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Coffee story 番外編【ホットココア】

【Mr.ココアマン】②
彼女に初めて会ったのは、まだ肌寒い頃だった。ある日いきなり俺の前に現れた。俺に向かってやたらとカメラのシャッターを切ってきたのだ。
初めて交わした言葉や景色は忘れてしまったが、彼女が銀色に包まれていたことだけはハッキリと覚えている。
いきなり現れていきなり消えてしまった。蜃気楼のような女だった。

消えたのは2回。

1回目はいなくなってしばらくして現れた。ある日、俺がいつものように歌っていたら、急に雨が降り出し、せっかく集まっていた客も四方八方に散らばって行った。
俺は今日はもうダメだなと下を向いて片付けに取り掛かったその時だった。

まさかと思って顔を上げると彼女がいた。沙耶だった。
沙耶は相変わらず強引に俺を自分のリズムに引っ張りこんでいく。俺のギターをさっさと片付けてそのまま何処かに連れて行こうとした。雨の中 時々振り向いて笑う沙耶の後をついて行くしかなかった。

そうしてたどり着いたのが今は俺もお世話になっている「ギャラリーSoleil」
冷えた体に沙耶が入れてくれたホットココアがやけに美味くて今では、ギターを弾きに行く前にあの店にココアを飲みに行っている。
オーナーの光一さんとは、すっかり意気投合して一週間の半分は一緒に過ごしている。
最近はギャラリーの片隅でライブをさせてもらうようになりそこそこ客も入るようになってきた。

まだ戻らない沙耶が銀色のベールを引きずっていつかあのドアから入ってくるんじゃないかと半分思いながらギターを弾いている。

彼女と出会ったのが俺がギターを弾くまさにその時だったからだ。
ココアを飲み続けるのもココアが、沙耶から流し込まれた麻薬なのだと思う。飲み続けることで沙耶と繋がっているような気がしているからだ。

だけど、
未だに
沙耶は
現れていない。

今夜もここ「ギャラリーSoleil」で歌を歌うことになっている。
客が来るまでまだ時間があるので一人でセッティングをしてギターの調子を試し始めていた。

#小説 #ミュージシャン #ココア

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