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映画「658㎞、陽子の旅」感想

すべては過ぎていく


父親の死をきっかけに20年ぶりに故郷の青森を目指すことになる陽子の旅

いとこの茂が口ずさんだ歌の記憶から父の幻影を見る

ひょんなことから置いてけぼりにされたパーキングエリアから
陽子は父の幻影と2人で故郷を目指す旅になる

おっかなびっくりのヒッチハイクで乗せてくれた立花という女性は
自分の話だけを延々とするシングルマザー、スッキリしたところで降ろされたところはトイレと自販機しかない寂れたパーキング

そのパーキングで出会った、訳ありには見えない明るさを持つ同じヒッチハイクで旅をしている(逃げている?)若い女性、小野田

あと1人しか乗れない車をつかまえて涙ながらに去っていく小野田のあとにやってきたのは自称ライターの若宮
正論という暴論で体を求められ、脅しのような文句に抵抗できずに体を許してしまう陽子

逃げ出すようにたどり着いたのは暗い海
激しい後悔と父親の幻影からのビンタで泣き崩れる
そのまま寝てしまった陽子を起こしたのは
寄せては返す波

雨が降る中、親切な老夫婦に拾ってもらい
北を目指す陽子
無口な夫に父親の影が重なる
次の車も手配してくれた老夫婦と別れのときには
思わず涙を流し、握手をする

乗せてくれたのは震災を機に、こちらに越してきたという
神戸出身の八尾

流れていく景色は震災から復興を目指す風景

道の駅で降りた陽子は
父親の出棺の時間が迫るなか焦る

なかなか見ず知らずの人間を乗せてくれる人はいない

自宅では声がほとんど出なかった陽子は
亡き父に会いに行くため震えた大声でヒッチハイクをお願いする

乗せてくれたのは中学生の少年、とその父親
しかし、出棺の時間がきてしまう
そのとき陽子は、静かに自分のことを話し出す
涙ながらに、さっき会ったばかりの見ず知らずの親子に
自分が青森から上京した話、父親との関係、ここまで自分を乗せてくれた人たちに感謝の言葉を吐露する

雪が舞うなか、呆然としたまま実家に到着する陽子
玄関先で遊んでいた姪が陽子に気づく
家から出てくるいとこの茂
「出棺待ってもらってるから」


太宰治「人間失格」の大庭葉蔵は、ただいっさいは過ぎてゆくと言った

上京後、音信不通だったこと
父親が死んだと聞いても帰るべきかどうか逡巡したこと
最初に乗せてくれた立花
ヒッチハイクをしていた小野田
下衆野郎の若宮
親切な老夫婦、八尾
陽子の独白を静かに聞いてくれた親子とバイクの兄

砂浜で明かした夜、寄せては返す冷たい波
東日本大震災から復興しようとする街並み

これらすべては過ぎていく
陽子が助手席から見る景色は過ぎていく

そして実家の父親の葬儀にたどり着く

すべては過ぎていく
目的地は通過点だったのだ

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