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アメリカでは大学への推薦状をどう作るのか

 日本でもAO入試が盛んになってきた。その際、受験生はどのような書類を用意し、どのような試験を受けるのだろうか。アメリカで子どもを育て、アメリカの教育界にいる私は、日本のAO入試がとても興味深い。

 「いい大学に進学するためには、小さい頃から、コンクールや大会に出場して賞を貰うことが大切よ。」アメリカで子育てをしていると、ことある毎に、周囲の人から言われ続けてきた。大学受験で有利になるために競うのだろうか。スポーツでも音楽でも、上を目指すと熾烈な戦いがある。州をまたいであちこちの大会やコンクールに参加し、賞を沢山もらっている友だちがいるのを、わが家は横目で見てきた。しかし、子どもが大学受験に取り組む段になり、あの競争は何だったのかと思う。

 アメリカの大学に出願するには、高校での学業成績や共通試験(SAT/ACT)の結果のほか、さまざまな書類が必要で、その中に必ず高校カウンセラーからの推薦状が含まれる。それは学生が選んだ教科担当の先生の推薦状より重要なものとして、出願先に送付される。公立高校には何人ものカウンセラーがいる。そして、学校によって異なるが、一人のカウンセラーがおそらく300名弱の生徒を担当することになる。姓のアルファベット順に自動的に割り振られる。その中で受験生は60~70名くらいだろうか。なので、カウンセラーが全ての生徒と面識を持ち、人となりを把握するのは無理である。それなのになぜ、実際に一年ないしそれ以上、習った先生に加え、カウンセラーの推薦状が重要になるのか、長い間、疑問に思って来た。

 カウンセラーに各生徒の情報が網羅されるような仕組みになっているのだ。中でも大切になるのが、生徒自身がカウンセラーに提供する情報である。生徒が、カウンセラーから渡された質問に答えるのである。人によって違うだろうが、A4の紙で10枚前後にもおよぶ。その中には、生徒の親が記載する項もある。カウンセラーがわが子の推薦状を作成するにあたって、知っておいてもらいたい重要な事について、自慢も歓迎なので記してくれと。他方で、生徒には、12にわたる質問を投げかけている。

1. 自身が考える学業的強みは何か。
2. どの科目が最も楽しかったか。それはなぜか。
3. 学校成績は、自分の実力を正確に反映したものだと考えるか。なぜそう考えるか。健康上、ないし家族や個人的な問題で、カウンセラーを通じて大学側と共有してほしいことがあるか。
4. 大学ではどんな勉強をすることに興味を持っているか。それはなぜか。
5. 自身の長所を三つ挙げて説明せよ。
6. カウンセラーも知らない、他の学生とは違う傑出した点は何か。
7. スポーツや音楽、学業、リーダーシップなどにおける才能、受賞歴のリスト
8. 課外活動や個人活動、コミュニティや家族活動、趣味、業績、サマープログラムについての実績について。
9. 過去三年間の職歴(アルバイトも含む)
10. 合計の社会奉仕活動(SSL)時間と、その中で一番重要だと考える活動は何か。その理由は何か。
11. 自分にとって最も大切だと思う課外活動は何か。その理由は何か。
12. 学校閉鎖中の経験で重要だと思うことについて、たとえば自身の活動、新たな趣味、自分自身や家族について、等

 つまり、学業、性格、課外活動(音楽やスポーツ、社会奉仕など)に関する質問が、万遍なくカウンセラーから問いかけられている。

 学業について、大学で何をどうして勉強したいのか、高校時代に選択した科目を元に、説得力と整合性を持って高校カウンセラーに、文章で説明しなければならない。そして、自身の核をなす性格について、自身を掘り下げて見つめ直し、人となりをカウンセラーに示す作業はなかなかきつい。他者と何が違いユニークなのか、そして、将来の夢や希望、それを成し遂げる意思の強さとその裏付けについて、言葉にしなければならないのだ。その補完的な役割として、スポーツや音楽、ボランティアなど課外活動での実績がある。つまり自分の人となりを示す上で肉付けとなるものが、スポーツや音楽、社会活動など課外活動なのだ。生徒によっては、スポーツや音楽での実績が最も重要な核となり、そこから自身の個性や性質、夢、意思や信念の強さが作られ、補完する形で学業があるかもしれない。生徒によって、その三つのバランスや濃淡が異なるのではないか。

 実のところ、カウンセラーからのストレートな問いかけに、親子共々答え、締切りまでに書き上げるのは大変な作業である。子どもが親に自分のことを語るのを嫌がるからとか、親がそこまで子どもに関与する時間がないとか、さまざまな理由で、民間の教育カウンセラーを雇い、高校に提出する書類を仕上げるという話もよく聞く。

 高校のカウンセラーに推薦状を書いてもらうにあたり、ここまで自身を掘り下げて考え、自分は一体何者で、何をしてきて、何を大学でしたいのかを考えさせられる。それを論理的に説得力のある言葉で表現する。それを元にカウンセラーと面談し、客観的に判断され、最終的に大学に推薦状を書いてもらえるのだ。生徒と面識の少ないカウンセラーが書く推薦状はどんなものなのか、正確に作成されているのかと疑問に思っていたが、生徒や保護者も自問自答を繰り返し、一緒に考え作り上げていく大切なものなのだと、認識を新たにした。

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