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coffee story エピソード番外編【ホットココア】

WEDGEWOOD フェスティビティ ブルー

通りに面したガラスを通して夕方になるといい具合の夕陽が差し込んでくる。
1日中太陽を感じる向きにある「カフェReQ」にいると、時間帯で客層が分かれているのが分かる。取り分け夕方だけやって来るお客さんは、何やら趣きのある人が多い。
昼のランチの客と違い、家に帰る前に一人の時間を楽しむために一杯の好きな飲み物で1日の終わりを迎える準備をしている。そんな人達が集まる時間帯のように思える。

私自身も、夜のバイト君たちが来るまでほどほどの客とまったりとした時を過ごしている。この時間までに片付けや、仕込みをテキパキと済ませて夕方仕事を終える準備の時間にしている。
夕焼けのオレンジに包まれた客席を簡単に掃除しながら「あー。今日も終わった。」としみじみ感じる時間なのだ。

そんな時に訪れる男の人がいる。
黒い大きなギターケースを抱えてやって来るミュージシャンの人でその見た感じに似合わずいつもホットココアをする注文してくるのだ。
一度だけココアがなくてカフェモカにしてもらったことがあるが、その時話してわかったことがここでココアを飲んでから路上で歌を歌っているらしい。いわゆる路上ライブ。あのゆずやコブクロや今TVでもよく見る彼らも始まりは路上ライブからと、何かの番組で見たことがある。
このココアマンも、いつかそうなるのを夢見てやっているのだろうかと思っていたがどうやら違うらしい。
彼は決まった場所でギターを弾きながら歌うらしいが、客が居ようといまいと関係なく歌うらしい。
自分の心の中にある思いやその時の感情を、日記のようにその場所に捨てていると、照れながらボソボソと話してくれた。感情を捨てるなんて表現、さすがミュージシャンだと感心したのだった。

今日も彼はココアを飲んで決まった彼の場所へ向かうのだろう。
溜まっているものを捨てに行くのだろう。

【M r.ココアマン】①

柄にもなくカフェとか行ってホットココアを飲んでいる。

場所は、通りに面してガラス張りの喫茶店「カフェRe-Q」という店。
随分前にやけに夕焼けが綺麗だった時、通りかかって見上げるとそこがまるでオレンジ色の宝石のように光っていて惹きつけられ、思わず立ち寄ってしまった。

中に入るとビートルズが流れていて一瞬で好きな空間だと感じた。
テイクアウト式の喫茶店でいちいち席に店員が来るタイプじゃないのも気に入った。
明るそうな店員が一人で客対応をしていた。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」
この時だけ店員と話せばあとは好きにしていいから俺はちょっとだけ頑張った。

「ココア、ホットココア。」
「アイスもありますがホットでよろしいですか?」
「ホットで。」
「少しお時間いただきますのでお席でお待ちください。番号でお呼びいたします。ホットココア500円です。」
「ありがとう。」

やっと解放されて席に向かった。
夕焼けが見えるガラス張りの道路沿いの一番角の席に座ってみた。

下には帰宅途中の人々や車がそれぞれ同じ流れをしていた。夕日はもう西の果てに動いていてかろうじてそこから見えていたが、周りがだんだん紫色に近づくグラテーションになっていてそれはそれで綺麗だった。

ふっ。ホットココアか。
あの店員、一瞬驚いた顔してたな。こんな俺が口にするものと思わなかったのだろう。きっとコーヒーかエスプレッソ、もしくはビールなんかを想像していたに違いない。
俺の風貌からさしてホットココアはないよね的な表情だった。
俺もなんでココアにしたかよくわからなかったが、多分あの日彼女から誘われてあの場所に連れていかれ、出されて飲んだホットココアがやけに口に残っていたからだと思う。
雨に濡れて冷えたカラダに甘くて熱いココアが染み込んでいくのが忘れられなかったから。
いや、彼女を忘れられないからだ。

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#ストリートミュージシャン

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