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MANNY BALL

はじめに

オークランドアスレチックスに今季から所属するマニー・ピーニャの経歴を調べていたら彼のMIL時代の成功体験がMLB全体に好影響を及ぼす可能性を感じたのでnoteにすることにしました。ピーニャのMIL時代はThe Athleticの以下の記事を参考にしました。有料記事ですが読み物としてとても面白かったので合わせて読んでくださると嬉しいです。ちなみに本記事のタイトルはピーニャのファーストネームから取ってます。

ピーニャの来歴

MLBで守備型保守としての地位を確立する

 ピーニャは2009年TEXに入団して以降、捕手として各球団を転々としていましたがメジャーでの定着は果たせずにいました。そんなピーニャの野球人生はフランシスコ・ロドリゲスとのトレードで2015年末にMILに移籍した事で大きく変わることになります。2016年シーズン中に絶対的正捕手ジョナサン・ルクロイを放出して以降MILの捕手陣は流動的でした。そのチャンスをピーニャは掴みとり、DRS +12リーグ最多の捕殺5を記録しMILの正捕手として名乗りを挙げました。
 しかしそんなピーニャの自慢の守備にも大きな欠点がありました。それはフレーミングです。2017年のピーニャのフレーミング指標は下から数えた方が早く、守備型捕手としては物足りない成績でした。そこでピーニャは2017年半ばから戦略コーチのウォーカー・マッキンベンコーチとフレーミングの強化に乗り出します。フレーミングに優れた捕手がどのようにしてボールをキャッチするのかを徹底的に2人でビデオを見て研究し、機械を使った練習を重ねた結果、ピーニャは2019年に上位12%にも入るフレーミング指標を叩き出し、フレーミングにも優れた球界有数の守備力を持つ選手に成長しました。

ピーニャのフレーミング指標向上の過程


ナルバエズの守備力向上に大きく貢献する

 着実に守備力の向上に成功したピーニャでしたが、2019年は対右のOPS.524と正捕手としては打撃に不安を抱え、ヤズマニ・グランダルの獲得もあって出場機会を大きく落としました。そのグランダルを2019年オフにFAで失ったMILはピーニャとタッグを組ませる捕手としてオマー・ナルバエズをトレードで獲得しました。当時のナルバエズは打撃こそOPS.813と捕手としてトップレベルの成績を残していたもののDRSは−18、フレーミング指標も下位20%と正直捕手としては落第レベルの成績でした。MILのフロント陣はピーニャのようにてナルバエズの守備も向上の余地が大いにあると考え獲得し、ピーニャもフレーミング改善の成功者としてナルバエズと練習に取り組みました。MILでのナルバエズの練習は、はじめにで紹介した記事に詳細に書いてあったのでこちらから和訳し引用します。

 “マッキベン戦略コーチは180cm100kgのナルバエズとともに同じような体型の捕手たちを研究した。彼らは長所を伸ばし短所を隠すことに努めた。ナルバエズはしゃがんだ状態から高く構える癖があるので、例えば特定の球種や場所では膝をついて低く構えることができるとMILフロントは判断した。体の角度が大事で球種や場所によって戦略が違うという。またMILはナルバエズをプレートにより近づけるなどの調整も行こなった。
 ナルバエズの成長にピーニャの存在は不可欠であった。ピーニャとナルバエズは移籍前から同郷の友人で、トレード当日にピーニャはナルバエズに電話し、どこを改善すればいいか伝えたという。2020年のスプリングトレーニングではピーニャがあるボールの捕り方の例を示したり、指示を出したりすることが何度もあった。
「彼はいつもディフェンスやフレーミングを改善するために何ができるかを尋ねてきました。私は彼を誇りに思います。」とピーニャは言う。”
The Athletic   「 How the Brewers’ Omar Narváez and Manny Piña emerged as one of baseball’s most complete catching tandems」by will Sammon

上記のような猛練習を経て2020年のナルバエズの守備は大幅に改善しました。下位20%だったフレーミング指標も上位1%にまで急成長を遂げました。また興味深い事にフレーミングだけでなく他の守備指標もMIL移籍後には全て改善され、DRSは−18から+2までになりました。レシービングの向上が他の守備面でも好影響を及ぼしたのではないかと筆者は推察しています。この急成長により、ピーニャとナルバエズは最高の捕手コンビとして2020、2021のMILのコンテンドを支えました。

ナルバエズの守備指標

ピーニャの成功はMLB全体に波及する?

MILの新たなる挑戦

今オフMILはトレードで新たにウィリアム・コントレラスをで新たな正捕手として獲得しました。コントレラスは昨季ASに選出されている24歳の若手捕手ですが、例に習って昨年と一昨年のDRSが−4、−7と守備への評価に疑問符がついており、それがATLが放出の理由となったと考えられていますが、マッキベン戦略コーチを中心にコントレラスの改造に自信があっての獲得でしょう。打撃ではOPS.860と捕手の中では圧倒的な成績を残せているだけに、ピーニャ、ナルバエズについで捕手の守備改善にMILが成功するのかどうか注目です。


他球団にも注目され始めている?

 ピーニャとナルバエズの成功は現在他球団からも注目を集めていると筆者は考えています。ナルバエズは1年800万ドルと2年目のPO700万ドルの契約でニューヨークメッツに入団しました。これに伴ってメッツは控え捕手のジェームズ・マッキャンを年俸1900万ドルを負担してまでBALに放出しており、ナルバエズを獲得への本気度が伺えます。多くの媒体で論じられている通りこの獲得には球界トッププロスペクトであるフランシスコ・アルバレスの存在が大きいと考えられます。アルバレスもコントレラスと同様、打撃に対する評価が先行しており、スカウティンググレードもFieldingは45と守備面での不安は拭えません。かつてピーニャがナルバエズ相手に担った役割をNYMが今度はナルバエズに期待しているのではと考えられます。ちなみにアルバレスもピーニャ、ナルバエズと同様にベネズエラ出身で,既に2人は一緒に練習に取り組んでいるようです。

 最後に本稿の主人公でもあるピーニャの今後について書きます。既に2022年にはMILを離れていましたが、奇しくもコントレラスをMILが獲得した三角トレードで筆者が応援するOAKに移籍しました。OAKにも昨年まで球団NO1プロスペクトであったシェア・ランガリアーズという若手捕手がおり、彼は守備に対する評価、特に肩の評価が高いもののフレーミング指標は悪く、ピーニャの獲得にはナルバエズの移籍と同様にランガリアーズの指南役として意味合いが大きいです。今年度のOAKは藤浪晋太郎選手を始めとして、ケン・ワルディチャク、カイル・マラー、ルイスメディナとコントロールに不安を抱えているか抱えていた選手が多いので、ランガリアーズの育成はもちろんピーニャの出番自体も一定数あるのではないかと推察されます。加えて筆者はピーニャにはメイクアップの部分も期待しています。マッキベン戦略コーチも選手が自発的に努力を続ける文化を築き上げたのもピーニャの功績だと評価していました前回の再建2年目は選手同士が殴り合う悲惨な事態が起きチームに暗雲が垂れ込めたのを思い出すと、ピーニャが野手投手ともに良い影響を与えてくれることを祈らずにはいられません。


最後に

以下の写真はピーニャがMILで初出場した2017年の捕手のプロスペクトランキングです。


MLB PIPELINEより

何人かはMLBで現在も活躍している事を考えても、他のポジションよりも前評判通りに行かない選手が多いように感じます。それだけ捕手はプレミアムなポジションであり守備面の負担が大きいポジションであると思います。もし、コントレラス、アルバレス、ランガリアーズといった球界でも有数の有望株がMILが成功したやり方で守備面の課題をそれぞれ克服することができれば、MLB全体で見ても大きな進化と言えるのではないでしょうか。今後の3選手の成長とそれを支えるマッキベン、ナルバエズ、ピーニャの今後から目を離せません。

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