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プロレスラーへの道④初めてのトペ・スイシーダ

〜日本と違うマット運動〜

会場内のランニングが終わると、次はリングの上でマット運動が始まる。

前転、後転、開脚前転、開脚後転、倒立前転、後転倒立、飛び込み前転、ネックスプリング、ハンドスプリング…などは日本の各団体でも必ず行われる内容ではないだろうか。

そこからさらにレパートリーが増えるのがメキシコ式だ。

前転一つをとっても、キョンシーのように手を伸ばしたまま転がる前転、両手を両膝の裏で組んだまま転がる前転…と、ここでは書ききれない程に種類が多い。

一通りこなすと、リングの立体的な動きが加わってくる。
コーナーやロープに飛び乗って飛び込み前転したりするのだが、これらに高さや捻りが加わる事で難易度がドンドンと高くなっていく。

マット運動で培った体の使い方を、ロープの反動やコーナーの高さを利用した、実際に試合で使う動きとリンクさせていくイメージだろうか。

これらが、メキシコ人レスラーの高い身体能力の下地になっているのかもしれない。

私は体重がとても軽く、日本でメキシコ帰りの先輩達に指導してもらっていたので、この練習は何とか付いて行くことが出来た。

〜打てないドロップキック〜

次は技術練習だ。

各々体格に合った技の練習をしていくのだが、今になって振り返ると、この時点で私は満足なドロップキックすら打てていなかった。

ドロップ・キックを打った後に自分の身体をひるがえすイメージが付かず、相手に当たってそのままボトっと落ちるような形だ。

陽気なはずのメキシコ人たちが、苦笑いしているのを今でも覚えている。

そんな事をある程度繰り返したところで、この日最後の練習に進む。

〜人生初のトペ・スイシーダ〜

160キロくらいあるハンプティダンプティのような3人組がリングの外に降りて手を広げている。
これはまさか…と思っていると、細身の選手が次々とハンプティダンプティズに向かって飛んで行く。

そう。
彼らはリングの外に矢のように飛び込む大技トペ・スイシーダの練習を始めたのだ。
細身の選手を三人で受け止めるとはいえ、やはりダメージはある。
選手が飛ぶ度に彼らは頭を抑えて痛がりながらも、「もっと来いよ!」と笑ってる。
この辺りにも細かい事は気にしないメキシコ人らしさを感じた。

ちょっと隅に隠れていた私も、いよいよ指名されてしまう。
もちろんデビューすらしていない私はトペ・スイシーダは未経験。
メキシコという異国が作り出す雰囲気がなければ、決して出来なかったであろう。
躊躇する私にカウントダウンまで始まってしまい、決して逃げる事は出来ない空気が出来上がる。
ええい、ままよ。と、思い切って場外にダイブ。
ハンプティダンプティズはしっかりと受け止めてくれた。

私の人生初のメキシコ練習記念日は、同時に人生初のトペ・スイシーダ記念日となった。

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