく部屋に戻ると、さっきまでの悪童とは打って変わって、一人静かに掃除している息子が。よく見ると涙ぐんでいて「綺麗にできたらパパには言わない?」とのこと。「言わないよ」といい、肩を落としてリビングに戻り思いました。

今日の息子は一瞬でいつものボーイに戻ったけれど、きっとこの興奮状態の息子と普段の息子の比率はどんどん変わっていって、いつの日か全部が興奮状態になって、私の声は届かなくなるのだろう。

生まれてからずっとぴったりくっついてきて、私は自分のことなど何もできなくなって、それが当たり前のこの7年。おばさん!なんて呼ばれる日も来るだろうと覚悟してたつもりなのに、このダメージ。いつか子供達は巣立っていくのだから、自分を犠牲にせず、仕事も続けて、楽しく生きていると思っていた私ですら、この無力感。この7年はなんだったんだろうか………とすら思ってしまった。あなたを生んでこの7年間、劇的な環境の変化に一生懸命順応してきたのに、そうか、今度はそれをひっぺがさないといけないのか。ああ、なんて過酷。なんて過酷なんだ、母って!

しかも、幼少期の子育ては、体力的には超しんどいものの、同じ状況で愚痴を言い合うママ友がいたけれど、これからは子供の人生に沿って問題が枝分かれしていくわけで。夫は初めての『彼女』に浮かれるばかりだし。あれ、私、これ誰に相談できるんだろう。子供の手が離れつつある先輩ママたちを羨ましく見ていたけれど、なるほど、母の葛藤はここからなんですね。

なんてこった。母、大変すぎる。

いつか息子たちとの距離が本当に広がるその日まで、今の甘えを楽しみつつ、引っぺがされる準備をしなくては。やっぱり来るべく40代は自分の仕事に打ちこもう。みなさん、わたし、40代は働きます!

そんな誓いを立てた日なのでした。

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