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彼女が見つめる " 視線のその先" に・・・" その歩むべき道 " が、徐々に姿を現してくる[第12週・3部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

今回は第12週・「あなたのおかげで」の特集記事の3部ということになる。ちなみに、第12週・2部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

さて、この第12週の特集記事は3部構成で考えており、一旦60話の最後まで記事を書き終えたのだが、2万字を大幅に越えた長文となってしまった。そこで、その元記事の内容を分割し、再編集したのがこの記事となる。したがって、第12週の特集記事は4部構成となる。

それで今回の記事は、基本的には第12週の後半部となる、59話前半~60話前半を集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。

この記事を執筆するのにあたっては、『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察していく。さらに筆者の感想を交えながら、この作品の深層に迫っていきたい。


○自分の未来は、能動的に " 自分の手 " で・・・ 掴み取っていく。


報道気象班の朝岡覚(演・西島秀俊氏)が、近々に気象キャスターを降板すると聞いた、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)と神野マリアンナ莉子(演・今田美桜氏)。後日に『JAPAN UNITED TELEVISION』の社会部気象班デスクの高村沙都子(演・高岡早紀氏)と、その件について話をする。


*第12週59話 より


高村デスクは、朝岡の意向を前々から知っていた。なんでも二人で飲みに行ったときなどで、朝岡は頻繁にそのことを話題するそうで。一見、高村デスクと朝岡は、気象報道に対する考え方や仕事のアプローチが " 完全に相反している " ように見える。したがって百音と神野は、高村デスクと朝岡が二人で飲むことがあるという事実に、驚きを隠せない。

しかし朝岡と高村デスクは対立しながらも、お互いに " 新しい気象報道の未来 " というものを模索し、" 既存のフォーマットを、これから改革していかなければならない " という思いを抱いていることは、二人共に一致している。やはり二人は良き友であり、戦友なのだろう。


神野は、高村デスクに『あさキラッ』の気象キャスターの後任候補を恐る恐る聞いてみると『神野さんじゃない? そうなったら、私、推すわよ。』と告げられる。しかし高村デスクは、このようにも付け加えた。


『高村 : でも・・・ 大変よ、キャスターは。特に女性は。

『神野 : え? 』

『高村 : ああ・・・ 私、やってたから。キャスター。』

『百音・神野 : えっ!? 』

第12週59話 より


*高村デスクは『でも・・・ 大変よ、キャスターは。特に女性は』と神野に語る [第12週59話 より]


高村デスクが、過去にキャスター経験があるという事実に、驚きを隠せない百音と神野。なんでも15年前に、高村デスクはキャスターをやっていたそうだ。


さてこのシーンは、一見、高村デスクが " 過去にキャスター経験がある " ということを、視聴者に説明するためのものだと感じてしまうのだが・・・ その辺は、実は別の放送回でも匂わせている。

ということは、むしろ、神野が、" 自分の未来を能動的に掴み取っていく " という姿を見せることで、" 今後の百音の行動にも変化をもたらしていく " という機能を持たせている方が、大きいのではなかろうか。

これは朝岡や、今後に登場する新キャラクターのエピソードと相まって、自分の未来は " 自らの手で掴み取っていくべき " ということを、百音に知らしめるといった効果を狙っているのだろう。

それと同時に、まだまだ " 男社会である報道キャスター " という職種の、女性の立ち位置とその苦労を匂わせているわけだ。これは今後のストーリー展開で、神野に立ちはだかる障壁や陥るスランプを匂わせる伏線にもなっている。



○ メタフィクションを越えて・・・ " ドキュメンタリーには " 出来ないことがある。" フィクションにしか " 出来ないことがある。


百音と神野から " 朝岡の気象キャスター降板の件 " を聞いた高村デスクは、早速、朝岡本人を呼び出してその真意を聞く。


『朝岡 : ですから、気象キャスターが嫌だと言ってるわけじゃないんですよ。』

『高村 : 当たり前です。嫌で10年もやられてたら、こちらはたまりませんよ。』

『朝岡 : プライドは持ってます。先日の台風報道でも、相当時間をかけて、「経験したことのない危機だ」と伝えて効果はあった。』

『高村 : そうね。』

第12週59話 より


さてこのシーン、その前半のカットでは、朝岡と高村デスクの立場の差を明確に表した映像となっている。


*第12週59話 より


高村デスクは椅子に座り、朝岡を立たせた状態で話をさせている。要するに、高村デスクが統括責任者として事情説明を求めているといったもので、朝岡の神妙な面持ちが、それを表しているだろう。しかし、朝岡から " この話 " が出てくると・・・ それが一変する。


『朝岡 : ただ、そこで暮らしている人たちの生活を " 知っている人間にしか出せない指示 " があることも事実だ。』

『高村 : こないだの、永浦さんのことを言ってる?

第12週59話 より


この前の観測史上前例のない台風が東北を直撃した際、気象報道用の原稿に宮城出身の百音を意見を大幅に取り入れた。このことが具体的、且つ的確な気象報道へとつながったわけだ。この事実に、朝岡は相当な手ごたえを感じており、また高村デスクも彼が手ごたえを得たことを感じ取っていた。

そして高村デスクが、『こないだの、永浦さんのことを言ってる?』という言葉を発するタイミングで、彼女は立ち上がる。


*高村デスクは、『こないだの、永浦さんのことを言ってる?』と話す際に立ち上がる [第12週59話 より]


ということは、この瞬間から高村デスクは上職としてではなく、気象報道に携わる " 戦友 " として、朝岡の話を聞こうではないかといった心持を表現しているのだろう。

しかし、一方の朝岡は・・・ 高村デスクから目線を外しながら語るのだ。


*一方の朝岡は、高村デスクから視線を外して語り始める [第12週59話 より]


この所作は、これから朝岡が語ることが " 高村デスクの哲学 " とは相反するものだからだろう。彼はこのように語る。


『朝岡 : これから情報は、ますます細分化されていく。生活している人に、より具体的で役に立つ情報を伝えられるのは、 " マスメディア " から " パーソナルメディア " になっていくと思う。

第12週59話 より


この話は、マスメディアの一員でもあるドラマ制作者自身を、ある意味、自己否定しているというか・・・ 自己批評を自ら下すといった " メタフィクション的 " な意味合いを、朝岡を通して語らせているところが非常に興味深い。

さて、この朝岡の『 " マスメディア " から " パーソナルメディア " になっていく』という考え方は、もともと彼の頭の中にあったことかもしれない。しかし、そのことに確信を持てたのは、高村デスクが指摘するように " 百音という存在に出会った " ということが大きいのだろう。


『百音 : 「天気予報は、全国の人のため」それも分ります。でも・・・ 私が " この仕事で守りたい " のは、この幼馴染みたいな " 自分の大切な人たち " なんです。

第10週・50話「気象予報は誰のため?」より


* 『 私が " この仕事で守りたい " のは、この幼馴染みたいな " 自分の大切な人たち " なんです』と百音が朝岡に語るカット。この百音の心意気と " 真っ直ぐな目 " に、朝岡はこれからの時代は、『 " マスメディア " から " パーソナルメディア " になっていく』と確信したのではなかろうか
[第10週・50話「気象予報は誰のため?」より]


要するに、朝岡や高村デスクが " これからは確実にパーソナルメディアの時代になっていく " と机上のロジックでは分っていても・・・ " その実感 " が、今までは感じられていなかったわけだ。そして、" その感覚 " を有している百音を目の当たりにして、朝岡はようやく " これから自分がやるべきこと " に確信が持てたということなのだろう。しかし・・・ 高村デスクは、このように釘を刺す。


『高村 : 個人に特化した情報は、役に立つかもしれない。でも、危険よ? 全体が見えなくなる。九州の災害を北海道に住む人が心配して、心を痛める。そういう視点も必要でしょう? 』

第12週59話 より


*高村デスクは上手方向に向きながら、朝岡の考えに対して『 個人に特化した情報は、役に立つかもしれない。でも、危険よ? 全体が見えなくなる』と釘を挿す。登場人物が上手方向に向いているということは、" ネガティブ思考 " というものを表現しているため、これから朝岡が取り組もうとしていることに、手放しでは賛同できないということを表現している。青色の矢印は上手方向を指し示す [第12週59話 より]


このカットでは、高村デスクが上手方向に向きながら語っている。登場人物が上手方向に向いているということは、" ネガティブ思考 " というものを表現しているため、これから朝岡が取り組もうとしていることに、手放しでは賛同できないということを映像でも表現しているわけだ。

この高村デスクの考え方は、筆者も頷ける部分がある。狭く限定された情報は、たとえ正しい情報であっても、人々をミスリードしてしまう可能性を孕んでいる " 諸刃の剣 " なのだ。

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