ピピピッ。 39.4℃。 体温計を一瞥してケースにしまう間に、このあとのシミュレーションは…もう、終わった。 職場に連絡し、小学校に電話。小児科にはご飯を食べさせたら朝イチで連れて行こう。 また年休が一日減るんだな。 あと何日あったかな。まだ八月だっていうのに今日までに結構使ったな。 年末まで足りるかな。 そんな不安が一瞬頭をよぎった。 ……考えても仕方ない。 私は小学生の娘と未就学児の息子を育てている。 さっき、職場に社内チャットで休みの連絡した「また、休みか…」
2023/7/17 「うーん……あともう少し。寝よ……」 そう言いながら慣れた手つきでスマホを一瞥するとまた目を瞑る君。 「今日午前中からアポ入ってるんじゃないの」 「大丈夫。間に合うから」 そういうと顔を枕に埋もれさせて安心したような顔で更に口も閉じた。 そういえば先月もこんなことなかったかな。 「一緒に居るとさ、なんかだらしなくなっちゃうんだよね」とか言ってたな。 あの時どんな話をしたんだっけ。 その安堵した寝顔を見つめながら、記憶を探した。 そうそう
2023/6/22 自分の髪が長いことが彼女にとっては一つの自慢であった。髪を結ぶのに必要なキラキラした飾りのついたヘアゴム、リボン、フリル。髪をとめるのに必要な大ぶりのヘアピンやフルーツやキャラクターのあしらわれたパッチンどめ。そのどれもが彼女の宝物だ。 似たようなものをいくつも所有しながら、彼女は毎朝、気分でその日のヘアアクセをどうやら決めているらしい。 小学一年生の６月。 梅雨の湿気で顔に髪の毛が張り付いて少々うっとおしくなるというので、今日はポニーテールにし
「高須、亡くなったの知ってる」 彼はスーパーの前で唐突にそう言った。彼が何を言ったのか一瞬わからなかった。 「高須ってあの……」 私たちの共通の「高須」は高校の同級生であるその人だけだ。 「そう。ずっと闘病してたらしい。亡くなったのはもう数か月前になるけど。あっちにいたから葬式帰って来れなくてさ。線香もまだ上げに行けてなくて。タイミング的に今回しかないから。金曜に久留米行って線香あげてくるわ」 私はなおも何を発していいかわからずにその口元を真正面から見ていた。言葉を失う
