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silver story #60

空港に着くとあっという間に搭乗の時間になり、あと8時間で日本に戻るのかと思うとなんとも言えない感じがしていた。 お母様としっかりと抱き合い言葉少なく別れていたユキさん。 サリナちゃんは、とにかくはしゃいでいたが、お母様から何かを言われてギュッと抱きついていた。 私は、昨日の夜お母様とゆっくり二人きりの時間を与えてもらったから、ただお礼を繰り返し、きっと必ず戻ってくると約束して別れた。 もう涙を見せず笑顔で手を振ってお母様と別れてゲートに進んで行った。 「お母様 、必ずまた来ます。」 振り返ってお母様に声に出さずに口を動かした。 お母様は、優しい笑顔で大きく手を振ってくれた。 この瞬間を日本に持って帰ろうと思い咄嗟にスマホのカメラでお母様を撮った。 空港でひとしきりはしゃいで機内でキョロキョロしながら席に着いたサリナちゃんは、飛行機が飛び立つとすぐに眠ってしまった。 ユキさんも初めて乗る飛行機に気疲れしたのかしばらくして眠ってしまった。 寄り添って眠る二人の寝顔を眺めながら私のこの旅はこの二人を日本に連れて行くためのものだったのかもしれないと思い始めていた。 シートに深く座って深呼吸をするとあのジメジメした空気ではなく程よい空調の中にいると思うと、ああ、もうあの生活が終わったんだ。とつくづく思った。 変わりゆく地形を雲の切れ間から眺めながらいつのまにか私も眠りについていた。 次に眼が覚めるともう日本なのかもなどと、うっすら考えながら。 #小説 #あるカメラマンの話 #バリの話

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