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Silver Story #64


ほんの数ヶ月離れただけなのにまるで違う街に来たような、そう、浦島太郎のような気分で慣れていたはずのこの街を歩いている。 

 新しいビルや無くなってしまった店、歩いている人のファッション。何よりも肌に感じるこの空気。季節もツーシーズンくらい変わったように感じる。それくらい肌に感じる空気感がバリとここじゃ違っている。

 大都会の匂い。 

 体の中にはまだあの大自然の中の匂いが残っている。 そのうちそれも消えてしまうのだろう。それって都会に染まっていくということだろう。

 ほんとはこっちが本当の自分の生活なのに。 

 ドラマが終わってお気に入りの俳優が見れなくなったり途中で死んでしまったりすると〇〇ロスというのがよく言われるが、まさしく今の私が、その〇〇ロス状態。 

 ほんの数時間前にいたあのバリの大自然やベタベタな空気が恋しくてたまらない。 

 バリロス! なんが響きがお洒落だ。 心の中のつぶやきにひとりウケてしまった。

 そんな私を見逃さなかったのが アリサちゃん。                                              「サヤ?」私の顔を下からの覗き込むようにして笑った。 バツが悪かったので上からアリサちゃんを包み込むように肩を抱いた。

 ユキさんは微笑んで私たちを見ていた。そして落ち着いた声で聞いてきた。 「サヤ、オウチ イキマスカ? ソコニ パパ イマスカ?」 

 「はい。居ますよ。心の準備はいいですか?」 

 ユキさんは自分の胸をトントンと拳で叩いて親指を立てて頷いた。 そして、柔らかい顔からキリッと引き締まった顔に変わっていた。

 「もうすぐ着きますよ。 ギャラリーSOLEIL。」

 私の家 マイホーム。 どんな風に変わっているのか 私自身も心の準備なのかドキドキしてきた。 見慣れた道がとても新鮮に感じた。まるで見知らぬ街の路地に迷い込んだ時のようにキョロキョロとしながら角を曲がった。大通りから 細い路地に入って行ったところに その場所はある。

 我が家。

馴染みの建物。 『ギャラリー SOLEIL』 その場所の名前。                               

大きな一枚ガラスの扉。ショーウインドウ。 その中には当たり一面のひまわりが太陽の方を向いて立ち並んでいる大きな油絵がかかっていた。 私もだがまだ売れてないアーティストの作品を展示してくれ、応援してくれる頼れるオーナー光一さんのギャラリー。 2人を合わせてどんな展開になるのか本当にドキドキする。 

 カメラ!カメラで再会の瞬間を撮らないといけなかった。 忘れないようにバックから出して首から下げておくことにした。

 #小説 #カメラマンの話 #バリの話

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