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黄昏にいつもいる

気づけば、夕方だ
駅から自宅へと帰るいつもの通りを自転車を引きながら歩いていた
白昼夢を見ていたかのようにぼんやりした頭の中をスッキリさせたい
寒風で冷えた手を額にあてがった
ひんやりとした感覚で、意識が澄んでくる

あ、そうか…部活で遅くなったんだ

テニス部の連中と練習そっちのけでお喋りしていたら6時を軽く過ぎていた
帰ったら宿題もしなきゃいけないし、サプの散歩もしなきゃならない
お母さんはなんだかんだ理由をつけてサプの散歩をしたがらない…面倒くさがりの権化だ

早く帰ろっと

自転車に跨がろうとして、違和感に気づく
チェーンが外れていた
…そうだ、だから乗ってなかったんだっけ
我ながらボケている
仕方なし、足を戻し自転車を引く

にしてもこの通り、こんなに人通りなかったっけ

全体が眩しいくらいのオレンジに輝いて、チラホラ見える人影は塗りつぶしたように真っ黒
背中をまるめた老人らしき影も、携帯を見ながら歩いているサラリーマンらしき影も…表情すらわからない
逆光のイリュージョンで、黒塗り人間になってしまった

またぼんやりしちゃった…帰らなきゃ

足早になる
黒子達を追い抜き、通りぬけ、信号を待つ

西日に向かわなきゃならないのが苛つく
今日はいやに光が目に刺さる…

やっと自宅が見えてきた
沸き上がる安堵に、不安が忍び込む

自宅…自宅だ
二階建ての、ありふれた自宅…あれ…

屋根って青だったっけ
あれ?自転車…うち赤ちゃんいないのに、なんでベビーシートついてるんだっけ?

あれ…ここ、うちじゃない…?

キイ…玄関の扉が開いた
見知らぬ少女が立っていた

また、来ちゃったんだね

少女が私を見て言った

うちに入ったらダメだよ
ここから先は入らないで

え?
やっぱり家を間違えたの…

少女はじっと見つめたあと、ため息をついた

お姉さんね、もう死んでるんだよ
たぶん…事故
その自転車、めちゃくちゃだから車に跳ねられたんじゃないかな

少女の言葉が私の身体をぬけていく

そうなの…?
わたし、死んでるの?

自転車を見下ろしたら、ひしゃげててどうやっても乗れそうになかった
自転車を掴む手は血だらけで指も二本なかった

そうか…死んでたのか…
私の家族、どこいったんだろ…

少女は首を振った

引っ越したんだよ、だからお家を壊してそのあと私たちが住んでるの
前も言ったけど、ここはもうお姉さんの場所じゃないんだよ
だからもう来ないでね

淡々した喋りが、これは夢じゃないんだな、と告げてくる

わかった、ごめんなさい
もう来ない
またわかんなくなって、来ちゃったらごめんね

自転車を引きずりながら、引き返す
後ろから少女が

さよなら
もうあっちに逝けるといいね

と声をかけてきた

あっち…あっちってどっちだろう
…学校…学校に戻ろうかな
戻ったら、頭がスッキリして
行かなきゃいけない場所を思い出すかも…
帰る場所を…

私、ずっとずっと歩いてる気がするな
ずっとずっと…夕方のなかを…歩いてる気がする…




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