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BATと考える、新カテゴリー啓発におけるPRの役割。

今回は、BATジャパン(以下BAT)の高木玄貴さん、柴田香名さん、プラップジャパンの船津和隆さんの対話をお届けします。テーマは、BATのWEB動画シリーズ「オーラルたばこで肩身広く行こう!」。プラップジャパンが企画・制作・PRまで一貫して携わった活動です。
オーラルたばこという新たなカテゴリーが社会に誤解なく受け入れられるための工夫や意識したポイントについて、マーケティング、広報、PR会社それぞれの立場からお話いただきました。

WEB動画シリーズ「オーラルたばこで肩身広く行こう!」

<対談メンバー紹介>

■高木 玄貴さん(BATジャパン ニューカテゴリー・ブランドアクティベーションエグゼクティブ)
2004年、新卒でBATジャパンに入社。これまでに営業、マーケティングを経験。マーケティングにおいては、2016年glo™の立ち上げメンバーとしてマーケティングコミュニケーション開発に携わり、2022年よりオーラルたばこ・VELOのブランドマーケティング、ソーシャルマーケティング、PRを担当している。

■柴田 香名さん(BATジャパン 広報・渉外本部 広報・サステナビリティマネージャー)
2017年、新卒で大手PR会社に入社。中国大手IT企業の広報に従事したほか、プランナーとして海外企業の100以上のコミュニケーション開発、およびソーシャルキャンペーン、中国・東南アジア向けのインバウンドプロモーションなどに携わり、金融・製薬・教育・不動産から食品・家電・アプリまで幅広く担当した。2021年よりBATジャパンに入社し、社外・社内の広報PRおよびサステナビリティ推進を担当している。

■船津 和隆さん(プラップジャパン)
2019年プラップジャパン入社。不動産、コンサルティングファーム、地方自治体、消費財など多種多様な業界のPRに幅広く関わる。2019年の入社当初からBATジャパンのPR業務を担当。リモートワークではオーラルたばこを愛用中。

——WEB動画シリーズはウェブサイト「AHA!チャンネル」で公開されています。そもそもこの「AHA!チャンネル」は、BATさんの中でどのような位置づけのサイトなのでしょうか。

高木:AHAという名前は、いわゆる“AHA体験”から名付けられました。物の見方をちょっと変えてひねってみると、それまでとは違う考えやアウトプットが結果としてついてくることに着想を得ています。

船津:BATさんのパーパスである「“A Better Tomorrow™ (より良い明日) ”を築くこと」の通り、喫煙者に対して紙巻たばこや加熱式たばことは異なる“新しい選択肢”を知ってもらうことを目的としているんですよね。

高木:ええ。当社では「VELO」というオーラルたばこを展開していて、会員向けのブランドサイトがあります。一方「AHA!チャンネル」は、ブランド紹介ではなくオーラルたばこというカテゴリーそのものを紹介するサイトです。まだ認知の低いオーラルたばこのベネフィットを知っていただくことを目的としている分、より多くの方に見ていただけるようなプラットフォームだと捉えています。

柴田:紙巻たばこはユーザーの方も多く、使い方やベネフィットはよく知られています。加熱式たばこもこの5-6年で市場が広がっていて、広報担当の私自身、メディアの方々と接している中で認知や理解は深まっていると感じています。
ただ、オーラルたばこについて記者の方にご説明差し上げると「このたばこは、いったい何?」と驚かれることが多くて。カテゴリーの認知がまだまだ高くないからこそ、VELOを社会に受け入れてもらうための啓発活動の必要性を、私もVELOのチームも感じていたんです。

——なるほど。新たなカテゴリーだからこそ「まずは知ってもらう」ことに主眼を置いて、プラップジャパンへPRのご依頼をされたのですね。

高木:はい、VELOの製品紹介よりも「オーラルたばこ」のカテゴリー啓発を目的に、ベネフィットを訴求するコンテンツを制作したいとご相談しました。

船津:新カテゴリーの啓発活動が本格始動するこのタイミングで、PRに関われることにとてもワクワクしました。一方、紙巻たばこや加熱式たばこを展開しているBATさんとして、既存のカテゴリーを否定しないよう、十分配慮する必要があるとも感じていました。
オーラルたばこが“新しい選択肢”であることを喫煙者に知ってもらうだけでなく、オーラルたばこを受け入れてもらえるようなアプローチが必要だと考えたんです。
チームで練ったアイデアをいくつかBATさんにご提案差し上げた中で、“肩身広く行こう!”というPRのコンセプトを気に入っていただいた形です。

柴田:別案では、“空いている手を他のことに使おう”というコンセプトもありました。紙巻たばこや加熱式たばこは必ず手を使うので、手がふさがれた状態となりますが、歯と歯茎の間に挟むオーラルたばこは、ハンズフリーで使えます。
この“両手が空くこと”に着想を得たアイデアも面白かったのですが、今回選ばせていただいたコンセプト“肩身広く行こう!”は、喫煙者の“肩身の狭さ”を着眼点としていて、よりエモーショナルなベネフィットが伝わると感じました。

船津:“肩身広く行こう!”というコンセプト検討時に着想を得たのは、ビッグショルダーファッションです。バブル全盛の80年代に大きな肩パットの洋服が大ブームとなりましたが、近頃のファッション業界でも再度注目されていますよね。中には、日常生活で着るのか?と思わず突っ込んでしまうような洋服もありますが、僕自身強く印象に残っていて。
「オーラルたばこを選ぶことで肩身が広くなる=肩幅を広げる」と定義し、突っ込みどころのある“肩幅の広いスーツ”を制作して、動画で伝えていきませんかとご提案したんです。

高木:ご提案時のストーリーの納得度が高くて。“肩幅の広いスーツ”に完全に心をもっていかれましたね。(笑)

船津:このアイデアだったらいけると確信していたので、嬉しいです。(笑)
“肩身広く行こう!”というコンセプトを確定した後、BATさんと一緒にPRプランや動画の詳細をブラッシュアップしていきました。

——完成したWEB動画は、思わずくすっと笑ってしまうような表現やタッチで、私自身楽しく視聴しました。ブランドの世界観が確立されている企業としては、思い切ったディレクションのように感じますが、制作にあたってどのような点を意識されていたのでしょうか。

高木:ブランドムービーのようなクールな映像を制作する選択肢ももちろんありましたが、それを見て今の喫煙者の方々が共感を抱くかというと少々疑問です。
それよりも普段自分の周りで起きていそうなシチュエーションや、興味を持ってもらえそうなテイストで仕上げることに重点を置きました。やっぱり見てくださる方の共感を得たいという狙いが大きかったですね。

船津:僕たちとしても、「肩身広く行きましょう」と企業メッセージをまっすぐ伝えるだけではどこまで受け入れられるのかという懸念があって。おしゃれさよりも共感性が大事だと思っていたんです。
ターゲットである喫煙者にとって、共感しやすい「肩身が狭いあるある」を交えながら、インパクトのある“肩幅の広いスーツ”を生かしてユーモラスなトンマナに仕立てる。こうすることでコミカル表現はありながらも、ベネフィットをポジティブに伝えることができたと感じています。

——せっかく動画を制作するなら、ブランディングにもつなげたいと欲張ってしまいがちですが、徹底して“共感”に集中するというお話は、他の企業さんにとってもヒントになると感じました。“共感性”を高めるために、他に工夫された点はありますか?

高木:やはり事前にリサーチをしたことが大きいと思います。
プラップさんからはニュースフックをつくるための意識調査を提案いただいていたのですが、調査は「世の中の喫煙者が本当に肩身の狭い思いをしているのか」というエビデンスを得るためでもあると考えていました。
実際に調査をしてみると、約9割の喫煙者が「周囲の健康への影響」や「他人に与えてしまうニオイ」「喫煙できる場所が少ない」などの理由から肩身の狭い思いをしていることが明らかになりました。逆に言うとその肩身の狭さを解消してあげることが喫煙者にとって共感できるポイントであり、今回の企画と合致していると確信が得られたんです。

船津:PR的な視点で言うと、メディアが取り上げる動機は「喫煙者だけではなく、世の中に対して必要な情報か」ということです。
それで言うと、「“AHA!チャンネル“サイト内に新たな動画を公開しました」というだけではパブリシティ獲得のハードルが高いですし、ネタ動画を制作したというニュースで終始してしまう。BATさんが実施した意識調査を軸に据えながら動画を紹介すれば、企業ごととして捉えられて意図しているメッセージも伝わりやすくなると考えてご提案しました。
高木さんがおっしゃる通り、「喫煙者が肩身を狭く感じている」というファクトをどう効果的に抽出するかという点に加えて、BATさんの姿勢もきちんと伝わるように高木さん・柴田さんとご相談しながら調査を設計していきました。

柴田:リサーチの結果をどう発表するか、かなり議論を交わしましたよね。
調査リリース発表後は、狙い通り「喫煙者の肩身の狭さ」をタイトルに、調査内容を記事化いただくケースが多くありました。キャッチーな動画で関心を引いた上で、私たちの伝えたかったことがメディアの方々に伝わっていると感じています。この点は、丁寧に対応くださったプラップさんのご尽力も多分にありました。

船津:「約9割の喫煙者が“肩身の狭さ”を感じている」というファクトは、僕たちが想定していた以上のメディアバリューがありました。喫煙者の多くがなんとなく感じているであろうことを、根拠となる数値で示しながら丁寧に言語化することが必要なんだと改めて感じましたね。

——動画公開後、社内やお客様からの反響はいかがでしょうか?

高木:具体的な数字は申し上げられませんが、PR施策によって確実に認知度が上がっていることはデータでわかっていて、プラップさんには感謝しています。
今回の施策では動画の拡散を狙い、ユーザーの方との親和性の高い『ロケットニュース24』さんとタイアップをしました。その記事を社内SNSにも投稿してみたところ、かなり反響があったんです。もちろん『ロケットニュース24』のファンもたくさんいましたし、動画を見た国内や海外の社員から個別に感想をもらったりもしました。

柴田:社内SNSは、通常のSNSのように社員がコメントできるんです。広報担当としても社内のメンバーが楽しんでもらえていることには嬉しくなりました。

高木:動画を目にした消費者の方からのポジティブなコメントも確認しています。ただ、たとえそのコメントが社内外問わずネガティブだったとしても、ある意味成功だったとも思っているんです。どうしてかというと、今までオーラルたばこがそこまでフィーチャーされていなかったから。やっぱりノイズを上げないと誰も振り向いてくれません。
ネガティブな声ばかりだと困ってしまいますが(笑)、否定的な声が一部あるのは当然です。その声にとらわれすぎずに動画を展開して、消費者のリアクションを確認することが非常に重要だと考えています。

——「新たなカテゴリーだからこそ、ネガティブな声やノイズにとらわれずに、反応を探っていく」。おっしゃる通り、新カテゴリー啓発においては重要な考え方ですね。
新カテゴリー啓発におけるマーケティングの考え方やPRの役割についてもう一歩踏み込んでお聞かせいただけますでしょうか。

高木:前提として、カテゴリーの訴求をする際に重要なのは、自社の製品に強みがあるのかどうかということです。強みがない製品のカテゴリーを広げても、マーケティングとしてはあまり意味がありません。幸い我々の製品は自信を持って消費者にお届けできるので、オーラルたばこのカテゴリー訴求は非常に理にかなったマーケティングだと考えています。
また、たばこ業界においてPRをマーケティングの手法として採用することはあまり多くありませんが、まだ世の中に広がる前の段階のオーラルたばこだからこそ、PRの効果が大いにあると判断しました。
新カテゴリー訴求に必要なのは、消費者の方々に「そのカテゴリーの製品が自分にとってベネフィットがある」と実感してもらうことです。企業として、製品情報を伝えることはもちろん必要ですが、どうやって自分ごとに置き換えてもらえるかということには非常に注意を払っていますし、PRとの相性もよいと考えています。

船津:自分ごと化を促す企画立案は、なによりもターゲットインサイトの深いリサーチが重要ですよね。

高木:はい。それって、発信するストーリーを正しく説明できることと言い換えられると思うんです。喫煙者にとって必要なこと、気になっているポイントをデータとともに明快に説明できれば納得感は高まりますし、動画を見た人にも説得力を与えられる。思いつきでの施策は非常に危険で、確かな情報を持ってストーリーを届けていくことが大事だと考えています。

船津:PR会社の立場から言うと、新カテゴリーの啓発PRの第一歩はプレスリリースや意識調査といったベーシックな活動から始めることが多いです。
でも、この仕事を通して、新しいカテゴリーの啓発においてはエモーショナルな部分も非常にカギとなると実感しました。
メディアも消費者もどう咀嚼していいのかわからない新しいカテゴリーを、まずエモーショナルな右脳的コンテンツで気づいてもらう。そのうえで、左脳的にデータで納得してもらう。さらに企業のプレスリリース発信を通じて社会ごと化していく。それぞれの視点を持ち合わせたアプローチが欠かせないと振り返っています。

柴田:パブリックリレーションズの中でもメディアリレーションズの観点から考えてみると、新しいカテゴリーは、メディアのマーケットサイズが小さいです。たとえば、加熱式たばこはガジェットに興味がある記者の方もいれば、たばこ市場を追っている記者の方もいて、大変大きなマーケットサイズがあります。
一方でオーラルたばこはガジェットでもないですし、まだ知られていないからこそ、たばこ市場動向を取材される記者の中でも興味を持つ方は多くない現状です。

船津:なるほど。メディアのマーケットサイズに注目するという視点が新鮮です。

柴田:オーラルたばこに興味を持ってくださるメディアだけに注力していてもPRとしてのマーケットサイズは広がりません。どう工夫するかはPRとして頭をひねらないといけないところだと感じています。

船津:新たなカテゴリーの訴求と聞くと、そのカテゴリーの製品を必要としているユーザーに対してまっすぐアプローチをすることが王道と考えられがちです。でも、PRにおけるカテゴリー訴求は、世の中の当たり前にしていくことが目的です。
商品カテゴリーと消費者の接点を見つけて、PRのマーケットサイズをいかに広げていくかという思考を持つことが大事だなと柴田さんのお話を聞いていて感じました。
オーラルたばこを「肩身が広くなる製品」と捉えると、これまで考えていた喫煙者像とはまた違った喫煙者像とインサイトが見えてくる。掘り下げれば掘り下げるほど深く、やりがいと夢のある仕事だなと改めて思います。

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みなさま、貴重なお話をありがとうございました。新カテゴリー啓発のような「新しい当たり前をつくる」仕事に取り組むときには、どうしても近視眼的に物事を見つめがちですが、ターゲットに寄り添いながらも客観的な視点、固定概念に捉われない視座を持つ必要性を感じる対話となりました。これはたばこ業界に限らず、どの業界に携わる方々にとってもヒントとなると感じます。

次回も高木さんと柴田さんとの対談をお送りします。テーマは「規制産業におけるPR」。業界ならではの規制だけでなく、賛否が分かれやすいたばこというカテゴリーならではのPRの工夫について語り合います。
後編もぜひご覧ください。どうぞお楽しみに。

▼後編記事はこちらからどうぞ。

https://note.com/prap_note/n/n30fe14e966f6





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