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言葉は魚


その日は正午に目を覚ましました。朝まで飲んでいたので、起きあがると頭が痛い、というほどでもないのですが、軽いめまいがして、世界が全体的に傾いているみたいな気がして、おまけにニコチンのせいで現実感がない——体を動かしてみても魂はそこにはない——では、魂はどこへと行ってしまったのかというと、やっぱり旅行トリップしてしまっているのでしょう。

「しばらく出掛けてくるよ」と。がらんどうになってしまった私の肉体は、いつ帰ってくるかも知れない魂を待って眠り続けるのです。



これ以上は眠れない、と思ったのがその日の正午でした。

酔っていると眠りが浅いので、わけのわからない夢をいくつもみました。わけのわからない夢をみるのは嫌いではありませんが、眠りが浅いと単純に疲れます。


毛布をめくると汗をかいていました。


酔うと体が火照る——体温が上がると思われているけれど、実際は体の表面の温度だけが上がっているだけで、深部の温度は下がっている——だから何だというわけでもないのですが、酔いが醒めようとしているときにじっとりとした汗をかくのはただただ不快です。

そういえば、帰ってきてらーめんを食べようとしたのを思いだして、階下にある食堂へ向かうと、もうそこにはらーめんはありませんでした。私は確かに湯を沸かして、沸かした湯をカップに注ぎ入れて、どうやらそのまま眠りに落ちてしまったのでしょう。まるで起きがけにみた、わけのわからない夢のように、あとかたもなくなっていました。



二日酔いになるたびに、どうしてこんなになるまで酒を飲んでしまうのだろうか、と後悔するのだと、過去に日記に書いたかな、と思って検索をかけてみたけれど、そのような記述は見当たりませんでした。

かわりにナボコフの小説の一節が引っ掛かりました。


講堂につながる廊下で、わたしはセシリア・ダルリンプル・ランプル寄贈の大理石のベンチみたいなものに腰を下ろした。前立腺の不快感と、二日酔いと、睡眠不足に悩まされ、レインコートのポケットにある拳銃を握りしめたままそこで待っていると、私は頭がおかしくなって、これから何かばかなまねをしでかしそうだという気が突然した。

ナボコフ『ロリータ』


あぁ、まるでこの感覚は釣りのようですね。「二日酔い」と検索してナボコフの小説の一文が引っ掛かるなんて、グーグルでは考えられないじゃないですか。

私は日々、日記を書くことによって自分だけのいけす、、、にとっておきの魚を放しているのです。


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