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流しそうめん#2000字のドラマ

「なあ、なんで俺たち背中ジリジリさせながらこうやって川歩いてるの?」

ユウジが喋りだす。
昨日から、俺たちは中学の部活の仲間と唯一の休日を使って仲間5人でトモヤの家に遊びにきていた。
一晩中遊び尽くしたテンションで「川下りしよう」という流れになり、近所の川を、起きていた俺とトモヤとユウジの3人で歩いて下った。
この辺りの川は田舎なので、夏になると農業用水に取られるため、水位も流れも緩く、歩いて川の中に入ることが出来ていた。
あてもなく川を降り、特に何か収穫があったわけではない。そのまま川を昇って帰る。
そこで冒頭のユウジの言葉だ。

そりゃそうだな。
でも、ユウジも不満なわけではない。

本当に、単純に、「なんで?」と思ったんだろう。だから、誰からも返答がなくても気にした様子は無かった。

俺たちは背中に太陽をジリジリに浴びながら、それでも訳のわからない充足感を持って、トモヤの家に着いた。

時刻はお昼になっていて、朝方から眠っていた他のやつもモソモソと起き出した。

「なあ、外に竹が置いてあったけど、あれ何?」
「あれ?うち毎年流しそうめんやるんだよ。その竹をお父さんが切ってくれたんだ。」
「へえーーーーーー。
流しそうめん、やったことないな。やってみたい。」

誰かが言った。
多分、3人だったら、そうだなーーで終わっていただろう。
でも、ここには6人の仲間がいた。少しずつのお互いのやりたいテンションが持ち上がり、俺たちは、流しそうめんをやることにした。

大人の手を借りず、セッティングすることは生まれて初めてで、あーでもない、こーでもないと言いながらトモヤが前やった時のことを思い出しながらセッティングした。

さっき背中に浴びた日差しが今度は頭の上からジリジリに焼き付けてきた。

でも、気にならない。
俺たちはこれから流しそうめんをするんだ。

普段料理もまともにしない俺たちがなれない手つきで麺を茹で、セッティングした竹に麺を流す。そうめんはチョロチョロと流れるのかと思いきや、勢いよく流れ、俺たちの箸は追いつかない。

「なんだよこれ!難易度高すぎだろう!」

明らかに急勾配で、水の勢いが強すぎた。
だけど、誰もその角度や水量を調整しない。
あくまでも今のスピードを攻略してやろう、そんな流れになっていた。

俺たちはただ、ただ、笑っていた。

部活、勉強、ゲーム、バイト、恋愛。それぞれがそれぞれの時間軸がある中でやっと捻出した今の時間。
そんな時間を表すかのように、竹の中を流れる水がキラキラ輝いていた。

でも、
俺たちはそんな事を気にする事なく、猛スピードで流れる流しそうめんに夢中になった。

俺たちは、今、目の前のことに夢中だ。
先のことなんでひとつも見ていない。

「やったー!獲ったー!うめぇーー!!」

笑い声が、流しそうめんと共に流れていた。

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