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silver story #57

以前のカメラは、作品が出来上がるまでかなりの時間と労力とお金が必要だった。
フィルムに現像液 、暗室まで必要だったが今は、本当に簡単に作品までたどりつく。
しかも気にいった作品が撮れるまで、何百回も連写できるし加工もできる。デジカメになって本当に助かる。
だけど、やはりネガでしっかり作品と向き合っていた頃が、私は好きかもしれない。
どんな風に生まれてくるか現像液から取り上げるあの瞬間が、忘れられないのも確かだ。
まるで助産師さんの気分だ。生まれてくる子ども(写真)を取り上げる瞬間は快感と言ってもいい。

そういえばギャラリー ソレイユに飾ったあの作品たちは今頃どうなっているのだろう。
まあ、片付けられたにしても光一さんはちゃんと保管してくれているだろう。
あ、それからあの人に渡してくれたのだろうか?
私がこっちに来る前に出会ったあの人に。
夕焼けの中に溶け込んだキレイなシルエットに思わずシャッターを押したあの瞬間を彼に見てもらえたんだろうか?
お祀りの間に夢か幻かわからないフワフワした空間に彼が現れた時、もう一度彼に会いたい、会わなければとすごく思った。いや、思い出したというほうが正しい。
今、またカメラの中の彼を見直して日本の私の部屋の空気や匂い、居心地の良さを思い出してきた。
連絡先も交わしてない彼に、必ず会えるという変な自信がむくむくと湧いてきた。

バリの神様の後ろ盾があるんだから(笑)きっと会えるはずだ。

「沙耶 できましたよ。
お腹すいたでしょう?もうすぐ帰るあなたにしっかりここの料理を食べてもらいたいです。」

「ありがとうございます。私ももうバリの、お母様のお料理の味が大好きでずっと居たいと思いましたよ。」

「まあ、ありがとう。沙耶。今後はユキに日本の味をたくさん教えてくださいね。ユキをお願いしますね。」

「はい。わかりました。」

料理を介してユキさんへ日本を感じてもらう使命をお母様から受けてしまった。
初めての日本食は何がいいだろうかなどと日本の料理を頭に思い浮かべていたが、鼻から脳に突き刺さるほど強力なバリ料理の香りで頭に浮かんできた和食が、パチンパチンと弾けていった。

今日の料理は、バリのお餅でご飯の代わりの"ロントン"、長いインゲンとココナッツ・フレークをスパイスでミックスしたバリの伝統料理の"バリニーズ・サラダ"。日本の焼き鳥のような"サテ アヤム"
もち米で作った団子をパームシュガーで煮込んだデザートの"バジョー・バトゥン"

これぞバリ料理というラインナップに思わずカメラを向けてパシャリ。料理の向こうに並ぶお二人のとびきりの笑顔もしっかりカメラに納めた。

帰って光一さんにパネルにして渡そうかなどと思いながら料理に箸が進んでいった。

#小説 #バリの話 #あるカメラマンの話 #バリの料理

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