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東春秋の存在から葦原先生の頭の中を覗き見る

25歳大学院生B級6位、東春秋。


東春秋は、ワールドトリガー第4巻に初登場したキャラだ。
34話で顔見せして、37話でプロフィールが出ている。

このキャラを初めて見た自分の感想は
「戦闘はできないが、教えるのはうまいタイプのキャラだな」
である。過去に戻れるならこんな事を考えた自分を張り倒してあげたい。

しかしだ、このときの原作本編では、東春秋初登場前の段階ですでに10代のキャラがA級でバリバリ活躍している姿が描写されまくっており、そこにきて、「B級」「25歳」「大学院生」「指導係」「ロン毛」とくれば、「戦闘での才能は花開かなかったが、この穏やかな性格と大学院まで行く頭の良さで、人に教える側に転向したんだな」と東春秋ファン全員を敵に回す圧倒的なカンの悪さを発揮してしまうのも無理はないというものだ。

その後大規模侵攻編に突入するのだが、ここで東春秋は意外な(このときの自分にとってはという意味である。)活躍を見せる。
B級をまとめ上げ、雑魚ネイバーを退け、更にはA級隊員3人をも指揮して人型ネイバーで超圧倒的な火力を有するランバネインすら退けることに成功したのである。

ここで勘のいい読者であれば、「東さんは間違いなく強キャラ」と認定しつつあったのかもしれないが、自分の認識は「東春秋、さすがだいがくいんせい。」である。

しかし、B級ランク戦で、その認識が強烈に打ち砕かれることとなった。
なんと、このB級25歳大学院生は、かつてのA級1位部隊を率いた「最初のスナイパー」だったのだと、ここで明かされる。しかも修を壁越しにぶち抜くという超絶スキル持ちであることも併せて描写されてしまえば、こちらも納得するほかなくなる。

そう、東春秋は、B級25歳大学院生で、かつ、戦闘能力もA級だったのである。ここまでそのような可能性を一切考慮していなかった私は、東春秋がA級だったという情報に接した衝撃と、そういえば25歳って自分よりも年下だなという衝撃を思い出し、Lが初めて死神を見たときのようなリアクションをとってしまったのである。

ここまで東春秋という男は、少なくとも自分のような勘の悪い読者にとっては、(戦闘ランクは)B級であるが、戦闘以外の部分に秀でていることによってボーダーに重宝されている存在だ。と受け取れるように描写されていた。

しかし、

  • スナイパーの指導役

  • 大規模侵攻に対する指揮

  • 小荒井と奥寺に対する指導者としての立場

最初から描写されてきた東春秋の情報は、どれもこれも「元A級1位」であるほうが、「B級25歳大学院生」であることよりも納得の行く状況ばかりである。

つまり、葦原先生は、初めから東春秋を元A級1位のキャラとして扱っていたのだとここで気付かされるのである。


葦原先生の頭の中を覗き見る

さて、前置きが長くなったが、葦原先生の頭の中を覗き見るということはどういうことか。

東春秋は、ワールドトリガー世界においては初めから元A級1位である
ということである。葦原先生の頭の中には、ワールドトリガー世界が存在し、実際にこの現実世界とは別の物語が動いているということである。

どういうことか?

あの瞬間まで、誰一人として、登場キャラクターは、「東春秋が、元A級1位を率いた最初のスナイパーである」というセリフを口にしなかったことを思い出して欲しい

ドラクエをプレイしていると、街についたときに最初に話しかけるNPCが、ここは○○の町よ、と紹介してくれるというステレオタイプな仕掛けがある。

これは、ゲームをプレイしてその場所に初めて到着した者にとっては、至極わかりやすく違和感のない仕掛けだ。

しかし、現実世界にこのような人間は、基本的には存在しない。そこに入ってきた者が一度もそこを訪れたことがないかどうかなどわからない。入ってきた者にとってはその町は新しい情報だが、そこにいる者にとっては、その町がどういった場所なのか誰かに吹聴して回るような情報ではない。

翻って、ワールドトリガーのストーリーを語るのであれば、東春秋の情報は、読み手にとっては新情報であるから、出さざるをえない。

しかし、ワールドトリガー世界が葦原先生の頭の中に存在し、勝手に物語を紡いでいるとすれば、その世界に存在するキャラたちは、それを誰彼構わず話題に出すことはない。

迅が三輪秀次に対して、風刃候補者の名前を告げている場面で、迅は読者が全くわからない人間の名前も、あだ名や名前だけで告げている。迅も三輪も、それらが誰かは分かっているのであり、それ以上の言及をする必然性が無かった。

すなわち、元A級1位という情報も、あの時間軸におけるワールドトリガー世界においては、これを出す必然性もなければ、出せる状況にもなかったということである。

逆に、B級、25歳、大学院生、指導者としての立場、ランバネイン戦の指揮能力、これらはすべてこの時間軸の中で必要な情報だから提供されていて、それでいて元A級1位という情報とも矛盾しない。当然である。ワールドトリガー世界においては初めから東春秋は元A級1位なのだから

このように、葦原先生は、ワールドトリガー世界を実際存在するものとして把握している。

「そんなことはデータブックを見ればわかるし、設定ができているんだから当たり前だろう」と思った方は甘い

設定は作れば必ず語りたくなる。世界観やキャラの深掘りなど、作れば作るほど、物語と関係のない場所で語りたくなってしまうのが、作品の常である。逆に設定が練られていなければ当然後付との誹りは免れないだろう。

物語上必然性のある情報と、必然性のない情報を選りわけ、東春秋の印象を匠にコントロールできたのは、世界が動いているから。

我々は、葦原先生というカメラマン兼映画監督を通して、動くワールドトリガー世界の一部を切り取って、俯瞰で見ているに過ぎないのである。


葦原先生の凄み

葦原先生はジャンプの賞レースに応募する作家に向けて、必要のない設定を出さないように、と、アドバイスを書いている。

葦原先生は、ひとつの世界を作り上げ、設定を練り上げ、時間軸まで把握している。その世界の流れに従えば、情報が出てくるタイミングは自ずと決まってくるようにも思える。

しかし、世界を作り上げただけでは、ワールドトリガーという作品にはならないということをも葦原先生は理解している。

ワールドトリガーという作品を成立させるために、葦原先生は、その作品に適した情報の出し方ができるよう、人物たちを動かしている。あくまでも、その世界の流れに矛盾しないように。

そして、東春秋に関する重要かつ衝撃的な情報は、東春秋登場時点においては、「まだ出す必要のない情報」に設定したのである。いつか修と対峙するそのときまで、東春秋は、勘の悪い筆者にとっては修にとっては25歳B級大学院生なのである。

つまり、世界を作り上げた上で、登場キャラや世界観に説得力を持たせるだけではなく、物語の進行する順番=情報を出す順番を、巧みにコントロールし、それによって物語としての面白さを獲得しているのである。これが、ただ映像を撮るというカメラマンではなく映画監督と表現した部分にあたる。

このような、超化け物じみた作品の制作手法をやってのけているのが葦原先生であり、それを、リアルタイムで目の当たりにしているのが我々なのである。


終わりに

東春秋が最初のスナイパーだと明かされてから、ずっと考えていたことを、ようやく文章化できた。

東春秋だけで葦原先生の能力を一般化し過ぎではないか?と言われればそうかもしれない。

しかし、例えば後から出てきたキャラクターたち、例えば草壁隊などのキャラたちなどは、「名前は出ているが、存在が隠されている」、というような場合が多かった。

これに対して、東春秋は、序盤からガッツリ登場していたにもかかわらず、その立場があとから明かされたという、象徴的なキャラクターであるといえば、異論がある方は少ないのではないだろうか。

葦原先生の恐ろしいその能力、そこから生み出される最高の物語をリアルタイムで経験している幸せに感謝しながらこの稿を締めたいと思う。


ちなみに

これが私の最初の記事だが、ワールドトリガーに関する記事はしばらく書く予定はない。なんとなく日々感じたことを記載していくつもりである。


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