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2023年ドラマ『警視庁アウトサイダー』感想

2023年ドラマ『警視庁アウトサイダー』(監督/木村ひさし)観賞。
コメディタッチで描かれる刑事ドラマ。西島さんは元警視庁組織犯罪対策部(マル暴)に所属していたが刑事課に移動させられた架川英児役。架川と組むことになるのは、冤罪で収容されている父親の釈放の為、蓮見光輔と言う刑事になりすましている梶間直人(濱田岳さん)と警視庁副総監を父親に持ち、できれば事務職につきたかったとぼやきながら刑事課に配属された水木直央(上白石萌歌さん)。一見全く接点がないような三人が様々な事件を解決していくごとに共鳴していく姿が全9話のスピード感で構築される。

蓮見は、10年前に長野県春蘭市で起きた「銀座のホステス殺害事件」を追っていた。蓮見の父親、梶間優人刑事(神尾佑さん)は当時、歌川チカ(水崎綾女さん)が殺害された現場に偶然居合わせてしまったことで犯人に仕立て上げられてしまった。嘘の証言により控訴も取り下げられ、現在は留置所にいる。父親を冤罪に追いやった犯人は誰なのか。嘘までつかせて犯人を隠さなければいけなかったのはなぜなのか。その真実を追求するため別人の名前で警察官になった。
一方、架川もマル暴でロシアンマフィアを検挙する際、鷲見組に情報をリークしたと濡れ衣を着せられ「鷲見組の犬」だと誤解されたまま刑事課に移動になってしまったので再びマル暴に戻るため蓮見を使って点数稼ぎすることを考える。しかし架川のやり方は相手の弱みを握り、それをちらつかせて言うことを聞かせるという脅しのようなやり方だったので過去に弱みを握られている鑑識の仁科(優香さん)には舌打ちをされている。
新人の水木は最初こそ刑事課に行くのを嫌がっていたものの学生時代、演劇部だったことからそれを武器に積極的に囮捜査等を行い、始末書を書かされるほど熱くなる。やがて蓮見がなりすましであることを架川に突き止められ、水木にも知れることとなるが蓮見の事情を聞き、水木は特に気に留めることもなく軽いノリで受け止めたため、そのまま凸凹トリオで事件の捜査を進めて行く。

三人が担当する事件は本人たちの目的とは全く関係がないようで、身勝手な犯罪の多くには支えてくれる人物がいることを思い、いつしか蓮見と水木の心に義務とは違う正義のようなものが芽生えて行った。その裏で架川は元上司であり慕っている藤原(柳葉敏郎さん)から情報を得て、蓮見の事件にはもっと上層部にいる人物が関わっていると睨む。
コメディ色が強かった始まり方から一転、藤原が「鷲見組の犬」だったことが判明する。架川本人に知られ、洗いざらい話した後、自死しようとする藤原だが架川に説得され、出頭しようとした直後何者かに殺されてしまう。

その後、春蘭市に出向いた架川が命がけで得た情報で歌川チカ殺害には政治家の小山内祐一(斎藤工さん)と水木の父親である有働弘樹副総監(片岡愛之助さん)が深く関わっていることが濃厚になる。しかし後一歩のところで小山内に素性を知られた蓮見は交換条件を持ちかけられ、弱気になる。そんな蓮見を架川は一蹴し、真実を隠せば隠すほど抜け出せなくなるのだと架川は説く。最初から最後まで真っすぐで、師と仰ぎ、慕った亡き藤原から受け継いだものが架川の中に息づき、やがて芯から心を通い合わせた三人は鮮やかに連携し、事件は解決に導かれて行く。

木村ひさし監督の作品の特徴は小ネタが多く、過去に監督が関わった作品のパロディがあったりして、基本的には楽しく描かれるのですが、別の作品ではその部分が主張され過ぎていて散漫な印象になっている物もありました。そこは扱う物語との相性もあるのかな。この『警視庁アウトサイダー』とは相性が抜群でした。木曜日の21時枠のドラマなので、どの世代でも観やすく、色々詰め込まれているようで実はシンプルに主軸である事件を追って進み、その中で登場人物たちの関係が構築されて行くので無理なく感情移入できました。
後半、水木が父親である副総監を詰めて行き、巡査として初めて手錠をかけるシーン。相手が愛する父親だったことはどれだけの傷を娘に残すだろう。いつも明るい彼女が父親の腕の中で泣き崩れる姿は胸が痛くなった。蓮見役の濱田岳さんはその事情から冷徹さを纏った役ではあるものの終始態度は穏やかなので、10年間持ち続けていた感情を犯人にぶつけるシーンは凄まじく濱田さんの演技の重厚感があのシーンをより高めていた。同じ手錠でも、水木がかける手錠と蓮見がかける手錠の温度差は違う。見事な対比だった。

所で、このドラマは西島さんが『仮面ライダー BLACKSUN』を終えた後の1作目になりますが、政治家と刑事と冤罪の関係を思うと、どこかBLACKSUNへのアンサーのような気がしています。警察の本来あるべき姿は人間として忘れてはいけない部分、間違えたことをしたまま進むことは人間として許されないこと、それが架川の放つ「間違えたらごめんなさいだろう。だから俺たちは失敗した人間を許せるんじゃないのか」と言う印象的な台詞に集約されている。
西島さんが出演して来た作品と比較したり、色んな考え方ができるこのドラマにレッテルを張ってしまうのは憚られる。個人的にはコメディ要素よりも役者さんそれぞれの純度の高さが色濃く表れた作品だと思います。そして登場した役者さん全員にそれぞれの見せ場があり、すべてがなくてはならなかった。監督の大らかで温かな眼差しが見えるようなドラマでした。リアルタイムで観ていたので、時折SNSなどできつい意見も目にしましたが良し悪しを決めるのは自由だ。私はスカーンと突き抜けた曇りのない青空のようなこのドラマが大好きです。

そして、西島さん自身が演じたセルフパロディなども含め、後ろ歩きをしたり、どうしても流行りの言葉を使いたがったり若干ミーハーだったり血を見て白目を剥いて倒れたりと、これほどキュートな役を観ることができて、とても嬉しかった。やはり西島さんは私にとって、唯一無二の俳優さんであることに違いはない。

渋い番組宣伝用ポスター
第1話、架川(西島さん)が鮮やかに登場するシーン。

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