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Silver Story #67

いつのまにか光一さんがギャラリーに戻って来ていたのだ。

「ユキさん?居ますか?二人が見えていますか?  あ!」

そう言い終わる前に私の右手をギュッと握るあのゴツゴツした手の温もりを感じた。

「ここに居ます。同じ場所に居ます。」

よかった。私だけ違う空間に飛ばされたかと思ったから、今ここに居て同じものが見えているのだと思うと胸が熱くなって来た。

それは、ユキさんのルーツだから
二人が出会って愛し合い、そしてユキさんがこの世に生まれて来たのだから。
ユキさんの手は力強く私の手を握り締めてきて言葉は、発してなくても感じることができる。どんなに胸が熱くなっているか、高鳴っているのか。

二人の声は、聞こえない。
しっかりと抱き合っているから、もしかしたら言葉なんて出ていないのかもしれない。

何十年もの間お互いに思い合って、忘れないで、もしかしたら苦しみ続けていたのかもしれないから私たちでは、計り知れない思いを二人で共有しているのだろうと思う。


「アリーシャ、本当にキミなのか?まさか本当にこんなことがあるのだろうか!僕は夢の中なのか?」

「光一さん。これは夢であって夢ではないのですよ。後でわかりますよ。
本当にあなたに会えるなんて思わなかった。沙耶が私たちをまた会わせてくれました。」

「本当に、、。ああ、、、。言葉にならないよ。アリーシャ。あの時、僕は、本当にすまなかった。あの時は、ああするしか、、。」

「何も言わないでください。全部聞きました。彼から。はじめ驚いてどうしてなのと思ったけど、仕方なかったのよね。でも、ユキがお腹にいると分かった時は、どんなにあなたに会いたかったことか。
あなたに伝えたかったことか!」

「"ユキ"。そうか"ユキ"なのか。
君が付けたのかい?
ステキな名前だね。そうか、あの日の約束を、キミは……。うっ、うっ、うっ……。」

「泣かないで、コウイチ。
あの夜、あなたが私に見せたいって言っていた雪をずっと思っていたから生まれてきたあの子に"ユキ"と名付けたの。
あの子には日本人の、あなたの血が入っているってことを伝えたくて。

あの人には感謝しているの。私の全てを受け入れて、あなたとの事も受け入れてくれて、ユキを大切に育ててくれたから。

でも………、あなたのことは……
忘れることはできなかった。
どんなに幸せでも…。

沙耶に会えた時は本当に驚いたわ。あなたに初めてあった時と同じだったから。それが、ユキだったから、ユキが怪我した沙耶を連れてきたから。本当に巡り合わせだと思ったの。

沙耶のカメラの中であなたを見せられた時の私の驚きと感情は、想像つきますか?」

「行方不明になっていた沙耶が生きていて連絡をしてきた時は、すごく驚いてホッとしたけどその時、君の名前を聞いて心臓が止まるくらい驚いたんだよ。それと同時に胸が苦しくなった。あの日のことが蘇って。」

「もう、苦しまないで。私はあなたが生きていてくれたことに喜びと感謝を持ちました。本当に良かったです。」

「今日まさか 君と沙耶がしかもあの子達にも会えるなんて。本当に、信じられない!ほん、、とうに、ぅぅぅぅ、、、。」

「泣かないで、嬉しいことだから。
コウイチ あまり時間がないの。今、私の魂をアリサに渡してあるからこうしているけど彼女の体がそろそろ限界だからもう戻らないと。
本当にあなたに会えてよかった。
また、必ず会いましょう。
コウイチ。ユキをよろしくおねがい、、、。」

「アリーシャ!」

「ああ!アリサ!」
「アリサちゃん!」

「沙耶、ユキ。大丈夫かなのか?この子がアリサか? お前の娘のアリサなのか?

とにかくあそこに寝かさせよう。」

白い服を着て横たわるアリサちゃんをみんなでソファーへ運んで行った。
さっき見たお母様は、魂だけここに飛ばしてきたのだろうか?
アリサちゃんの体を借りて現れたのだろうか?


目を閉じたままのアリサちゃんが目覚めるのを三人で見守るしかなかった。

#小説 #バリの話 #あるカメラマンの話

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