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童謡クトゥルフ①

~序章~

━━━━━━━꙳★*゚━━━━━━━

寒空の下、
白い吐息が冬空に溶けていく。

12月24日金曜午前9時30分。
今日は久々に彼女とドライブ。
フロントガラスから差し込む光に目を
背ける。
ありきたりなデートだが巡るお店は練
りに練ってきたのだ。
自信に満ちた表情で彼女の家の前でハ
ンドルにもたれて待っていた。

少し背伸びしているのか普段は聞かな
いレッドホットチリペッパーズが流れ
ていた。目を閉じ本日のプランを脳内
シミュレーションをしていく。

唐突なノック。窓を開け、

「おはよう」

気だるそうな挨拶にふと我に返る。
自分だけ浮かれたと思われるのが嫌で
いつもの死んだ魚の目に戻す。
気だるい演技で私も

「おはよう」

最低な一日の始まりである。

━━━━━━━꙳★*゚━━━━━━━

車内はバックナンバーのクリスマスソ
ングが流れている。
結局、いつも聞くアーティスト。落ち
着くのでこれでいいだろう。
一つ目の目的地「さわやか」を目指し
て走り出していた。

「……………」

特に会話はない。
音楽だけが流れている。いつからこう
なったのだろう。朝から何度か話しか
けてみたがスマホを見ながら素っ気な
い返事ばかりなので私のマシュマロメ
ンタルはこっぴどく打ちのめされてい
た。
付き合い始めたあの頃に戻りたい気持
ちから今日のドライブは企画していた
のだ。早くもノックアウト寸前である。
ボブサップに1ラウンドで負けた元大物
力士を彷彿させる。

折口佳奈(オリグチカナ)24歳
今年で30になった私とは6歳離れたカ
ップルだ。彼女と出会ったのは三年前
のこと。よくある職場恋愛。
中途社員の私と教師を目指しているバ
イトの女子大生。恋愛相談を受けてい
て気付いたら好意を抱いていた。
一晩中、口説き倒してなんとか今の関
係になれたのだ。
付き合い始めて私の一方通行かと思い
きやマメなのは彼女の方だった。
誕生日や記念日でもないのにふとした
時にプレゼントを用意してくれるよく
出来た女性である。
気付けば、彼女はバイトも卒業して立
派に教員を務めている。

「そう言えば、このお店行ってみたい」

沈黙から一点。明るい声で佳奈が話しか
けてきた。オシャレな雑貨屋さんを提案
してくれたのだ。
カッチカッチ。
ハザードを炊きすぐに路肩に停め、地図
を検索する。

「……………通り過ぎてるやん。」

話してくれた嬉しさもあったが今来た道
を引き返す煩わしさに負けてしまい、思
わず本音が出た。
慌てて乾いた笑いを入れつつ

「いいね!行ってみまshow time!」

オリエンタルテレビの富士森さんのモノ
マネで切り返す!

ダダ滑りである。
再び、沈黙を作ってしまった。

何事も無かったかのようにUターン出来
る場所を探し始める。

━━━━━━━꙳★*゚━━━━━━━

~続く~

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