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【前編】デジタル活用でヒトを輝かせるまちづくり~福島県磐梯町長・佐藤淳一さん、教育課主査・穴澤佳一さん~

今回のインタビューで訪れたのは、福島県磐梯町。
人口約3300人の小さなまちは、行政運営におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の積極的な取り組みによって、全国から注目を集めています。
磐梯町のDXをけん引するのは、2019年に町長に就任した佐藤淳一町長。民間出身の佐藤町長は、就任当初からDX推進を強く打ち出し、デジタル技術を活用したまちの改革にリーダーシップを発揮されています。
教育分野でも、GIGAスクール構想に基づく学習環境の整備に力を入れている磐梯町には、次の時代の学びとまちづくりのヒントがあるのではないか。そう考えて、今回のインタビューをお願いしました。
お話をうかがったのは、佐藤町長と、教育課主査として学校施設の整備などを担当する穴澤佳一さんのお二人。
前編ではまず、磐梯町独自のDX戦略と、デジタル活用によって実現を目指すまちづくりの全体像をお聞きしました。

福島県磐梯町
【概要】
人口: 3,309(2022年6月末現在)
面積:59.79平方キロメートル
産業: 農業、観光(リゾート)
交通:郡山市から自動車で約50分
【取り組み】
◆自治体DX
・2019年、国内の地方自治体で初めてデジタル最高責任者(CDO)を委嘱。
・2020年、デジタル変革戦略室を設置。役場の情報通信環境整備によるペーパーレス化推進、オンライン議会の開催、デジタル活用に関する外部企業との連携協定を締結。
・2023年、役場職員のテレワークに関する実証事業「旅する公務員」の取り組みが評価され、「日本DX大賞」の行政機関・公的機関部門で特別賞を受賞。
◆教育・子育て
・2005年から「幼小中一貫教育」を掲げ、幼稚園から中学校卒業まで一貫した教育プランのもとでの指導を推進。
・2019年から「磐梯版ネウボラ」構想を推進。妊娠・出産から中学校卒業までの間で切れ目なく、すべての子どもと親が不安や悩みを相談でき、支援が受けられる体制を構築。

デジタルは目的ではなく手段

磐梯町役場で(左から)佐藤淳一町長、穴澤佳一さんと

千葉 今日は磐梯町の取り組みについて、始まりから将来の展望までをお聞きしたいと考えているのですが、その前提としてまずは、現在の町のDX推進体制について教えてください。

 佐藤 組織体制としては、外部から登用したデジタル最高責任者(CDO)を、副町長と各課長の間の職位に置いています。そしてCDOが指揮を執るデジタル変革戦略室が、行政内の出島的な立場で各課と横断的に連携し、施策を進めてきました。戦略室は2020年度から3年間を設置期限として、行政・町議会のデジタル活用の基盤を整えています。

千葉 2020年の戦略室立ち上げからわずかな期間で「自治体DXの先進地」と呼ばれるまでとなったのですから、一気に取り組みを展開されてきたわけですよね。ここから過去にさかのぼってお話をお聞きしていきますが、佐藤町長がDX推進を打ち出すきっかけはどのようなものだったのですか?

佐藤 ことの始まりは現CDOとの出会いでした。彼とは2019年の初頭に、町内のコワーキング施設で知り合いまして、「自治体DXをサポートする団体の代表を務めている」とのことだったので、役所の業務や行政サービスにデジタルを積極的に活用する意義を教えてもらうようになったんです。同じ年の6月に町長に就いた時点では、私の中でDX推進という方針が定まっていましたね。

千葉 その後、実際に自治体DXを推進していく背景には、どのようなお考えがあったのでしょう?

佐藤 重視したのは「D(デジタル)」よりもむしろ「X(トランスフォーメーション)」、つまり変革です。「自分たちの子や孫が暮らし続けたい魅力あるまちづくり」というビジョンを実現するための効果的なアプローチを探った時に、デジタル技術に行き当たったという形になります。

千葉 デジタルはあくまで目的ではなく手段だということですね。その時に描いた変革とは、どのようなイメージだったのでしょう。

佐藤 簡単にいえば、縦割り型の行政組織に、デジタル技術で横串を通すイメージです。それによって、縦割りに基づくトップダウン型の組織を、ボトムアップ型に変えていきたいと考えました。地域課題が複雑化した世の中で、すべての町民が自分らしく幸せに暮らせるまちをつくるためには、住民一人ひとりの声を現場の職員が吸い上げ、それをもとに行政サービスを充実させる組織体制が不可欠ですから。

千葉 いわゆる「お役所的」な組織体質の改善ということでしょうか。その必要性は、佐藤町長が民間出身なだけに、なおさら強く感じられたのかもしれないですね。

佐藤 確かにそうかもしれません。たとえばメールひとつとっても、民間企業にいたころは、社員間で一日に何通ものやり取りをしていたのに、町長という立場になると全然送られてこない。役所内での情報共有がいかに不足しているかを実感しましたね。対策としてチャットツールを導入したのですが、メールよりも気軽に連絡を取り合うことができますし、改まって上司に報告を上げずとも、普段の投稿にメンションをつけておけば、それで情報共有は済む。また、ビデオ会議機能を使って課長会議を全職員が見られるようにもしました。このようにして、職員間で情報が円滑に広く展開されていくことが、組織に横串を通すことにつながるのだと思っています。

職員の負担軽減が行政サービス向上のカギ

千葉 穴澤さんは職員の一人として、佐藤町長がDXという方針を打ち出した当初、どのように感じられていましたか? 

穴澤 正直に言えば、あまりピンと来てはいませんでした(笑)。当時はDXという言葉自体、まだまだ一般的ではなかったですから。それにCDOの委嘱についても、全国の地方自治体で初の事例だったので、それによってどのように変化が起きていくのかイメージしにくかったのは否めません。

千葉 多くの職員の方々が、そのような状態からのスタートだったと思うのですが、庁舎内の意識はどのように変化してきましたか?

穴澤 サーバーのクラウド化だったり、チャットツールが導入されたりといった環境整備がなされること自体、私としては大きな前進だと捉えていましたが、職員全員がすぐに変化を実感していたかというと、決してそうではなかったと思います。ただ、コロナ禍は大きな転機点になりましたね。磐梯町役場に限った話ではありませんが、否が応でもオンライン化が進んでいったことで、デジタルによる業務効率化を体感しましたから。ビデオ会議などを利用することで、「本当にやるべき仕事に充てる時間が増える」というデジタル活用のメリットが、より深く職員へと浸透していったと感じています。

千葉 「本当にやるべき仕事に」というのは、デジタル化のメリットの本質ですよね。単に手間が減って楽になるというだけではなく、その浮いた時間で何をするのかが重要。磐梯町の場合はそこで、「町民の声を吸い上げ、行政サービスを充実させる」ことを目指しているわけですね。

佐藤 そうなんです。まずはサービス提供者である役所の働き方をデジタルによって改善することが、職員を含む全町民のためになるのだと考えています。それがないままでサービスだけにデジタルを取り入れても、職員の負担が増えるだけで持続性がありません。

千葉 とはいっても、従来のやり方を変えていくのはなかなか大変ですよね。勝手なイメージかもしれませんが、一般企業よりも役場の方が、職場環境を更新するのは難しいように思えます。

佐藤 確かに苦労する場面は少なくなかったです。システム変更については、セキュリティーを維持できるのかという議論が避けて通れませんからね。また、時に昭和のようだとすら感じる組織風土を変えるわけで、それはそれで大変な試みではありましたが、だからこそ思い切った刷新に踏み切れたともいえます。

町の仕組みを1からデザインしなおす

千葉 デジタル変革戦略室は本年度末で設置時限を迎えます。まだ総括には早いかと思いますが、約3年間の成果をどのように認識されていますか?

佐藤 DXを本格化していく基盤が、ようやく組み上がってきたかなと。たとえば、昨年から行っている取り組みに、職員が他自治体に滞在して、そこでの交流を深めつつテレワークで業務をこなす「旅する公務員」というものがあるのですが、これもセキュリティーが確保されたオンライン環境がなければできなかったことです。「旅する公務員」はあくまで実証事業の段階なのですが、「日本DX大賞2023」の特別賞を獲得するなど、外部的な評価もいただいています。

千葉 実績の一方で、穴澤さんからあえて現場視点での課題を挙げるならば、どういったことがありますか?

穴澤 実務的なところでいえば、過去からの膨大な紙資料をいかにデータ化していくかという部分かなと。生産性向上やオンライン前提での働き方の実現にも関わってくる課題なので、長期的に取り組む必要があると思います。

千葉 今後はそうした課題を解消しつつ、デジタルのメリットをまちづくり全般に還元していく段階に入るかと思うのですが、町としてはそこでどのような方針を掲げているのでしょうか。

佐藤 現在、町が打ち出しているのは「デジタルからデザインへ」です。住民の幸せという目的に適うよう、町のあらゆる仕組みを抜本的にデザインしなおすことが大事だという考えと、その段階においてデジタルは当然のインフラであるべきだという思いが、この言葉には込められています。

千葉 「旅する公務員」も、公務員の働き方を新たにデザインしているといえますね。

佐藤 おっしゃる通りです。今後も町の発展をしっかり見据えて、これまでの行政の仕事にとらわれない取り組みを進めていきたいと考えています。

小さな自治体ならではの強みで人を呼び込む

千葉 「旅する公務員」のお話にも出てきましたが、磐梯町では外部人材との交流や、企業と連携した取り組みに積極的な印象を受けます。そもそも町のDXも、外部人材であるCDOの方と佐藤町長の出会いから始まっていますよね。

佐藤 磐梯町では、地域内外の人や企業と交わることによる「共創」をまちづくりのキーワードのひとつにしているんです。CDOと知り合ったコワーキング施設の運営のほかにも、企業の実証実験を積極的に受け入れていたり、官民連携で地域活性に取り組むプロジェクトを地域内外から募集したりと、共創を促す仕組みを設けていますよ。

千葉 内外の人々の知恵が集まってこそ、新しい価値のデザインということが可能になるのですよね。外部から共創相手を呼び込もうとする時には、磐梯町としてどのような点をアピールしていますか?

佐藤 小さな町であるがゆえの強みとでもいうべき部分でしょうか。企業が実証実験を行う上では人口10万人の都市での実施よりもデータが測定しやすいですし、個人の方々に対しても細やかなサポートが可能なんです。そしてもうひとつ訴えたいのは、われわれ行政がやろうと思えばできることはたくさんあるという点。それを実例とともにきちんと伝えていこうと考えています。

千葉 その実例の一つに当たるかと思うのですが、私は地域デジタル通貨の「ばんだいコイン」に興味を引かれたんです。磐梯町だけで使える電子マネーといったところですが、経済的な盛り上げという効果はもとより、このような地域限定の取り組みに加わると、住民が町のコミュニティーに参画しているという意識が醸成されるのではないかと感じました。

佐藤 私としても、ばんだいコインは経済振興策というだけで終わらせるつもりはなくて、お年玉としてコインをやり取りできるようにするだとか、地域活動へ参加した人に買い物で使えるポイントを付与するといった方法で、地域コミュニティーの強化にまで展開させていきたいと考えています。

千葉 そうした構想や役所の組織改革についてお聞きすると、人の活力を後押しすることこそがデジタルの価値なのだと、あらためて実感します。デジタルというと冷たく無機質なイメージもありますが、磐梯町がDXによって目指すのは、人の温かみと熱意があふれる町なのですね。

後編へつづく)