「ラティナの聖域」

「車は走る」
 1
走っていく。
車の窓の外には、移り変わっていく日常がある。
ダナーは曲を聴いている。
ウィンカーがカチカチとなり、響き渡る交響曲。
「シューベルトの未完成」
ラティナは助手席でタバコを吸っている。
《スターロスト》
 ダナーが言う。
「俺にも一本くれ」
「いいよ」
ラティナがタバコの箱をトントン叩き、一本さしだす。日の丸のような赤い印に、白いクロスがかさなる。
 ダナーがタバコをくわえて、ラティナがマッチに火を点ける。
 シュポッという音とともに、火が点く。
 窓を少し開けた。
 風が車内に流れ込んで、タバコの煙が、揺れた。
 ダナーはサングラスを外した。
「何か」が道を横切った。
 車を止めた。ブレーキの音とともに、「何か」が反応した。
「ねえ、ダナー!」
 とラティナが手で制した。
 車から降りた。
 ダナーが「何か」に寄っていく。
 右の脇腹に刺し傷のようなものがある。
「そして、長い髪、乱れた黄金の神」
 とラティナが反射的に言った。
 それも、大きな声で。
 ダナーが銃を抜いた。
 銃口を向ける。照準はあっている。
 発砲。
 すると「長い髪の乱れた黄金の神」は消えた。
 確認した。
 ダナーのはなった弾丸は、確かに「何か」の額をを貫いた。


  浮かれたように、車内で騒ぐ。
タクは、車のハンドルを握り、助手席にはルリがいる。
後部座席には二人。
見ず知らずの青年と少女。
ヒッチハイクで拾った少女。
「なあ」
 と青年が、タクのシートを後ろから、蹴る。
 すると門が見えてくる。
 アーチの上に惑星のような丸く赤い印、その中央に白い十字架。
 ブレーキを踏む。
 一瞬、車内が、しんっと静まった。
 車のドアを開けた。
 青年と少女は、何かにおびえたように、その場から立ち去る。
「ねえ」
 とルリが訊いた。
「なんだよ」
 とタクはアクセルを一気に踏み込んだ。
 そのまま、門を潜り抜け、通り抜けた。



 

 



      

命令しまっす💛。おねがいしまっす💗。えらんでくだいさいっす。自由と孤独を。