煙が目にしみる。
1人喫茶店にて彼女を待つ。
店の外の帰路を急ぐサラリーマンたちを横目に1人タバコに火を灯す。
待ち合わせ時間はすでに1時間は過ぎたであろうが、
待たされるのは慣れている。
いつものことだ。
しかし今日はタバコも無くなってきたし、
コーヒーカップも空になりつつあるので今日こそ帰ろうとすると、
入り口のドアがカランカランカランと音を立てて開いた。
「ごめん、遅くなった。」
遅すぎて、自分が早く着き過ぎているのかと錯覚しそうになりながら
「今日こそ来ないかと思った。」
ポツリ呟いた。
「ま、来たからいいじゃん。どうせ今日紹介する人も時間にルーズな人だし。」
彼女はこの近所の本屋で働いている。そのルックスは本屋には相応しくないが、様々なジャンルの本に詳しく、彼女に進められる本にはハズレがない。彼女のルックスのおかげか、知識のおかげか、彼女には多くの常連が付いている。
僕もその1人なのかもしれないが。
また彼女は様々なジャンルに詳しいせいなのか、常連には癖の強い人が多い。そういった人たちの話を散々聞かされているのだが、その中でも、この近所に住んでいるジャズピア二ストのおじさんがどうしても気になった。最近、仕事終わりにジャズを聴きながらの晩酌にハマっている僕にとって、ジャズに入門の足掛かりになると思ったからだ。
「その人、二駅先の駅前でバーやってるから行ってみようよ、開いてるかわからないけど。」
「開いてるかわからないけど?」
「あんまり、儲けようとしてないみたいだし、休みも不定期だし…、ま、行ってみようよ」
そんな調子でお店成り立つのかなぁとか色々考えながら
彼女に連れられて喫茶店を出た。
「来た時は明るかったんだけどな...」
嫌みたらしく呟いてみた。
「一杯奢るから、ね?」
いつも通りの返しが返ってきた。
「今日、会う人ってどんな感じの人なの?」
ぶっきらぼうに返した。
「不思議な人だよ。」
「不思議?」
「うん、音楽と芸術以外に興味がないというか、芸術家気質というか…、あ、お酒とタバコとコーヒーは好きみたいよ」
絵にかいたような芸術家だなぁと思いながらこの後電車に乗って、彼女とは他愛のないいろんな話をしたと思う。
あまり覚えてないのは、恐らく、この後に出会ったおじさんの印象が強過ぎたからに違いあるまい。
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