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日本一のすき焼き図鑑 初刊

1月24日はすき焼きの日。

遡ること675年、天武天皇が発令した肉食禁止令。そこから、1200年の時を経て明治5年(1872)に、明治天皇が牛肉を食しました。そこから日本の牛肉文化が色づいてきたとされています。

とはいえ、家畜として有用であり、身近に存在した牛や馬などを全く食べていなかったわけではないようです。

なぜ牛肉をはじめ肉食が解禁されたか?

それは、欧米人と日本人の体格の違いに圧倒された明治前後の政府官僚たちが、これでは太刀打ちができないのではないか、という恐れからだったようです。当時の日本人男性の平均身長は150cm代と、現在の170cmからすると非常に小柄。

同じ人間なのに、なぜこんなに違うのか?
欧米人は何を食べているのか?

紐解いていくと、牛肉と牛乳。良質なタンパク質の摂取でした。学校給食で牛乳が必ず提供されるのもの、200年ほど続く欧米へのコンプレックスからだと思うと日本の執念深さには脱帽ものであります。

そして、文明開化とともにすき焼きが産声をあげたわけです。

さて、すき焼きは関西式と関東式があります。
関西式とは、醤油と砂糖(ザラメ)の焼きスタイル。
関東式とは、割り下で煮る牛鍋スタイル。

当時の関西では、実は家畜として飼っていた牛をこっそり食べる中で、鮮度の良い牛肉を美味しく食べるにはシンプルな調理と調味で食べるのが一番ということで、焼きスタイルが確立していったとされています。

一方、明治時代の関東では、牛肉は海外から輸入され決して質がいい状態のものではありませんでした。そこで、マスキングのために甘辛い味噌をベースに煮込んで食べていたようです。

現在では、関東式と関西式が混在し、一般的にはご家庭でのすき焼きといえば、関東式の牛鍋スタイルがメインストリームではないでしょうか?

もちろん優劣の話ではなく、文化を紐解いていくと今に至るまでの道筋がすこしクリアになり、未来への道も見えてくるように思います。

日本一のすき焼き師とは、何をもってなのか。それは、日本一すき焼きに精通し、すき焼きを提供している料理人、と定義しました。
つまり、日本一すき焼きに詳しい料理人です。
まだまだ道半ばではありますが、すき焼きがもつ尊さやすき焼きがつくる場の面白さに、日々魅了されております。

今日はすき焼きの誕生日。
そこで、すき焼き文化への敬意をはらって、日本一のすき焼き師を目指す折田拓哉が、昨年回ったすき焼きレストランを紹介します。


三重 松坂「牛銀」


和田金と二代巨頭である、牛銀本店へ。
昭和初期に建てられた91年目の建物は奥にに細長く、一番奥の部屋に案内いただいたが、かなりの広さがある建物。

焼いてくださったのは7年目の仲居さん。


1人前は15,400円(2023年訪問当時)。
松坂牛の厚めのロースに醤油に上白糖でシンプルに。うまいなぁ。

野菜の時だけ昆布だしを加えます。

〆はシンプルに伊勢茶。沁みました。

奈良 宇陀「うし源」

実は奈良、1人当たりの牛肉消費量が全国2位。奈良の牛肉の名産地、宇陀にある創業130年以上の精肉店「うし源」さんへ。

今回は、30日ほど熟成された大和榛原牛(やまとはいばらぎゅう)、サーロインとリブロースをすき焼きで食べ比べました。

1枚目は素材の良さを感じるために醤油、砂糖で味付けし、卵はなしと潔いスタイル。うまい。

醤油は地元の醤油に、お砂糖(おそらくグラニュー糖でしょう)。
※2024/1/27 訂正:医食同源。素材を活かすため1番純粋な砂糖″氷砂糖″とのことです。

サシの美しさ、厚みのある和牛香、なめらかな口当たり。
明らかな違いを感じました。

東京 白金高輪「今福」

入店すると熟成用のショーケースがお出迎え。テンションが上ります。

北海道産サーロインを2枚(おそらく60〜70gほど)
こちらも厚めで食べ応えがありますが、もちろん非常に柔らかい。



卵はメレンゲに卵黄を合わせてふわふわに。
お肉一枚ごとに卵を変えてくださります。

とにかく所作がうつくしい。
牛脂の引き方、焼き方、盛り付け、無駄がなく洗練されていました。
お味は甘すぎず、お肉の甘味や旨味を活かす割下スタイル。



デザートがかぼちゃアイス、和三盆パンナコッタ、シャーベットの3つから選べました。非常に美味しゅうございました。

京都 「三嶋亭」

念願叶って、行きたかった三嶋亭さんにも。
随所にこだわりがあり空間の風情もある店内。

熱源は電気、温まりすぎないため、鍋中がグツグツと詰まることはありません。
割下と上白糖でやさしい味わい。いちばん優しかったように思います。
割下は醤油ベースで少し味醂などが入っているのではないでしょうか。

牛肉は鹿児島県産36日熟成、脂身が綺麗に落とされ、さすが京都、洗練された顔つきでした。

野菜は京野菜の賀茂茄子や九条葱もあり、たっぷりいただけたことも、この上なき喜び。
卵は平飼いのもので、黄身の弾力がつよく、仲居さんからも強く紹介いただきました。大釜で炊いているというご飯は、硬めで美味しい。

やはり、名店のそれでした。

三重 伊賀「元祖伊賀肉 金谷」

番外編です。牛肉のおいしい食べ方とおすすめされた"バター焼き"を注文(8,712円)。



まず牛脂を溶かしバター投入、油にコクを追加。

シャトーブリアン、サーロイン、ヒレをいただきました。

ステーキと焼肉の間のような厚さで、すべて焼いてくださりました。
つけだれは大量の大根おろし、辛味はまったくなくて食べやすい。
ガーリックパウダー、七味、醤油で食べると、もちろんヘブンです。これはこれで美味しいなぁ。

厚めの肉のお肉をバターでさっと焼き、その後野菜を炒めて同じタレで。

ご飯は伊賀米、香の物は伊賀漬。生姜と紫蘇、しその実入りで清涼感があってこれがまためちゃくちゃ美味しい。味噌汁は白味噌です。

どのお肉も柔らかいですが、さすがのシャトーブリアンは飛び抜けた美味しさです。

ちなみに、シャトーブリアンとはヒレ肉の中でも特に肉質のよい真ん中の部分。ヒレ肉は一頭の中で3%、シャトーブリアンはその中でも600gほどしか取れない超希少部位とされています。

金谷さんは伊賀牛を提供していますが、元は但馬牛らしいです。

兵庫 芦屋「あしや竹園」

すき焼き 但馬牛のリブロース(11,000円)、サーロイン(15,000円)を注文。

まず、玉ねぎとネギを炒めて、香ばしさを肉に移すのが竹園流。
甘さ控えめの割下をベースにザラメを少しだけかけるスタイル。後入れで、コクを追加するのも特徴。

独自のスタイルにこだわっていて、この工夫が嬉しいものです。

そして、味変ですき焼きを楽しませていただきます。

①卵
②大根おろし、白だし、青のり※物は良くない
③すだち

最初は焼いてくださり、途中はこちらで仕上げる事が多いようです。すべての旨味を吸った白滝ですが、これがまた美味しい!
〆にはうどん。すだちを絞っても美味です。

デザートはメロン、いちごのゼリー寄せ。
自家製の紅茶付きでバニラとミントのフレーバーティー。
ちなみに、コーヒー、紅茶、ハーブティーから選べました。

あと、コロッケが有名で、近鉄百貨店さんなどにもあります。
そして、スタンダードなコロッケなのですが、じゃがいものマッシュ感と衣のコントラストがめちゃくちゃおいしい。ぜひ食べてみてください。

三重 伊勢 「豚捨別館 若柳」

伊勢牛(140g)のすき焼きを。
特選ロース(リブロース)とロースを食べ比べ。

熱源は炭火です。蓋をして着火します。風情があってアガります。

伊勢醤油と砂糖のみでザ・関西式。豚捨さんで11年はたらくとても親切な仲居さんが仕上げてくれました。
卵は提携している養鶏場から、おひつ入りのごはんとともに。



デザートはメロンか白玉ぜんざいを選べました。選べる嬉しさって大事。

京都 四条猪熊本店「モリタ屋」

明治2年から続く京都初の肉屋さんが経営するすき焼きレストランです。レストランをはじめたのは47年前とのこと。

とにかく厚さがあって大判ダイナミックなリブロース。
一番厚さがあって、一番しっかりとしたお味でした。うまい!
まずザラメを鍋に引き焼くスタイル、演出としても味わいとしても良きです。

ぼくは、ここでもち麩と出会いました。うまいね〜。
京都ではよく使われるらしいです。
もち麩とともに九条葱がしみしみで米騒動です。

すき焼きをはじめ、ガッツリした味わいが好きな方にぴったり。

大阪 道頓堀「はり重」

すき焼きは関東式の牛鍋スタイル。

肉は鹿児島産リブロースと赤身が一皿に盛られています。
火を入れすぎないことでお肉が柔らかく食べられる、という狙いがあるようでした。しゃぶしゃぶのような感覚も覚えて、勉強になります。

これははり重さん独自のスタイルで美味しいなぁ。
焼き手は20年越えのベテラン中居さんが最初の一枚目は焼いてくださり、そのあとはセルフで楽しめました。

さすがは商人の町・大阪の名店、店内繁盛でありました。

三重松坂「和田金」

さぁ、やってきました。松坂牛、西のすき焼きの大本命。泣く子も黙る和田金さん。

まず何より大きい!広い!和田金ビル!!

エントランスだけでもう1店舗出せるくらい広々

それではまずは前菜からいただきます。
前菜のすべてに肉を使用されています。

あらで取られたお出汁を生のお肉にかけて、しゃぶしゃぶスタイル。
ローストビーフ
あら、きのこのムース、おいしい。

すき焼きの前だからか、どの前菜もやさしいお味。

そうこうしていると、炭火が灯されてすき焼き開始です。せっかくですので松阪牛 65g×2枚 松 18,200円 竹 16,200円を。お肉のグレードで価格が変わります。すこし厚めで食べごたえあり!やっぱり松は素晴らしく、柔らかい。。

この炭火にしか出ない雰囲気、たまらない
シズル感がすごい

味付けはたまり醤油、上白糖、昆布だし。たまり醤油がもつ奥行き。これはこれでおいしいなぁ。味は濃すぎず、甘さも程よい。

そして、和田金さんはごはん、そして卵もおかわり自由!食べすぎました。

甘味は、炭の残り火で焼き上げた焼き餅とあんこに、そしてメロン。たっぷり大満足です。


2023年は合計10店舗のすき焼き奉行に。
行けば行くほどに、スタイルの違いに、でも間違いない美味しさに心が躍る国民食。王者の貫禄です。

いつもありがとう、すき焼き。
そして、誕生日おめでとう。
今歳もよろしくお願いします。

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