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近代短歌(5.1)正岡子規(1867-1902)

小鮒こぶな取るわらはべ童部:子供たち去りて門川の河骨こうぼねの花に目高群れつつ

小鮒取るわらはべ去りて門川の河骨の花に目高群れつつ


【河骨】こうほね
スイレン科の多年草で、高さ10~30cmになる。地中に太い茎があり、これが骨に見えるためスイレンと呼ばれた。夏、細い茎を水上に伸ばし、3~5cmほどの黄色の花びら状の萼片を開く。夏の季語。

河骨の花に添ひ浮くゐもりかな  高浜虚子

カラー図説 日本大歳時記 夏

【目高】めだか
全長2~3cmほどの小さな淡水魚。夏の季語になっている。変種に全身白色の「白目高」、白桃色や赤黄色は「緋目高」などがおり、これらも夏の季語だ。

田に入らで水口水の入口・出口遊ぶ目高かな  松根東洋色

あめいろ の めだか かはむ と みやこべ都の方 に いでて もとめし おほき大きな みづかめ  会津八一

カラー図説 日本大歳時記 夏/「寒橙集」


上野の山夕超え来れば森暗みけだものの吠ゆるけだものゝ園

上野の山夕超え来れば森暗みけだものの吠ゆるけだものゝ園

【上野山】うえのやま
昔は上野公園を「上野山」といったらしい。上野公園(正称:恩寵上野公園)は1882年に近代初の動物園として開園し、1900年ごろまでにトラ・ゾウ・カバなどが来園した。ちなみに、中国から贈られたジャイアントパンダの飼育をはじめたのは1972年である。
この歌でほえているのは虎だろうか。

たか山の峰ふみならす虎の子ののぼらむ道の末ぞはるけきはるか遠く  藤原定家

拾遺愚草・上・七七〇

【獣】けだもの
主に四足の哺乳動物を指す。

闇の底に人はひそめどけだものの犬は怖れて吠えつつ走る  橋本徳寿

「赤帝集」


庭中の松の葉に置く白露の今か落ちんと見れども落ちず

庭中の松の葉に置く白露の今か落ちんと見れども落ちず

【松の葉】まつのは
「松の葉」は季語ではないが、「松」のつく語はいくつか季語になっている。

新年:門松
春:若松、松の花
秋:松ぼくり、新松子しんちじり

松は4月ごろ新しく伸びた枝先に茶色の綿棒のような細小な雌花を咲かせ、その下方に米粒のような雄花を群生させる。これが「松の花」で、このうち雌花は松ぼっくり(松かさ)になる。
「新松子」とは新しくできた松かさを指す。まだ緑色で鱗片は広がっておらず、やや丸まった円錐形をしている。

線香の灰やこぼれて松のはな  蕪村
月雪つきゆきのためにもしたし門の松  去来
さ:砂に触れて千鳥ゆくあり新松子  佐藤惣之助

おくつき奥つ城に散りたる松の葉を見れば父埋めし山に多き松の樹  小泉苳三

カラー図説 日本大歳時記 新年・春・秋/「夕潮」

【白露】しらつゆ
晴れた夜、また特に早朝、草や木の芽などに水玉が付着することがあり、これを露という。秋の季語になっているが、もちろん秋だけに見られる現象ではない。時間帯によって「夜露」「夕露」「朝露」などと呼ばれる。玉にたとえられることがあり、「露の玉」や「玉露」(「玉露」は季語になっていない)などと呼ばれる。

朝露を口一ぱいに鳴くうづら  成美

松の葉の葉毎に結ぶ白露の置きてはこぼれこぼれては置く  正岡子規
ひと踏みて道となりゆく此の芝生つゆあたたかに光りつたり  鹿児島寿蔵

カラー図説 日本大歳時記 秋/「竹の里歌」・「春露」



若松の芽だちの緑長き日を夕かたまけて夕方近くなって発熱いでにけり

若松の芽だちの緑長き日を夕かたまけて熱いでにけり

【若松】わかまつ
「若松」は春の季語になっている。ここでは松の若葉、松の新芽をいい、同じ意味の季語に「若緑」がある。

浜道や砂から松の若みどり  蝶夢

カラー図説 日本大歳時記 春

【芽立ち】めだち
草木の芽が出ること、またその芽。春の季語で、「木の芽このめ」「芽吹く」などが類語である。

一色に目白囀る木の芽かな  凡兆

霞たち木の芽も「春」を導く序詞  春 掛詞「張る」の雪ふれば花なき里も花ぞ散りけり  紀貫之

カラー図説 日本大歳時記 春/古今集・十一・二四七八

【内容】
この歌の「熱」は発熱を指す。正岡子規(本名常規つねのり)(1867-1902)は1889年に喀血し、以後「鳴いて血を吐く」とされたホトトギスに自身の姿を重ね「子規」と名乗るようになる。1890年代末には結核による脊椎カリエス(背骨の変形や痛み)になり、以後亡くなるまで病床から離れられなかった。
「若松の芽だち」を「夕」になるまで眺めていると、「熱」が出てしまったなあ、というような意味か。

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