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「見応え」より「見心地(みごこち)がいいもの」を/長岡岳大+めぐみ梨華 インタビュー

2022年6月12日(日)に行われた、
ポシロ舎オープニング企画『ときわ座に本を持ち込むと、』。
本企画では、「ときわ座」と「本」に関わったパフォーマンスをアーティストにお願いをしました。

そこにお招きした、長岡岳大さん、めぐみ梨華さん。
ジャグリングを行う2人組で、長岡さんはボールを、めぐみ梨華さんはディアボロ(中国ゴマ)を専門に活動しています。
これまでは映像作品をベースに活動していましたが、今回、初めての2人でのライブパフォーマンスとなりました。
そんなお二人に、当日のパフォーマンスのことや、これからの活動について、お話を聞いてみました。

聞き手・テキスト:濱口啓介


ーー今日はよろしくお願いします。
まずは、お二人のプロフィール的な部分を教えてください。

長岡 大阪市出身の長岡です。普段は、ジャグリングを用いたパフォーマンスだったり、最近は映像制作をしています。

めぐみ めぐみ梨華です。ディアボロっていう中国ゴマとよく呼ばれるんですけど、その道具をメインにパフォーマンスをしています。春は大道芸やフェスティバルで活動していました。

本のしおり紐を使った冒頭シーン

ーーお二人は映像を中心に作品を発表されてたと思うんですけど、2人でやろうと思ったきっかけはなんでしょうか。

長岡 去年(2021年)の暮れ、11月ぐらいに原宿の代々木公園に集まったんです。えーっと、なんで集まったんだっけ……あ!電話してたんですよ、久々に。

めぐみ そうです!

長岡 「最近どう?」みたいな話をお互いにして、(コロナ禍なので)時間があるみたいな話をしてたんですよ。で、その時に僕が映像にハマっていたので、一回試しに代々木公園でそれぞれの道具とカメラだけを持って集まったのが初めですね。

全然そのときはどういうものを撮るかは決めてなかったんですが、原宿駅でめぐみ梨華を待っていた5分、10分ぐらいの間に「どうやって撮ろうかな?」と考えたのが初めてで。

異なる道具同士で、成立するようなパフォーマンスは結構難しそうだなと思って、そこをどうやったらつながれるんだろうと思って。

僕がボールを3つとか4つとか5つとかではなく、シンプルに1つだけで、ディアボロも1つで、それを一緒に同期しているだけでも、ひょっとしたら面白いんじゃないかなと思いました。さらに、ボールを扱う僕が少し前の方に立って、ディアボロを扱うめぐみ梨華が少し後ろの方にいて、ディアボロとボールのサイズ感が同じぐらいになるようにして撮れば、同期してる様子がよりわかりやすく見えて、映像ならではで、一層面白いんじゃないかなとパッと思いついて、その時に、これはいけるかもしれない!と思いました。

その後に、めぐみ梨華に会って「こういうのどうかな?」って話しをした…したっけ?

めぐみ しましたね!

ーー待ち時間で思いついたんですね!

めぐみ ディアボロとボールが並んで演じると元々は本当に大きさ感が違うので、カメラで見た時、2つが同じ大きさに見える違和感が面白かったです。

長岡 映像ならではで面白かったので、これはユニゾンすればさらに面白いなと思って。そこがまず初めでしたね。

ーー最初の頃はユニゾンがどうできるかを探っていったんですか?

長岡 そうですね。

ユニゾンしていくボールとディアボロ

ーーディアボロはひもを介して動くけれど、ボールは手から放って扱う道具で、扱い方が全然違う道具のように見えて、共存するのが難しそうっていう印象があるんですけど、そういった難しさってあるんでしょうか?

めぐみ (ディアボロとボールを組み合わせる演技を)やってるひと自体がいないと思っていて。道具それぞれのスピード感も違うし。

長岡 ディアボロの話をすると、回転をキープさせないと技を続けられないというのがあります。技をするにしても、技を続けてやった後に、ちょっと回転がゆるくなってきて、ぐらぐらになったり、角度が傾いて見えづらくなったり、見応えがなくなったりするので、修正したり、回転を加えてあげるシーンがどこかで必要だったりするんですよね。一方で、ボールはそういうのが全く必要なくて。シンプルに投げて取る。要はエネルギーの回復みたいなのが必要ないので、そういう時間をどう利用するかみたいなのが、今まであんまり考えたことがなかったので、そこが大変であり、おもしろかったです。

めぐみ 確かにそうですね。別の視点からの意見があって、さらに膨らんでいく感じがありました。

ーーなるほど。ディアボロには回転のキープが必要で…って、言われるまで、気がつきませんでした。確かに!そうだ!って思いますね。

めぐみ 私もです(笑)ディアボロはそれが当たり前なので、長岡さんと一緒にやってみて、改めてそういうことに気がつきました。

長岡 一緒に作ってると、途中で「そろそろ回転が…みたいな」笑

全員 笑

ーーおもしろいですね!そういったことも考えながら、構成していくんですね。

長岡 そうですね。もしくは、もう少し回転が持つように、めぐみ梨華が技術で修正することも。

ーーあ、気がつかないように、ちょっとやってたりするんですか。

長岡 そう。やっぱり、うまい具合に(笑)

めぐみ そうです(笑)

長岡 あとは、綺麗にコマに紐が入ってれば。

めぐみ そうですね。面とか、角度とか。

長岡 そういう、シンプルなディアボロのテクニックの上手さも必要で、下手にディアボロの紐がコマのそこここにあたってしまうとエネルギーが消耗しちゃうので…

めぐみ 摩擦でですね。

長岡 そうそうそう。

ーー回転が落ちやすくなるんですね。

長岡 なるべくきれいにやったり。省エネにやりつつも、魅せたり。たぶん、微妙なところをね、やってくれてるとおもうんです、いつも。

ーーいやあ、おもしろいですね。自然にやられていて、そういう調整している様子は全くみえないですね。

めぐみ それはボールも一緒だと思う。細かな調整を所々でしてくれていたりするんだろうと思っています。

濱口 お互いこっそり(笑)

めぐみ こっそり(笑)

長岡 (笑)

ーーそういったところも、難しくも、やりがいのあるところですか?

長岡 そうですね、だからこそ、みんながやらなかった部分でもあるのかなとも思うし。

道具と身体が複雑に絡まり合っていく

ーージャグリングっていうジャンルの中にいるからこそ、組み合わさらないというか。例えば、ダンスとジャグリングとかはもしかしたら思いつくかもしれないけれど、ジャグリングという同じカテゴリの中での異なる道具を組み合わせは、近いからこそあまりやらなかったりするんですかね。

長岡 他の(ジャグリング)道具同士で共存するのってやっぱり難しいなっていうのはいつでも思いますね。

ーーなるほど。

長岡 例えば、ダンサー1人とボールジャグラー1人だと、身体は2つで、道具は1種類なので、比較的シンプルで繋がりやすいなとは思うんですけど。
例えば、シガーボックス(ジャグリング道具)とボール。扱う物が2種類に増えて、さらにそこに身体が2つあると、組み合わせ方なども増えるので、カオスにならないようにするには、見せ方に何かしらの工夫が必要になってきます。

ーーディアボロとボールで作品を作る方もあまり前例もないんですか?

長岡 ボールとダンスのような、道具と身体っていうのは、多くはないですが少し前例があって、参考になるものはあるんですけど、ディアボロとボールは、昔サーカス学校に通っていた時に映像でチラッとは見た程度で、僕らがやっているのようなアプローチではなくて。

ーー探って、たどり着いていったんですね。

長岡 そうですね。

相手の道具と向き合うシーン

ーーお話しを伺ってみて、二人のパフォーマンスもまだ実験段階の部分もあるのかなと思うんですけど、今回のライブは『ときわ座に本を持ち込むと、』ということで場所(ときわ座)と物(本)と少し関わったパフォーマンスをお願いできますか?と依頼しました。実験にさらに実験が加わっているという感じもあったかと思うんですが、その場所と本との関わり方で、今回発表された演技になった経緯とかって何かありますか?例えば、場所についてはどうでしたか?

長岡 1階から2階に打ち抜かれている部分があるじゃないですか?そこは少しでも活用するシーンが欲しいねって言う話はしていました。

めぐみ 何か使いたいって話を。

長岡 いろんな案があって、2階のヘリの部分でジャグリングを2人並んで、見上げてもらっても良いのかなあと思ってやってみたりしたんですけど。……あれ、なんでダメだったんだっけ?(笑)

めぐみ なんででしたっけ(笑)お客さんの座席とかの関係だったと思います。一方の人に全く見えないようなものにはしたくなくて。

長岡 そうそう完全に捨てちゃうところもあるし。

めぐみ デッドスペースがちょっと気になりすぎて(笑)

長岡 あと、そんなに効果的でもなかったり。

めぐみ 上行くと暗くなったりとか。

長岡 かわいいはかわいんですけどね。そんな風に色々試したところ、ディアボロを紐で吊るしてみようって話にはなって、最初はふつうの長い紐で試してみて、そしたらめぐみが、ゴム紐もあるよって提案してくれて。ゴム紐の演技は普段やってるのかな?

めぐみ そうです。普段取り入れてて。

ーーゴム紐でのディアボロを、ですか?

めぐみ そうです。

ーーへえ!

めぐみ 伸びると動きに変化が出て、面白いんです。

不思議な動きをする、長いゴム紐のディアボロ

ーーお互いに考えを持ち寄ってるんですね!
最初紐をたらして…という演出の時、お客さんの視線がおもしろかったのと、落ちてくる場所のすぐ近くに座っている人は意外とぜんぜん気がついてなかったのが、印象に残っています。

めぐみ あ、そうなんですよね(笑)わたしも上から見て思いました(笑)

長岡 へえ!すぐ近くの人は気づいてなかったんですか。

ーーディアボロから離れている人は気付くんですけど、近くの人はすぐには気が付かず、周りの人がなんかクスクスしてるなあ…って感じから、すぐ近くにあるディアボロに気がついた時に、すごくびっくりしてる方がいましたね(笑)

めぐみ そうそう!

長岡 そうだったんですね(笑)

ーーときわ座の吹き抜けの天井をすごく生かされていたと思いました。あの場所でしかできないことですよね。座る場所によって、見え方や感じ方が違っているのも、おもしろかったです。

めぐみ あんまり意図してなかったです(笑)

長岡 そうそう(笑)でも、うれしいです。

ーー1回目も2回目も、ちゃんと離れている人はくすくす笑って、近くの人は驚いていました(笑)

長岡 1回目の時は、ヒモに対して、そんなにリアクションしてなかったので、シンプルに見守っていたぐらいだったんですけど。それを終えた後に、今のリアクションだと気が付かなかったお客さんが多いってめぐみが言ってくれたので、2回目はもうちょっとだけフューチャーさせるようなリアクションを…と変化させました。

ーー冒頭の演技のところで、本をはじめとした日用品や、プラレールなどおもちゃを使っていたのも好きなシーンでした。「ディアボロとボールジャグリング」と最初に聞いた時に、想像しないオブジェクトがそこにあったんですけど、それを使ってみた理由はありますか?

長岡 人の手を介さずに、物理的に、ジャグリングにみえるような動きができるといいなと思ったのが起点です。ボールを乗せたプラレールが勝手に動き出し、ディアボロのお椀に入れるシーンとか。そんな表現を、実験として、作ってみたいなと思って、日用品やプラレールを使ってみました。

ーーあのシーンめちゃくちゃ盛り上がりましたもんね。

長岡・めぐみ (笑)

ーー1回目と2回目の違いもおもしろかったです。

めぐみ 全然違いましたね(笑)

長岡
 1回目はあっさり成功。2回目は5、6回やって成功しましたからね。大技が決まったかのような「おおお!」って盛り上がりました。みんな応援してくれましたね(笑)
途中で、やめなくてよかったなと(笑)

ーー心折れそうになりながらも?(笑)

長岡 4回目ぐらいで折れてましたね(笑)

めぐみ (笑)

日用品を用いたパフォーマンス

ーー今回、2人の関係性をしっかりみせるみたいな演技が濃かったのかなと思ったんですけど、そういった演技はこれまでやってきてたんですか?

めぐみ 私は今回こういうのは初めて挑戦しました。

ーーやってみてどうでしたか?

めぐみ やってみておもしろかったんですけど、もっと勉強したいなって思いました(笑)こういうおもしろい感じ、ユーモアが散りばめられているような演技は普段やらないので、すごく新鮮でした。

ーー普段のソロの演技では、笑いを狙うシーンを意図的に作ったりとかはしないですか?

めぐみ ないですね。でも、今後増えていくかもしれないですね(笑)

長岡 おお!あら!

めぐみ でも、1人でやるのはまた難しそうですね…!

長岡 2人でやるのと、ちょっと方向が違うよね。

ーー今回のシーンで、犬みたいなボールをめぐみ梨華さんがこう(グーでボールを叩くジェスチャー)するシーン、好きでした(笑)

長岡 パーですよ(笑) グーじゃない(笑)

全員 (笑)

長岡 ゲネプロの時は優しく叩いてたんで。机が揺れるぐらい、もっと強く!って言いましたね(笑)

めぐみ そうそう、演技指導が入りました(笑)

長岡 あと犬の鳴き声も、いろいろ探った結果、アンパンマンのチーズみたいな声になりました。「バウワウ」とか、「ワンワン」だったり探ったんですけど、結果「アンアン」になりました(笑)

めぐみ梨華さんがフリーズするシーン

ーー最後に1つ聞きたいんですけど、映像作品とライブで見た2人の印象がちょっと違ったんですけど。1つは、ライブでは、ユーモアが多かった印象がありました。暖かくて好きな空気感だったんですが、映像とライブの違いは何かありましたか?

長岡 そんなに違いました?(笑)

ーー印象が違う部分「も」ありました。もちろん同じ印象もあったんですけど、たとえば「ウイーン」(ロボットのような演技部分)とか。

2人 ああ!

ーーしっかり見せるところは見せるけれども、いい感じで観ている人の息を抜かせてくれる。「ホッ」とさせてくれるユーモアがあって、僕はめちゃくちゃ好きでした。

長岡 映像との違いはお客さんへの意識がありました。お客さんが緊張している状態から、ここら辺でリラックスできるシーンをつくろうというか。「見応え」というよりは「見心地がいいもの」を作ろうと意識してて。「見心地がいいもの」ってなんだろうって考えた時に、観ててスッキリする部分があったり、逆に少しハテナな部分が微妙にあるのが自分の中で好きだなって思ってて、そういう部分を意図して作ったりしました。その結果、スムーズに技や身体が動くシーンもあってもいいんですけど、それだけだと、お客さんの心が流れてしまうことがあると思うんです。もちろんそういったシーンだけでもすんなり観れるんですけど、僕は「よかった」っていう印象だけしか感じないことがあるので、もう少しズレたところで引っかかって欲しいなと思ってて。よかったけど、なんでああいうシーンも入れたんだろうみたいなのを、あえていれることで印象に残るように作っていきましたね。

ーー「わからなさ」をスパイスで入れるみたいなことですかね。

長岡 そうですね。

ーーそういった部分も映像の時との違いなんですね。

めぐみ そうですね。あと単純に尺感が違いますね。例えば20秒とかの映像は観れると思うんですけど、20秒の映像でやるようなものを20分やると、おそらくずっとは見れないと思うんですよ。なので、パフォーマンス用には作り直す必要があって、色々足していって。

ーー今後の展望があればおしえてください。

めぐみ ああいう空間でやるのが面白かったので、面白いところでできたらと思っています。ぼんやり(笑)

長岡 今後も続けて、色々試してみたいなとすごい思いましたね。いろんな関わり合いがあるんだろうなと感じました。今回、25分間のパフォーマンスを作ったんですけど、クリエイションしてみると、自分の中になかった引き出しが、見つけていけるんですよね。1日クリエイションしてみて、収穫がなかった日がなかったんです。そういう引き出しを自分の中で発見していくのがすごく楽しくて、今後も発見して、それを活かした作品を発表していきたいです。

ーー 今後がますます楽しみです!ありがとうございました!

◆PROFILE◆
長岡岳大+めぐみ梨華

ディアボロが描く弧とボールが宙に浮き落下する軌道などを用いて、物体を操る不思議さを保ちながら、時間を忘れて無心でみていられるジャグリングを創造する。

・長岡岳大 Instagram
https://www.instagram.com/hachiroo86/
・長岡岳大 Twitter
https://twitter.com/Hachiroo86
・めぐみ梨華 Instagram
https://www.instagram.com/megumirika_official/
・めぐみ梨華 Twitter
https://twitter.com/MegumiRika_dia

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