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短い物語P&D『DRIVE ALL DAYS』

私は前を走る車のドライバーを少しだけ知っていた。
カスタマイズした心地よいシートに深く座り、両手をハンドルに添えている男。
彼は縦列駐車を苦手とするペーパードライバー。
車好きだが運転は巧いとは言えない。
自分で整備ができるほどの知識は無く、タイヤ交換ができる程度。  
車は見た目が大事。
そんな男が運転するクーペが荒野のハイウェイを走っていた。
景色の邪魔になるくらい紳士的。
制限速度は守っていたが、都会なら煽られても仕方ないスピードだった。
やがて数台の車に追い越された。
私は一定の距離を保ちながら、男の後ろを走り続けた。
よく見ると、男はハンドルを握っていない時があった。
ちゃんと前方を見ていない時もあった。
それでもコンビニの駐車場では行儀善く振る舞い、はみ出すことなく綺麗に並べた。
私もそこで休憩を取った。

男は短い休憩が終わると再びハイウェイへ。
ほぼ同時に私もコンビニを後にした。
二台は変わらず低速走行ではあったが、男の左手にはスマフォが握られていた。
運転中に使用したらルール違反になる。
やはり男は運転に集中しているようには見えなかった。
それでも蛇行することはなく、一定のスピードで走行している。
少し不安になりながら男の行動に注目していた時、私が乗る車を抜き去った車があった。
側方間隔が近過ぎると感じた。
メッセージを残しているかのよう。
私は一瞬だけアクセルを踏み込みそうになったが、思い止まった。

私は特殊車両の後部座席に座っていた。
そこにはハンドルとディスプレイがあった。
今はカメラが映すリアルタイムの映像見ながら仕事をしている最中。
だから抜き返さなかった。
いや、抜き返せない。
なぜなら、クーペを抜き去った車は、いま自分が乗っている車だからだ。
飛び出したフェンダーと丸型のヘッドライトというクラシックな装い。
その中でクーペを遠隔運転しているのが私。
自動運転のレベルは進化しているけれど、裏では様々な実証実験が行われている。
どうやらあのドライバーは、自動運転を信頼しているらしい。

未来では、やらなくなることが増えていて、いつのまにかできなくなっているだろう。
おそらく運転することは無くなるから、ドライバーは世界から消滅。
だから搭乗者は愚かでも、車は賢いという安易な予想。
人工知能は煽らないし競争もしない。
言わばゴールドライセンスの上を行く資格。
きっと交通ルールも変わっているはずだ。 
レースゲームは卒業した私だが、まだ反射神経は衰えていない。 
車庫入れも縦列駐車も大丈夫だから、なんとかAIに負けない人生を走ろうと思っている。  
 ~終わり

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