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フランスの結婚 

・フランスの結婚観 


日本との結婚観との違いでよく比較されるのは、やっぱりフランスでしょう。 フランスでは「結婚することだけが幸せな生き方じゃない」という考え方がごくごく普通で、「家族」 の在り方も多様化しています。「ケ・セラ・セラ(なるようになるさ)」の元祖、フランスです。 

ですが実は堅実な結婚観があります。イメージだけでフランスは語れません。 

フランス人カップルの場合、法律上の婚姻を交わすいわゆる法律婚をするのか、同棲するいわゆる事実婚をするのか、もうひとつ「PACS(パックス)」と言われる形態を選ぶことが出来ます。 パックスは聞き慣れない言葉ですが、同棲と婚姻のいいとこどりをした制度で、裁判所公認の同 棲と言うことができ、1999年に出来ました。 

そもそもパックスは同性カップルのために作られたと言われていますが、いまでは男女でも使われています。税制や相続では法律婚のカップルとほぼ同等の権利が認められていながら、別れたい場合の契約破棄は、どちらか一方からの通告のみでOKという気軽さがウケています。

フランスでは法律婚を解消したい場合は、日本のような協議離婚(話し合いだけで離婚を決めるもの)が出来ず、必ず裁判にかけなければならないので、その手間と費用を考えると、PACSを選ぶカップルが多いのも分かります。 

こどもの権利はどうなるかというと、父親の認知があれば、両親がPACSだろうと同棲だろうと、法律婚のカップルと何ら変わりありません。これは素晴らしいですね。 

ここまで読むとPACSを選ぶカップルが100%なのかと思いきや、そんなことはありません。2011 年のフランスでの国勢調査によるカップルの形態は、法律婚:73.1%、同棲婚:22.6%、 PACS4.3%と圧倒的に法律婚が多いのです。 

PACSの歴史がまだ浅いことも少ない理由として考えられますが、法律婚をするまでの繋ぎとしてPACSを利用することが多く、結婚した時にPACSを解消するケースが多いのではないか、と分析されています。 

事実婚を選ぶカップルも多いですが、これは法律の束縛により自由が損なわれることに抵抗を感じる方が多いようです。法律婚と事実婚を相反するものとして捉えているために、事実婚を法律婚の前段階と考えないカップルも存在しています。 

事実婚やPACSのカップルに生まれたこどもは「婚外子(こんがいし)」となります。その際は、両親が法律婚をすれば婚内子(こんないし)になるわけで、婚外子もステップのひとつに過ぎない、 と考えるフランス人にとっては、大した問題ではないと言えます。 

こども関連の公的支援は「その子の親」だから受け取れるものであり、親が結婚していようがしていまいが関係ありません。親権は両親の間柄を問わず「共同」が原則で、嫡出子(ちゃくしゅつし。正式に婚姻している夫婦間に生まれたこども)なのか、非嫡出子(正式に婚姻していない二人の間に生まれたこども)の違いもないのです。 

フランスの結婚が「してもしなくてもいい」結婚制度なのは、行政面や社会面での結婚による影響の少なさにあります。 

例えばフランスには日本のような戸籍制度がありません。婚姻夫婦はそれぞれ「生まれた時の姓名」を維持して、新しい世帯を「AさんとBさんが横並びする共同体」として構成します。配偶者の姓を名乗ることももちろん出来ますがあくまで「通称」で、公的書類の姓名は別途改名の手続きを 踏まない限りは、一生生まれた時のままです。その世帯に生まれたこどもは、両親のどちらか、も しくは両方の姓を組み合わせた姓を名乗ります。 

また公的な身分上、配偶者間に「扶養ー被扶養」の力関係が存在しません。これが最高にいいです。対等で素晴らしいと思います。片方に職があってもなくても、二人の所得にどれだけ差が あっても、世帯所得は単純に合算し、頭数とセットで税申告をします。

所得税控除の有無や負担額は、「その頭数の世帯で、どれだけの収入があるか」によって決まり、頭数が多いほど税額が下がる仕組みになっています。画期的です! 

結婚制度のあらゆる面で、「配偶者Aと配偶者Bの違い」がありません。日本の結婚後の改姓の ように、どちらかがどちらかに合わせて変えるという行政上の必要が存在しません。 

また日本の税制面では、頭数だけではなくどちらかの収入が低くなって初めてお得感が出ること があります。「お得感」は大事です。大変なだけじゃ結婚しようなんて誰が思いますか。よくいまの 日本で結婚制度が成り立ってるなあと思います。国民性ありきではやっていけない時代がすでに 来ています。 

結婚による行政上の変化がないということは、働き方や生き方その生活全般における影響も、ゼ ロです。 

そんなフランスですが、かつては「結婚は女性を男性に従属させるもの」という概念が横行してい た時代がありました。そうです、最初からフランスは自由なんかじゃなかったのです。



1804年成立のナポレオン1世のフランス民法典のことです。
いまから220年近く前の話ですね。結婚を規定する第213条にこうあったのです。
 
“夫は妻を保護し、妻は夫に従わねばならない”

↑ は?!信じられません。 自由・平等・友愛の国フランスとは思えない文言です。この法律では、女性は結婚前は「父親」 に、結婚後は「夫」に従い、未成年者・犯罪者と同じく「法的能力を持たない者」(第1124条)とされ ていました。かつての日本でも聞いたことのある文章です。参政権も財産所有権もなく、就業や 給与所得にも夫の許可が必要で、なんと親権は「父親」にしかありませんでした。わお。 

19世紀の後半、ヨーロッパ各地で女性解放運動が徐々に高まっていった頃から、状況が変わってきました。第一次世界大戦のあおりで女性の「労働力」が必要とされ、同時に社会的発言力も高まっていきました。「女性も男性と同じ仕事ができる」という仕事における自信が女性たちを大きく変えました。 

その後、伝統的な女性のイメージは根本から否定され、女性の労働が当たり前となり、それまで ほとんど男子校だった大学において、女子の入学が認められ、男性中心だった学問に女性学 (フェミニズムから生まれた新しい学問領域)が導入されました。学問を作るなんて、そこまでしな くても、と一瞬思いますけど、そこまでしないとわからないのが男性諸君なのかも知れません。 

話は戻り、既婚女性の「法的な無能性」と書かれた部分は1938年法律から削除され、1944年には参政権も認められました。法律が変わっても家庭内の女性の位置づけはなかなか変わらず、 妻が夫の許可なく就業できるようになったのは1965年のことです。 

親権が両親に平等に認められるのも、母子家庭の婚外子差別が撤廃されたのは、1970年代に 入ってからでした。うむむ、すでに50年前には、母子家庭差別はなかったのですか…自分もこども時代は母子家庭だったのでわかりますが…フランスと比べてしまうと、日本はかなり遅れていますね。