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コロナ禍の中、米国の大学進学をめぐる葛藤

 新型コロナウイルスなど全く関係なかった前年までだと、大学受験生は、5月1日までに大学からのオファーを受け入れるか否かを決めなければならず、逆に言うと、その日を境に多くの生徒の進学先が決まる。しかし、今年は多くの大学が一カ月延長し、6月1日までに最終回答すればよいとしている。

 なにせアメリカの大学の学費は高い。各々の家庭環境や経済環境によって異なるが、多くの場合、生徒の気持ちだけで進学先を決められないのがアメリカの現実だ。複数の大学から合格通知を貰っても、それがたとえ本人にとって第一志望だったとしても進学先は即決できない。何度も言うが、学費が高いからだ。

 大学側から、どのような授業料支払いの条件を提示されるか。AP科目がどれだけ大学の単位として認められるか。それに加え、年間数百万円の寮費も捻出しなければならない。合格通知と一緒に、大学側から入学条件が提示されるのだ。つまり、入学者が一律に同じ授業料を払うわけではない。

 なので、多くの家庭では、合格通知をもらった大学の一覧表を作り、自腹で学費を払う金額はいくらか、ローンをいくら借りることになるのか、その際の利子率や条件がどうかなどを、入念に比較しながら、最終的に一番お得な大学がどこか検討する。他方で、子どもである生徒は、大学以外から奨学金を出してくれそうな団体を探してはエッセイを書き、応募していく。また、金銭面だけでなく、例えば大学の単位の互換性も大切になって来る。短大や他校で取った単位を無条件に認めるか否かは、転学、編入しようとする際に重要項目になってくるが、大学によって条件が異なるので、入学前に知っておくと後々後悔しない。そして、最終的に5月1日(今年は6月1日)までに、どれだけの借金を抱えるか覚悟を決め、進学先を決定する。

 このように、進学先を決定するに至る過程で、何度もその大学に進学して本当によいのか、考える機会が出て来るのもたしかである。そして、自分の市場価値がどこにあるのか、現実を突きつけられる。

 たとえば、A大学とB大学に合格したとしよう。A大学の方が知名度も一般的な難易度も高いが、無償の奨学金が少ない。他方、B大学は、A大学ほど知名度もないが、ほとんど無償で通える。そもそもなぜB大学はそれだけ多額の奨学金を提示してくれたのか。それは、多様性という観点からすると、学生の人種構成が白人系に偏り、ほとんどアジア系がいない。だから大学側はマイノリティ枠でアジア系が欲しいから、奨学金がたくさん出ているのではないか。自分はそれでいいのか。

 こうした駆け引きが、大学側と学生側で繰り広げられるのである。しかし、新年度からのキャンパスオープンが正式に決まっていない今、進学予定の高校卒業生および保護者の気持ちは複雑だ。オンライン授業を自宅で受けるだけのために、本当に大枚をはたいて入学する意義があるのか。学費の安いコミュニティカレッジのオンライン授業でもいいのではないか。そもそも、こんな多額の借金を抱える意味があるのか。この大学に投資する価値はあるのか。

 アメリカでは、大学卒の学位の価値が、スキルの取得よりも、世間でのイメージや大学ブランドによるところが大きかった。新型コロナウイルスの影響で、世界全体の社会構造が大きく変わろうとしている今、あまりに高い学費を払わされる保護者と大学生の目が覚め、大学に求めるものが何なのか、改めて問い直されている。

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